2023-02-03 国立天文台
アルマ望遠鏡で観測したオリオン座方向にある星団が形成されている領域(FIR 3、FIR 4)とその周辺。中央やや左上のFIR 3にある原始星(★印)から、下の方向に噴き出すガス流が、その下側のFIR 4で高密度のガスに衝突している。青白い色で示した場所がその衝突領域。(クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.) オリジナルサイズ(1.3MB) 文字なし(6.8MB)
アルマ望遠鏡を用いた観測で、星団が形成されている領域内の原始星から噴き出す高速のガス流が、近くにある若い星々が密集する領域に激しく衝突している様子を捉えることに成功しました。衝突によって星を作る材料となるガスや塵(ちり)が激しく揺さぶられ、この領域内での星の作られ方に影響を与えている可能性があります。若い星や、星の材料が密集して存在する領域を観測することは、星が集団で生まれる複雑な過程の理解につながることが期待されます。
ほとんどの星は単独で生まれるのではなく、集団で誕生して星団を形成します。このように星団が形成される領域を、「星のゆりかご」と呼ぶことができます。ゆりかごの中では、生まれたばかりの原始星がそれぞれ、赤ちゃんが産声を上げるかのように、その両極から高速のガスを噴き出しています。双極分子流と呼ばれるこの高速のガス流は、周辺の星を作る材料が密集する場所にぶつかって、局所的に星の誕生を誘発したり、あるいは逆に、ゆりかごの中の環境をかき乱して周辺の星の成長を邪魔したりするという可能性が、理論的に予測されてきました。しかしこれまでの観測からは、星が作られる領域の複雑な様子を十分に見分けられるような、詳細な画像を得ることが困難でした。
九州大学大学院理学府 博士課程の佐藤亜紗子(さとう あさこ)さんを中心とする研究チームは、オリオン座の方向約1400光年の距離にある星団が形成されている領域を、アルマ望遠鏡で観測しました。これは私たちから最も近くにある星のゆりかごです。アルマ望遠鏡の性能を生かして得られた高感度、高解像度の画像から、これらの領域にこれまで知られていた2倍の数の双極分子流を発見しました。さらに、分子流の一つが、近くにある若い星々が密集する領域に激しく衝突している様子をはっきりと捉えることに、初めて成功したのです。この激しい衝突が起こった場所では星の材料が加熱されていることが分かったほか、星を作る材料の分裂片も多数発見されました。双極分子流の衝突によって星団形成領域の中のガスや塵が揺さぶられ、星が作られる環境がかき乱されている可能性が示されたことになります。
研究チームは今後、アルマ望遠鏡を用いた観測をさらに続け、双極分子流の衝突によって圧縮されたガスの運動を調べ、星の材料が星団形成領域に出入りする様子や、その分裂片の変動を捉えて、複雑な星団の形成についてさらに理解を進めることを目指しています。
この研究成果は、Sato et al. “ALMA Fragmented Source Catalogue in Orion (FraSCO) I. Outflow interaction within an embedded cluster in OMC-2/FIR 3, FIR 4, and FIR 5” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2023年2月2日付で掲載されました。