2020-06-11 国立天文台
左:棒渦巻銀河NGC 2903とNGC 4303銀河の観測例。上段は、波長1.2マイクロメートルの画像(星の分布)を疑似カラーで表したものと、一酸化炭素の電波輝線の等高線(分子ガスの分布)。下段は、一酸化炭素ガスの速度場。銀河は回転しており、観測者に対して近付いている成分(青色)と遠ざかっている成分(赤色)が分かる。(クレジット:上段の疑似カラー:2MASS J-band, Jarrett et al. 2003、上段の等高線および下段:COMINGプロジェクト)
右:野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡。(クレジット:Dragan Salak) オリジナルサイズ(1.2MB)
星生成の材料である分子ガスは、銀河がどのように成長してきたかを考える上で重要な存在です。銀河内の分子ガスの運動の様子をつかむには、電波での観測が必要不可欠となります。今回の研究では、活発に星生成を行なっている渦巻銀河に着目し、その内部の分子ガスの運動を詳しく調べました。その結果、渦巻銀河の中でも、中心部分に棒状構造を持つ棒渦巻銀河と持たない銀河との違いが明らかになってきたのです。 棒渦巻銀河の棒状の構造部分は主に古い星で構成されていて、一般的にこの部分にある星やガスは銀河全体とは異なる独自のパターン速度で回転運動をしています。渦巻銀河では、ほとんどの分子ガスは銀河中心を周回する円運動をしていますが、棒渦巻銀河では、銀河中心に向かう運動など円運動とは異なる分子ガスの流れも考えられます。
国立天文台をはじめ、北海道大学、筑波大学といった多くの大学の研究者で構成された研究チームは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡を使って多くの近傍銀河を観測しています。今回の研究で、そのうちの20の渦巻銀河のガスの運動の様子を詳しく解析した結果、棒渦巻銀河の棒状の構造内において、円運動とは異なる大きな速度成分が存在することを発見しました。さらに特徴的なガスのパターン速度を求めたところ、棒状の構造が大きな銀河ほどゆっくりと回転していることも示唆されたのです。
国立天文台は、45メートル電波望遠鏡で得た観測データを次世代の研究の土台として残すことを目的とした「レガシープロジェクト」を、2014年から2017年にかけて進めてきました。今回の成果はその一つである「COMING(カミング)プロジェクト」によるものです。
この研究成果は、Salak et al. “CO Multi-line Imaging of Nearby Galaxies (COMING). VII. Fourier Decomposition of Molecular Gas Velocity Fields and Bar Pattern Speed”として、2019年12月に出版された『日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』の特集号「野辺山45m電波望遠鏡:レガシープロジェクトとFOREST受信機」に掲載されました。