2018/12/14 国立天文台,慶應義塾大学
慶應義塾大学の大学院生の岩田悠平氏と、岡朋治教授を中心とした研究チームは、VERAを用いて中間質量ブラックホール(※1)候補天体を含む分子雲CO-0.40-0.22の方向に存在する水メーザーの精密距離測定に成功しました。
中間質量ブラックホールは、「銀河の中心に存在すると考えられている超大質量ブラックホール(※2)がどのようにして作られるのか?」という天文学における難問を解決するために非常に重要な役割を果たすと考えられています。VERAによるCO-0.40-0.22の測定結果は、この天体が中間質量ブラックホールのような高密度天体が関係して作られた説を支持するものとなりました。
CO-0.40-0.22は、天の川銀河の中心近くに存在する天体で、非常にコンパクトでありながら大きな速度幅を持つHVCC(High Velocity Compact Cloud)と呼ばれる種類の分子雲です。HVCCが作られる原因としては、中間質量ブラックホールのような高密度天体の他に、速度が異なる2つの分子雲同士の衝突現象など様々なものが考えられています。研究チームは、この分子雲同士の衝突現象に着目して観測を行いました。
CO-0.40-0.22のそばには視線速度が約+20 km/sの低速度の分子雲(図1)があり、その分子雲には水メーザーやメタノールメーザーなど星形成が活発に行われていることを示す現象が観測されています。この低速度分子雲は、見かけ上はCO-0.40-0.22の近くにありますが(図1(a))、速度は50-100 km/sほど異なっており(図1(b))、実際に同じ距離にあるかどうかは年周視差測定などの方法によって測ってみなければわかりません。そして、もしもこの低速度分子雲がCO-0.40-0.22と同じ距離にあり、衝突現象が起こっているとすれば、現在考えられている高密度天体によるHVCCの形成シナリオに修正が迫られることとなります。
図1:(a)HCN分子からの電波放射分布。(b)縦軸に視線速度を使ったプロット。CO-0.40-0.22と低速度分子雲が同じ方向で異なる速度に存在していることがわかります。
研究チームは2015年11月から2017年1月にかけてVERAを用いてこの低速度分子雲に付随する水メーザーのVLBIモニター観測を実施しました。その結果、低速度分子雲は、銀河系中心に存在するCO-0.40-0.22とは異なり、より手前側の銀河系円盤部に存在することがわかりました(図2)。つまり、視線速度の違いは2つの天体が奥行き方向の異なる位置に存在することによって現れていたのです。従って、CO-0.40-0.22が低速度分子雲との衝突によって作られるというシナリオは考えにくく、高密度な天体による重力の影響を受けて形成されたという解釈を支持するものとなりました。
※1 質量が太陽の数十倍以上から数百万倍以下程度のブラックホール
※2 銀河の中心に存在する質量が太陽の数百万倍以上のブラックホール
図2:天の川銀河の上でのCO-0.40-0.22と低速度分子雲の位置関係
文責:酒井大裕
関連論文
- Iwata, Y., et.al. Kato, H., Sakai, D., Oka, T., 2017, ApJ, 840, 18, “Distance to the Low-velocity Cloud in the Direction of the High-velocity Compact Cloud CO-0.40-0.22”