世界標準となる高速炉用維持規格を開発

ad
ad

~運転中の高速炉の性能維持や検査が合理的に~

2018-1-12 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 原子力施設が運転開始後も必要な性能を維持していることを確認するための基準が維持規格であり、設計段階においてもアクセス性等を考慮した設計にするために非常に重要である。
  • 高速炉の運転経験は世界的にもあまりないため、高速炉用の維持規格は整備されていなかった。このため原子力機構では、世界標準となることを目指した高速炉用の維持規格を開発した。この規格は、確率論的評価を活用することで運転期間中の検査方法や頻度を柔軟に設定できることが特徴である。
  • 本規格は2017年5月にASME規格として承認に至った。ASMEでは現在、本Code Caseを発展させ、既存軽水炉を含むあらゆる炉型に適用可能な維持規格の開発を進めている。

国内の原子力発電所では、日本機械学会(JSME)が策定している「発電用原子力設備規格 維持規格」に、供用期間中検査として実施すべき検査や、検査結果の評価手法等が規定されており、活用されています。これによって原子力発電所については、運転開始後も必要な性能が維持されています。しかし、この規格の対象は軽水炉のみであり、高速炉で実施すべき供用期間中検査を規定した維持規格はありませんでした。海外に目を向けても、アメリカ機械学会(ASME)の「ボイラー及び圧力容器規格」に、ナトリウム冷却型高速炉への適用を想定した「液体金属炉用維持規格」があるだけで、しかも同規格は、アメリカでの高速炉開発プロジェクトの中断以降30年以上未完のまま改定されておらず、使用不可能な状態でした。一方、高速炉用維持規格は、運転中だけでなく、設計開発段階においても検査のためのアクセス性等を考慮した設計を実現するために非常に重要であり、高速炉の実用化に向けて維持規格の開発が喫緊の課題となっていました。

そこで原子力機構では高速炉関連規格の世界標準化活動の一環として、世界の約100ヶ国で利用され、世界の中心的規格であるASME規格としての承認を目指し、高速炉の維持規格開発に取り組みました。規格開発に当たっては個別機器の破損確率に基づき運転期間中検査の方法と頻度を柔軟に選択可能にするコンセプトを新たに構築するとともに、世界初となる原子力施設の安全目標から個別機器の目標とする破損確率を導く手法等の必要な技術の開発を行いました。さらに、「もんじゅ」の代表的機器を評価し、機器の安全上の重要性に立脚しつつアクセス性等を加味して高速炉に最適な検査方法と頻度を導き出しました。

本規格は平成29年5月にASME規格Code Case N-875として承認されました。その後ASMEでは、本Code Caseを発展させ、80年運転を目指した既存軽水炉を含む、高温ガス炉、小型モジュール炉(SMR)等、あらゆる炉型に適用可能な維持規格の開発を進め、現在、規格案の詰めの段階に至っています。

【研究開発の背景と目的】

まず、高速炉の維持規格としてあるべき概念として、既存炉の手法に捉われることなく高速炉の特性を生かすため、「機器の構造信頼性が目標値を満足する条件のもとで供用期間中検査の手法を柔軟に選択できること」を基本論理として設定しました(図1)。また、この実現のために必要な、①構造信頼性の目標値を導く手法、②構造信頼性を解析的に評価する手法を新たに開発しました。

構造信頼性の目標値を導く手法では、確率論的リスク評価(PRA)手法における機器の故障確率とプラントの安全に関わる指標(炉心損傷頻度(CDF)等)の関係に着目しました。通常のPRAでは、機器の故障確率が入力データであり、プラントの安全に関わる指標が出力データですが、本研究では、PRA手順を逆方向に利用することによって、プラントレベルのCDF等に関する目標値から機器レベルの構造信頼性に関する目標値を導出することを可能にする画期的な手法をまったく新たに開発することに成功しました(図2)。

また、構造信頼性を解析的に評価する手法に関しては、基本手順(図3)とともに、高速炉の代表的な破損モードであるクリープ疲労について、亀裂の発生、進展、不安定破壊までを含めた詳細な数学的モデルの提示、評価に必要な入力条件の整理等を行いました。信頼性評価の構造規格への体系的な導入は、ASMEを含めても前例がほとんどないものです。

これらの開発手法を用いて、高速原型炉「もんじゅ」の代表的機器を評価し、機器の安全上の重要性に立脚したうえで、アクセス性等も加味する形で最適な検査要求を導きました。例えば、炉心支持構造については、構造信頼性が十分高く、ASME「液体金属炉用維持規格」で従来必要とされていた目視検査は不要であることを示しました。

上記の成果を規格化するために、JSMEおよびASMEに働きかけ、平成24年にASME規格委員会にJSMEとASMEの共同設置によるタスクグループが設置されました。原子力機構職員(浅山泰 高速炉安全技術開発部部長)が同タスクグループの主査を務め、ASME規格委員会における議論をリードし、平成29年5月に、Code Case N-875 Alternative Inservice Inspection Requirements for Liquid-Metal Reactor Passive Componentsとして、規格化に至りました。

図1 ASME Code Caseの基本論理

図2 構造信頼性の目標値を導く手法

図3 構造信頼性を解析的に評価するフロー

【今後の期待】

原子力に関する活動において信頼性評価を活用することの重要性が認識される中で、信頼性評価を活用し、高速炉の特性を生かした供用期間中検査を、世界のデファクトスタンダードであるASME規格において規格化することができました。現在、JSMEでも、本コードケースを参考にして、高速炉用維持規格の新規策定に向けた審議が行われています。どのような供用期間中検査を実施するのかは、検査性の考慮の観点から設計にも大きな影響を及ぼすことから、供用段階だけでなく、設計開発段階でも非常に重要です。国内規格が整備されることにより、高速炉の実用化を大きく前進させることができると期待されます。

さらに、ASMEでは、既存軽水炉の60年から80年への長寿命化も視野に炉型を問わず適用可能な維持規格の開発が進められていますが、同規格においても、本コードケースの基本論理を適用することが検討されています。同規格が発刊されれば、原子力機構で開発した成果が、高速炉だけでなく世界中のあらゆる炉型の供用期間中検査に適用され、原子力の発展に貢献することが期待されます。

【掲載書誌情報】

An International Code, 2017 ASME Boiler & Pressure Vessel Code, Code Cases: Nuclear Components Supplement 1

用語説明

1) ASMEボイラー及び圧力容器規格

原子力設備を含むボイラーや圧力容器の構造健全性を確保するために必要な設計や材料、検査等に関する要件を規定した規格。初版は、1914年に発刊されました。現在、様々な言語に翻訳され、世界中の約100カ国で利用されています。

2) Code Case:

既にある規定の代替規定やこれまでにない新しい検査手法等が早急に必要な場合等に、規格本体とは別に発刊される規格。Code Caseは、ASMEでの承認が得られたら即時、有効となります。

参考部門・拠点: 次世代高速炉サイクル研究開発センター

 

2000原子力放射線一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました