「はやぶさ2」:リュウグウの含水鉱物探査と熱放射観測

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JAXA NIRS3サイエンスチーム 岩田 隆浩 / TIRサイエンスチーム 岡田 達明

NIRS3によるリュウグウの含水鉱物探査 ~地球の水の起源を求めて~

「はやぶさ2」が探査する小惑星リュウグウは、C型というスペクトルタイプの小惑星です。C型小惑星は、小惑星帯の中でも外側の、水が氷として存在できる領域に多くが分布しています。リュウグウもこの領域で誕生した後に、地球に近づく現在の軌道に移動したと考えられています。一方、C型小惑星に似たスペクトルを持つCコンドライト(炭素質の隕石)は、含水鉱物や層間水という形で水を含んでいることが知られています。これらのことからC型小惑星は、小惑星帯の外側に存在する水を地球に運んだ有力な候補と考えられています。もしリュウグウに水の存在が証明できれば、地球の水の起源を探る有力な手掛かりとなります。

「はやぶさ2」に搭載された近赤外分光計NIRS3(ニルス・スリー)は、波長1.8~3.2 µmの近赤外線を分光観測して、3µm付近の水の吸収帯を測ることができる装置です。もしリュウグウの表面に水が含水鉱物等の形で存在すれば、太陽光のうちの波長3µm付近の赤外線が水酸基や水分子によって吸収され、他の波長と比べて暗く反射されます。さらに波長毎の吸収の深さは、含まれる水の量(水質変成度)や過去の最高温度(熱変成度)によって変化することから、リュウグウ全体を観測すれば、リュウグウの水の総量や温度の履歴を推定する手掛かりになります。また含水鉱物の分布は、「はやぶさ2」がタッチダウンしてサンプルを拾う場所を決めるための重要な指標になります。

NIRS3の開発では極力質量や電力を抑えながらも十分な性能を発揮できる装置を目指しました。このために、冷凍機を搭載しないでラジエータによる熱放射で温度-85℃を達成し、その環境で十分な性能を発揮するインジウム・ヒ素(InAs)検出器を採用しました。「はやぶさ2」打上げ前の地上試験では、Cコンドライトなどの反射スペクトルを測定して、含水鉱物中の水を検出できることを確認しました。また「はやぶさ2」打上げ後の地球スイングバイでは、地球には大量の水が存在し月にはほとんど水がないことを、きちんと見分けています。そして今年6月のリュウグウ到着で、太陽系の新たな知見の幕開けをもたらすことが期待されています。

NIRS3サイエンスチーム 岩田 隆浩(いわた たかひろ)

振動試験中のNIRS3分光計ユニット

振動試験中のNIRS3分光計ユニット。上面がラジエータ、左側が開口部。

 

●TIRによるリュウグウの熱放射観測

「はやぶさ2」は中間赤外線(波長8~12 µm)のカメラTIRを搭載し、小惑星リュウグウの熱撮像を行う、小惑星のサーモグラフィだ。小惑星リュウグウは自転にともなって昼は太陽光の加熱、夜は放射冷却によって、昼夜間で温度較差が生じる。その温度の変動幅や、最高温度に達する時刻の遅れから、小惑星表面の物理的な状態(熱慣性)を上空から非接触で調べることができる。一般に細粒の砂だと熱慣性は低く、温度較差は大きく時間遅れは小さい。逆に粗粒ほど熱慣性は高く、温度較差は小さく時間遅れは大きい。

熱放射観測は、惑星探査の初期から定番観測のひとつだ。周回機が直下点を連続的に計測しつつ、地域分布を調べるのが一般的だ。「はやぶさ2」は周回ではなく、ホームポジションに滞在する方式なので、TIRでは小惑星の半球をパシャリと2次元撮像する。TIRは「あかつき」搭載中間赤外カメラLIRで開発された、2次元ボロメータの技術的進歩によって実現された。

TIRは、科学とミッション遂行の両面で重要な役割を担う。科学面は、リュウグウの形成過程に関わる小惑星表層構造の探査である。表層が岩盤から砂礫(レゴリス)のうち、どのような粒径の物質で覆われ、またどのように形成されたかを調べる。クレータの底面の観測から、小惑星の表層だけでなく内部まで調査する。また、小惑星イトカワと同様に巨大な岩塊が表層に点在していれば、リュウグウの母天体の内部で熱変成を受けたかつての内部物質を調べることができる。

ミッション遂行の面では、探査機が安全で、かつサンプル収率の高い地点の選定である。サンプル採取するとき、探査機が小惑星表面の温度環境に耐えられるかどうかをTIRの観測データを基に事前確認する。また、探査機が転倒するリスクを回避するため、岩塊の存在度の低い地域を選定する。さらに、サンプル回収収率のよい、平均粒径1mm以下の地域をなるべく選定する。TIRが「はやぶさ2」の科学成果とミッション遂行に貢献する日はもう直ぐだ。

TIRサイエンスチーム 岡田 達明(おかだ たつあき)

TIRのフライト品

TIRのフライト品。

【 ISASニュース 2018年6月号(No.447) 掲載】

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