高性能クライオ吸着ポンプによる高効率な排気を実現-真空容器の中でダイバータに集めた粒子を排気-

ad

平成29年12月6日大学共同利用機関法人 自然科学研究機構、核融合科学研究所

大型ヘリカル装置(LHD)では、真空容器の中をポンプで排気した後に、水素ガスを入れてプラズマを作っています。排気は、真空容器の外に配置されたポンプ(「主真空排気ポンプ」と呼びます)で行いますが、真空容器の中にも、「クライオ吸着ポンプ」と呼ばれる排気ポンプが設置されています。クライオ吸着ポンプは、極低温に冷却した活性炭に水素ガスを吸着して排気するものです。核融合科学研究所はメーカーと共同で、革新的な製造方法によって、真空容器の中に設置することができる高性能なクライオ吸着ポンプを開発しました(詳細については、バックナンバー293をご参考ください)。今回は、最新の実験によって得られた、高性能クライオ吸着ポンプの排気性能を紹介します。

まずは、なぜ、真空容器の中に排気ポンプが必要なのかを説明しましょう。LHDでは、不純物やプラズマになりそびれた燃料の水素ガスをプラズマから離れたところに効率よくひと集めにするため、真空容器の中にダイバータとよばれる装置を設置しています。しかし、ひと集めにした水素ガスの粒子は、そのままではいずれ周りに散ってしまい、一部はプラズマに戻っていきます。これを粒子リサイクリングといいます。粒子リサイクリングを低くする(つまり、ダイバータからプラズマへと戻っていく粒子を少なくする)と、プラズマの性能が向上したり、プラズマの密度が制御しやすくなったりすることが分かっています。粒子リサイクリングを低くするためには、ダイバータでひと集めにした水素の粒子を、しっかりと排気しなければなりません。高効率の排気を実現するためには、真空容器の中のダイバータに高性能な排気ポンプを取り付ける必要があるのです。

そこで、研究所では、ダイバータに設置することができる高性能クライオ吸着ポンプを独自に開発しました。LHDでは、ドーナツ形状をしたプラズマと真空容器の壁の間にダイバータが設置されており、ドーナツの内半径側にあるダイバータにクライオ吸着ポンプを取り付けました。第19サイクルプラズマ実験(2017年2月8日から8月3日)が始まる前に、試験用の水素ガスをLHDの真空容器の中に入れてクライオ吸着ポンプの排気性能を試験したところ、第18サイクル時に比べて、約7倍の排気速度が得られていることが分かりました。この速度は、LHDの主真空排気ポンプの排気速度に迫る値です。また、排気容量は約15倍向上していることが分かりました。この排気容量は燃料供給用の固体水素ペレット20,000発分に相当します(ペレットとは小さな氷の粒のことで、LHDでは、燃料供給の方法の一つとして固体水素ペレットを用いています)。これはLHDの高密度プラズマ実験で使用される固体水素ペレットの約20日分です。このように、排気速度、排気容量ともにプラズマ実験に貢献できる値であることを確認しました。

第19サイクルプラズマ実験では、これらの高性能化されたクライオ吸着ポンプを用いてプラズマ実験を行いました。その初期結果として、従来と同じ燃料の供給条件下では、クライオ吸着ポンプによってプラズマの密度が低くなること、また燃料供給を停止するとプラズマ密度の減少する速度が速くなることを観測しました。これは、ダイバータに取り付けたクライオ吸着ポンプの高効率な排気効果により、ダイバータからプラズマへと戻っていく粒子が少ない状態、いわゆる「粒子リサイクリングが低い状態」が実現できていることを示しています。ですから、プラズマの性能向上にも寄与していると推測されます。今後、クライオ吸着ポンプが、プラズマの閉じ込め性能に与える影響や、プラズマ密度の制御性について詳細に調べていく予定です。

以上

図1:LHDの排気試験結果。四角は高性能クライオ吸着ポンプ無し(第18サイクル実験)の場合、丸はダイバータに高性能クライオ吸着ポンプを取り付けた場合(第19サイクル実験)の排気速度を示します。高性能クライオ吸着ポンプによって、排気速度が約7倍に増加しました。

図2:第19サイクルプラズマ実験で得られた、実効的粒子閉じ込め時間の密度依存性。実効的粒子閉じ込め時間が短いことは、燃料供給停止後のプラズマ密度の減少速度が速いことを意味しています。丸がクライオ吸着ポンプ有りのとき、四角がクライオ吸着ポンプ無しのときです。

2001原子炉システムの設計及び建設
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました