世界初、光ICとLSIを一体集積可能とする3次元光配線技術を開発

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次世代標準112Gb/sの高速光伝送に対応し、大幅な省電力化

2021-07-02新エネルギー・産業技術総合開発機構,技術研究組合光電子融合基盤技術研究所

NEDOが進める「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」で、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は通信波長帯の光信号を低損失で伝送できる光IC・光ファイバー間の3次元光配線技術を世界で初めて開発し、試作サンプルで次世代標準である毎秒112ギガビットの光信号を80℃超の高温環境下で伝送し、有用性を実証しました。

3次元光配線技術を活用することでLSI(大規模集積回路)から光ICまでの電気配線の距離を極限まで縮めた一体集積ができるため、先行技術と比較して30%~40%の大幅な電力量削減が見込まれます。

PETRAは、本年7月3日~7日に開催されるアジア最大級の光通信関連の国際会議「OECC(Optoelectronics and Communications Conference)2021」で、本成果を発表します。

1.概要

人工知能(AI)やIoTなどの急速な普及によって、データセンターや高性能コンピューティングの消費電力が増大する中、省電力化などを可能にする光配線化に向けた開発が加速、近年は光伝送の高速大容量化のニーズが高まっています。そこで高速大容量光伝送を低消費電力で実現しようと、LSI(大規模集積回路)とシリコンフォトニクス※1による光IC※2を統合したコパッケージ※3が注目されています。

このため2020年末には毎秒112ギガビットの高速光信号で動作するコパッケージの実用化を加速するための標準化議論が開始されています。しかし、現在のコパッケージで採用が検討されている、複数のモジュール型の光ICをLSIから離れた基板端面に電気配線で接続する方式(図1左上)では、LSIと光IC間の電気配線が長いことで消費電力が増大し発熱が増えるため、毎秒51.2テラビット4の処理が限界だといわれています。従って毎秒51.2テラビット処理の低消費電力化とさらなる高速処理のための新技術が求められていました。

そのような背景の下、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発※5」において、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)はこれまで、光ICと光ファイバーを光接続する高精度光実装技術の開発に取り組んできました。そしてこのたび、通信波長帯の光信号を低損失で伝送できる光IC・光ファイバー間の3次元光配線技術を世界で初めて開発しました。また、試作サンプルで次世代標準である毎秒112ギガビットの光信号を80℃超の高温環境下で伝送し、その有効性を実証しました。この3次元光配線技術により光ICをLSIの直下に配置できるため(図1左下および右)、LSIから光ICまでの電気配線の距離を極限まで短くした一体集積が可能となり、現在研究開発されているコパッケージと比較して30%~40%の大幅な電力量削減が見込めます。

PETRAは、本年7月3日~7日に開催されるアジア最大級の光通信関連の国際会議「OECC(Optoelectronics and Communications Conference)2021」で、本成果を発表します。

世界初、光ICとLSIを一体集積可能とする3次元光配線技術を開発

図1 3次元光配線技術の概念図

2.今回の成果
【1】3次元マイクロミラーの開発

導波路を通過する光の断面積は、光ICを構成するシリコン光導波路※6中とポリマー光導波路※7中で10倍以上異なります。また両者の屈折率も大きく異なるため、通信波長帯でそのまま接続させると大きな光損失が生じてしまいます。このため、接続部分には光のビーム形状を変換させる技術が求められていました。今回、シリコン光導波路からの出力光に対して、垂直方向に反射させる非球面ミラーを基板上に形成することによって光のビーム径を最適に制御し、さらに上部の45度ミラーと併用することで、光の経路を3次元的に自在に制御した上でポリマー光導波路へ接続する、3次元光配線技術を用いたマイクロミラーを開発しました(図2)。

今回開発した3次元マイクロミラーの画像

図2 今回開発した3次元マイクロミラー

【2】高温・高速動作の実証

今回開発した3次元マイクロミラーは熱膨張係数※8が2桁異なるシリコンとポリマーを用いているため、高温動作における影響が懸念されていました。また、高速光信号ではシリコン光導波路、マイクロミラー、ポリマー光導波路間の多重反射などによって波形が劣化する可能性もありました。このため、高温下で高速光信号による動作検証を行いました。

まず25℃において、コパッケージの次世代標準としても想定されているPAM4(4値パルス振幅変調)方式※9を用いた、1チャンネルの伝送レートが毎秒112ギガビットの光信号を試作サンプルに対して光伝送させ、信号波形の劣化がないことを確認しました(図3中央)。次にデータセンターの運用で必要とされる85℃という高温下でも実証を行い、目立った信号波形の劣化なしに光伝送できることを確認しました(図3右)。これにより、今回開発した次世代コパッケージの有効性を実証しました。

試作サンプルにおける毎秒112ギガビット・PAM4高速光信号の伝送結果の画像

図3 試作サンプルにおける毎秒112ギガビット・PAM4高速光信号の伝送結果

3.今後の予定

今後PETRAは本事業で今回の成果を活用し、データセンターおよびコンピューター内で光回路を実装し、LSI間の情報伝送速度の高速化と低消費電力化を実現します。また本事業終了後は、さらなる多チャンネル化や波長多重化への対応を検討し、LSIと光ICの一体集積化技術の開発をすすめ、毎秒50テラビットの処理が可能なコパッケージの研究開発を行います。これによりデータセンターのCPUやサーバー内信号の光伝送化を実現し、大幅な電力量削減を目指します。

【注釈】
※1 シリコンフォトニクス
シリコン電子回路の製造に用いる相補型金属酸化膜半導体(CMOS)製造技術と設備を使って、光デバイスを製造する技術です。安価で高集積化された光デバイスの量産を可能とする技術として期待されています。
※2 光IC
シリコンや化合物半導体などの単結晶の基板上に光導波路、光変調器、半導体レーザーなどの光学素子を集積化した回路です。
※3 コパッケージ
電気的な入出力の帯域・電力限界を克服するために、LSIと光ICを同一基板上に共存させる技術です。
※4 毎秒51.2テラビット
51.2テラビットを実現するためには512レーン×毎秒112Gbの光送受信が必要となります。第一世代のコパッケージでは512レーンの電気配線を50mm程度引き回す必要があるため、消費電力が大きくなり、51.2テラビットが限界となります。
出典:Mark Filer (Microsoft, USA), “Motivators and Requirements for CPO at Microsoft”, ECOC2020 workshops, WS4
※5 超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
事業期間:2013年度~2021年度
事業紹介ページ
※6 シリコン光導波路
光伝送のための光ファイバーの材質は一般的に石英ガラスが用いられていますが、石英ガラスよりも強く光を閉じ込めることが可能なシリコンを光の伝送路にすることで非常に小さなサイズで光の制御が可能になり、光デバイスの大幅な小型化・低消費電力化が実現できます。
※7 ポリマー光導波路
光に対して透明で適切な屈折率を持ったポリマー材料を用いて作製された、光通信用のシート状または板状の構造を持つ伝送路です。
※8 熱膨張係数
温度を1℃変化させたときの、長さの相対的な変化量です。
※9 PAM4(4値パルス振幅変調)方式
Pulse-amplitude modulation(4値パルス振幅変調)の略号で、2ビットのデータ(00、01、10、11)を4つのアナログレベルのパルス信号として伝送する強度変調方式です。1ビットのデータ(0、1)を2つのアナログレベルのパルス信号として伝送するNRZ(非ゼロ復帰)符号と比較して、情報量を2倍に増やすことができます。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO IoT推進部 担当:栗原、豊田
PETRA 光エレクトロニクス実装研究推進部 担当:中田

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:橋本、坂本

0404情報通信
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