急速充電器、次世代EVや空飛ぶ車などの高出力化・低損失化に向けて前進
2021-12-24 新エネルギー・産業技術総合開発機構,株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において「β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」に取り組む株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、このたび、アンペア級・1200V耐圧の「酸化ガリウムショットキーバリアダイオード(SBD)」を開発しました。本開発は世界初となる画期的なものとなります。
本開発の成果により、パワーエレクトロニクスの低価格化や高性能化につながる、1200V耐圧の酸化ガリウムSBDの製品化が大きく前進することになります。また、太陽光発電向けパワーコンバータ、産業用汎用インバーターや電源などのパワーエレクトロニクス機器の効率向上や小型化により、自動車の電動化や空飛ぶ車などの電気エネルギーの効率利用への貢献にも期待ができます。なお、本成果の詳細は、2021年12月15日に応用物理学会発行の「Applied Physics Express」誌オンライン版に掲載されました。
図1 2インチウエハーに作製したアンペア級・1200V耐圧の酸化ガリウムショットキーバリアダイオードの外観写真
1.概要
酸化ガリウム(β-Ga2O3)※1は、シリコンに代わる高性能材料として同じく開発が進められている炭化ケイ素(SiC)※2や窒化ガリウム(GaN)※3に比べ、その優れた材料物性や低コストの結晶成長方法により、低損失で低コストのパワーデバイス※4を作ることができ、家電、電気自動車、鉄道車両、産業用機器、太陽光発電、風力発電など、さまざまなパワーエレクトロニクス機器への適用が期待されています。また、搭載する電気機器の小型化や高効率化につながるものとして、国内外の企業および研究機関において研究開発が加速しています。
株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、2017年からβ-Ga2O3デバイスの製品化を目指して、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において、実証開発として「β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」に取り組んできました。今回、研究試作ラインとファウンドリを併用し、2インチウエハーを用いてトレンチ型※5β-Ga2O3ショットキーバリアダイオード(SBD)※6の量産対応プロセスを開発し、アンペア級・1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDを世界で初めて開発しました(図1)。今後、高電圧化・大電力化の必要性が増すことが想定される次世代急速充電器などのアプリケーションに対し、本開発の成果を用いた高耐圧β-Ga2O3SBDの適用が期待されます。
こうした成果の背景には、(株)ノベルクリスタルテクノロジーの母体企業である株式会社タムラ製作所が、2011年度~2013年度のNEDO「省エネルギー革新技術開発事業/超高耐圧酸化ガリウムパワーデバイスの研究開発」プロジェクトの成果を活用して、2015年に世界初となるパワーデバイス向けのβ-Ga2O3エピウエハーの開発に成功し、さらに、2018年度よりNEDO助成事業である「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/アンペア級酸化ガリウムパワーデバイスの開発」において、パワーデバイス向けのβ-Ga2O3SBDに関しての実用化開発を推し進めてきたという経緯があります。今回の成功は、これらの開発成果を基盤として(株)ノベルクリスタルテクノロジーが2020年度より実施中のNEDO助成事業である「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/β-Ga2O3ショットキーバリアダイオードの製品化開発」における成果により得られたものです。なお、本成果の詳細は、2021年12月15日に公益社団法人応用物理学会発行の「Applied Physics Express」誌オンライン版に掲載されました。
2.今回の成果
これまでβ-Ga2O3SBDの大電流化開発には、プロセスが比較的容易なプレーナ型※7構造が用いられてきました。しかし、プレーナ型SBDはリーク電流※8が大きいため、耐圧※91200VのGa2O3SBDを作製するのは困難でした。これに対し(株)ノベルクリスタルテクノロジーでは、2017年に逆方向リーク電流を1000分の1に低減するトレンチ型Ga2O3SBDの原理実証に成功し、その耐圧向上と大電流化を進めてきました。図2は、開発したβ-Ga2O3トレンチ型SBDの断面構造図と光学顕微鏡写真です。
今回、研究試作ラインとファウンドリを併用することにより2インチウエハー量産対応プロセスを開発し、順方向電流※10IF=2A(VF=2.0V)(図3a)、耐圧1200V、低リーク電流<10-9A(図3b)のトレンチ型β-Ga2O3SBDの試作に成功しました。これにより、現在進めている100mmファウンドリラインを用いた量産プロセスの開発と、実装回路レベルでの1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDの性能・信頼性評価が可能となり、低損失β-Ga2O3パワーデバイスの製品化が大きく進むことになります。
図2 β-Ga2O3トレンチ型SBDの断面構造図、光学顕微鏡写真
図3 β-Ga2O3トレンチ型SBDの電流-電圧特性
3.今後の予定
(株)ノベルクリスタルテクノロジーはNEDOの本事業を通じて、今回試作に成功した1200V耐圧のβ-Ga2O3SBDの製造プロセスの確立と信頼性評価を進め、2023年の製品化を目指します。また、2021年6月に販売を開始した高品質β-Ga2O3100mmエピウエハーを用いて、100mm量産ファウンドリラインの構築を進めます。
本開発成果の適用が見込まれる中高耐圧高速ダイオードの市場規模は、2022年には1,200億円に、2030年には1,500億円へと拡大していくことが予測されています(株式会社富士経済『2021年版 次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来展望』より引用)。(株)ノベルクリスタルテクノロジーはβ-Ga2O3SBDによって本市場への参入を図り、省エネルギー社会に貢献していきます。
【注釈】
- ※1 酸化ガリウム(β-Ga2O3)
- Gallium Oxideのこと。ガリウムと酸素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
- ※2 炭化ケイ素(SiC)
- Silicon Carbideのこと。ケイ素と酸素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
- ※3 窒化ガリウム(GaN)
- Gallium Nitrideのこと。ガリウムと窒素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
- ※4 パワーデバイス
- 高耐圧、高電流を制御することが可能な半導体素子のことで、インバーターなどの電力変換機器に用いられます。
- ※5 トレンチ型
- アノード電極直下のGa2O3に溝を形成した構造。逆方向電圧の印可時にアノード電極付近の電界強度を緩和して、リーク電流を大幅に低減する効果があります。
- ※6 ショットキーバリアダイオード(SBD)
- ショットキー接合と呼ばれる半導体と金属を接合させたときに、電流が一方向にしか流れない整流性を利用したダイオード。
ショットキー接合型ダイオードは、PN接合型ダイオードと比較して、スイッチング損失が小さいという利点があります。 - ※7 プレーナ型
- アノード電極直下のGa2O3が平坦な構造。逆方向電圧の印可時にアノード電極付近の電界強度が大きく、リーク電流が増加します。
- ※8 リーク電流
- カソードからアノード方向に流れる電流のことです。
- ※9 耐圧
- アノードに対してカソードに正の電圧を印加するときの電圧限度のことです。
- ※10 順方向電流
- アノードからカソード方向に流れる電流のことです。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:北井
(株)ノベルクリスタルテクノロジー 営業部 担当:増井
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、橋本、鈴木(美)、根本