ウイルス病に強い温暖地向け大豆品種「はれごころ」~ 褐斑粒や自然裂莢が発生しにくい多収品種~

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2021-11-30 農研機構

ポイント

農研機構は、ウイルス病1)に強く難裂莢性2)を備える温暖地向け大豆品種「はれごころ」を育成しました。本品種は、ウイルス病による褐斑粒の発生や自然裂莢による減収を抑制することができるため、生産者の収入増加と国産大豆の増産・安定供給につながります。草姿は温暖地の主力品種である「サチユタカ」に類似していますが、子実の品質はより優れており、多収です。

概要

農研機構西日本農業研究センターで育成した「はれごころ」は、近畿中国四国地域を中心とする温暖地での栽培に適し、豆腐等の加工に向いている大豆品種です。

「はれごころ」は、複数のウイルス病に対する抵抗性を持っているため、ウイルスが原因の褐斑粒の発生を抑制できます。また、成熟後も莢が弾けにくい特性(難裂莢性)を持っているため、自然に莢が弾けて種子がこぼれることによる減収を起こしにくいです。

「はれごころ」は、温暖地の主力品種である「サチユタカ」と比較して、成熟期はやや遅いものの茎の長さ等はほぼ同じで、類似した栽培上の特性を備えています。収量は「サチユタカ」より1割程度多いです。子実は「サチユタカ」に比べて外観品質に優れ、豆腐や納豆の加工に関する適性が高いです。

関連情報

予算:運営費交付金

品種登録出願番号:第35273号(令和3年3月10日出願、令和3年9月16日出願公表)

お問い合わせ

研究推進責任者
農研機構西日本農業研究センター 所長 佐々木 良治

研究担当者
同 中山間畑作園芸研究領域 上級研究員 小松 邦彦

広報担当者
同 研究推進部研究推進室 広報チーム 和田 一朗

詳細情報

開発の社会的背景

わが国の食用大豆の年間需要量は100万トン程度ですが、国産大豆の年間生産量は20~24万トン程度で、需要に応えきれておらず、増産が望まれています。増産のための方策の一つとして、高品質の大豆を安定して生産できる多収品種を育成することが必要です。

研究の経緯

近畿中国四国地域では、倒伏しにくく豆腐の加工に向く品種「サチユタカ」が主に作付けされています。しかし、ウイルス病に弱く、それによる褐斑粒の発生が問題となっています。また、同品種は莢が弾けやすい特性を持っているため、収穫が遅れた場合に自然裂莢による減収が発生しています。この状況を踏まえ、農研機構西日本農業研究センターでは、「サチユタカ」の優れた点を残しつつ、ウイルス病に対する抵抗性と莢の弾けにくい特性を備えた品種の育成を目指し、交配と選抜を行なって「はれごころ」を育成しました。

新品種「はれごころ」の特徴
来歴

「はれごころ」は、ダイズモザイクウイルスおよびラッカセイわい化ウイルスに抵抗性で難裂莢性を備える「四国28号」を種子親、ダイズモザイクウイルスおよびインゲンマメ南部モザイクウイルスに抵抗性で難裂莢性を備える「四国29号」を花粉親として人工交配を行い、系統を選抜して育成しました。

主な特徴

1.ダイズモザイクウイルスのA、A2、B、C、DおよびE系統に抵抗性です(表1および図1)。

2.ラッカセイわい化ウイルスおよびインゲンマメ南部モザイクウイルスに抵抗性です(表1および図1)。

3.難裂莢性を備えています(図2)。

4.近畿中国四国地域における成熟期は”やや晩”で、「サチユタカ」よりやや遅く、九州地域等の主力品種である 「フクユタカ」より早いです(表2)。

5.茎の長さは「サチユタカ」とほぼ同じで、「フクユタカ」より短いです(表2および図3)。

6.子実重(収量)は「サチユタカ」および「フクユタカ」より1割程度多いです(表2)。

7.百粒重は「サチユタカ」よりやや軽く、「フクユタカ」より重いです(表2および図4)。

8.子実の粗タンパク含有率3)は「サチユタカ」より1~2%低いですが、「フクユタカ」と同程度かやや高いです(表2)。

9.子実の品質は「サチユタカ」より優れ、「フクユタカ」と同程度です(表2)。特に「サチユタカ」および「フクユタカ」と比べて裂皮が少ないです(表2)。

10.豆腐および納豆への加工適性が高いです(表2)。

栽培上の留意点

1.近畿中国四国地域を中心とする温暖地および「サチユタカ」栽培地域での作付けに適しています。

2.ダイズシストセンチュウ4)抵抗性を持たないため、その被害が発生しているほ場での作付けは避けてください。

品種の名前の由来

「はれ」は、わが国の伝統的世界観「ハレとケ」の「ハレ」を指し、ウイルス病や裂莢等の生産上のやっかいな障害(「ケ」、「ケガレ」)をうち払うことを意味します。併せて、その特性から、晴れ晴れとした心で栽培・収穫できる品種であることを表します。

今後の予定・期待

近畿中国四国地域を中心とする温暖地で「サチユタカ」に置き換えての普及を進めています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構西日本農業研究センター 研究推進部研究推進室知的財産チーム

TEL 084-923-4107 FAX 084-923-5215

利用許諾契約に関するお問い合わせ

農研機構HP

用語の解説

1)ウイルス病:

植物病原ウイルスによって引き起こされる病害の総称です。大豆に病害を引き起こすウイルスとして、ダイズモザイクウイルス、ラッカセイわい化ウイルス、インゲンマメ南部モザイクウイルス等が知られています。これらのウイルスに大豆が感染すると、葉にモザイク症状やえそ症状が現れるとともに、種皮に褐色や黒色の斑紋が現れ、収量や種子の品質に影響が出ます。種子の病徴は図1をご参照ください。

2)難裂莢性:

成熟した莢が弾けにくい性質のことを指します。わが国の古い品種は、莢が成熟した後、時間がたつと自然に弾けやすい性質を持っているものが多いです。莢が弾けてしまうと莢内の種子が外に飛び出すので、収穫ロスの原因になります。特に成熟後に高温乾燥状態が続くとこの現象が起きやすくなります。「はれごころ」は莢が弾けにくい遺伝子(pdh1)を持っているため、高温乾燥条件下でも莢が弾けにくいです。どの程度の差が生じるかは図2をご参照ください。

3)粗タンパク含有率:

大豆種子に含まれるタンパク質、アミノ酸、アンモニア等を酸化分解してアンモニウムイオンに変換し、定量した窒素量に窒素蛋白換算係数を乗じて算出します。粗タンパク含有率が高くなると、豆腐が固まりやすく、歩留まりも上がります。

4)ダイズシストセンチュウ:

大豆の根に寄生する線虫です。寄生された植物体は生育が低下して黄化症状が現れるとともに、根に同センチュウの卵がつまった黄色いシスト(包嚢)が多数形成されます。シストは土壌中で数年以上生存し、次年以降の病原になります。

参考図

ウイルス病に強い温暖地向け大豆品種「はれごころ」~ 褐斑粒や自然裂莢が発生しにくい多収品種~

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