AI・半導体分野における最新研究トレンドと今後の展望(2025年11月)

2025-11-05 Tii技術情報研究所

この1年間のAI・半導体関連研究を俯瞰すると、 「高性能+省電力」 を実現するための材料・構造・システム設計の革新が目立ちます。特に、AI処理のためのハードウェア(アクセラレータ、PIM)と、エネルギー変換・デバイス(太陽電池、半導体材料)の両輪が並行して進展しており、今後はこれらが 融合・統合 されていくフェーズに入ってきていると考えられます。
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各技術の概要とリンク先

1:ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層改善

概要:中国科学院・長春応用化学研究所の研究チームが、自ら組織化する“二重ラジカル自己組織化分子材料”を開発し、ペロブスカイト太陽電池(PSC)の正孔(ホール)輸送層を改善。従来の有機自己組織化分子の限界を超え、キャリア輸送速度が2倍以上、長時間稼働後の劣化もほとんど見られないという成果。変換効率も26.3%、ミニモジュールで23.6%、ペロブスカイト‑シリコンタンデムで34.2%を達成。 

2:電力密度を向上するAI設計SiCパワーモジュール


3:エネルギー最小点で動作する並列演算ニューラルネットワーク・アクセラレータ技術

概要:東京科学大学の研究で、PIM(Processing‑In‑Memory)型のニューラルネットワークアクセラレータ・マクロを開発。特殊なSRAMと新構造メモリアレイを用い、2値化ニューラルネットワークを8並列MAC演算ユニットで構成、164 TOPS/Wという高いエネルギー効率を達成。省電力化・高性能化の次世代AI半導体への寄与が期待。
エネルギー最小点で動作する並列演算ニューラルネットワーク・アクセラレータ技術を開発~AI半導体のエネルギー効率最大化技術~
エネルギー最小点で動作する並列演算ニューラルネットワーク・アクセラレータ技術を開発~AI半導体のエネルギー効率最大化技術~
2025-04-23 東京科学大学東京科学大学の研究チームは、エネルギー最小点(EMP)で動作可能なPIM(プロセッシング・イン・メモリ)型ニューラルネットワークアクセラレータ・マクロを開発。特殊なSRAMと新構造のメモリアレイを組み合わせ...

4:三次元マイクロ流路によるAI半導体の高効率水冷技術

概要:東京大学の研究チームが、3Dマイクロ流路構造をもつ水冷システムを開発し、AI半導体など高発熱デバイスに適用可能な高効率放熱技術を実現。特徴は、マニホールド分配層+マイクロピラー毛細構造による薄膜蒸発促進で、従来の冷却法よりも格段に高い熱除去能力を持つ。冷却性能を表すCOP(Coefficient of Performance)は最大10⁵に達し、世界最高水準。今後はAIサーバー、エッジデバイス、量子デバイスなどへの応用が期待される。
三次元マイクロ流路で半導体チップの省エネ水冷を実現~AI半導体の高性能化を支える高効率放熱技術~
三次元マイクロ流路で半導体チップの省エネ水冷を実現~AI半導体の高性能化を支える高効率放熱技術~
2025-04-14 東京大学東京大学生産技術研究所の野村政宏教授らの研究チームは、AI半導体チップの高性能化と省エネルギー化を支える新たな高効率放熱技術を開発しました。​この技術は、特殊な三次元マイクロ流路構造を持つ水冷システムを用いてお...

5:CMOSトランジスタでニューロモーフィック動作を実現(NUS)

概要:シンガポール国立大学が、標準的なCMOSトランジスタ1個で神経細胞+シナプスの動作を再現可能であることを実証。「インパクトイオン化」と「電荷トラッピング」を用い、神経発火とシナプス可塑性の両方を実現。さらに、2つのトランジスタを組み合わせた「NS-RAM(Neuro-Synaptic RAM)セル」を開発。CMOS互換性が高く、大規模集積が可能なニューロモーフィックAIチップの基盤技術に。
AI向け半導体デバイスを前進(Advancing semiconductor devices for artificial intelligence)
AI向け半導体デバイスを前進(Advancing semiconductor devices for artificial intelligence)
2025-03-28 シンガポール国立大学(NUS)シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは、従来型シリコントランジスタ1個で神経細胞とシナプスの挙動を模倣できることを実証した。これは、エネルギー効率の高い脳型(ニューロモーフィック)コ...

6:AIによる半導体製造プロセス最適化プラットフォーム「メタファクトリー」

概要:名古屋大学の研究で、AIを活用した製造プロセス最適化プラットフォーム「メタファクトリー」を開発。半導体の各製造ステージ(ウェーハ製造〜CMOSセンサー製造)を仮想空間上に再現し、デジタルツイン+AI最適化により所要時間を従来比1/1000に短縮。複数企業にまたがるプロセス最適化も可能で、垂直統合型以外の製造形態にも対応。製品性能改善の高速化、歩留まり向上、開発時間短縮に貢献。
半導体の製造プロセスを”一気通貫”で最適化!AI活用により企業の壁を越えスピーディな性能改善に貢献
半導体の製造プロセスを"一気通貫"で最適化!AI活用により企業の壁を越えスピーディな性能改善に貢献
2025-03-24 名古屋大学​名古屋大学未来材料・システム研究所の宇治原徹教授らの研究グループは、AIを活用して半導体製造プロセス全体を最適化するプラットフォーム「メタファクトリー」を開発しました。​このプラットフォームでは、Siウェー...

7:高電圧・高電流対応の自動化半導体試験プラットフォーム「ACCEPT」

概要:米・オークリッジ国立研究所(ORNL)が開発した「ACCEPT(Autonomous Configurable Component Evaluation Power Test)」は、半導体デバイスを最大10,000V / 2,000Aの条件下で自動評価できるプラットフォーム。膨大なパラメータを同時に記録・解析し、試験時間を大幅に短縮。従来手動だった試験プロセスの完全自動化に成功。パワーエレクトロニクス分野(車載、産業、再エネ)への迅速適合が可能に。
革新的な半導体試験技術の開発(Next-level semiconductor testing available)
革新的な半導体試験技術の開発(Next-level semiconductor testing available)
2025-01-16 オークリッジ国立研究所 (ORNL)ORNL researchers have developed an Autonomous Configurable Component Evaluation Power Test ...

8:半導体産業の成長に対応する新しいPFAS除去技術

概要:米・イリノイ大学が、半導体製造に伴うPFAS(有機フッ素化合物)汚染の除去技術を開発。「レドックス電気透析+電気吸着+電気化学的酸化」を組み合わせ、超短鎖〜長鎖のPFASを同時に除去・無害化可能。処理後はフッ化物イオンへ変換し、最大100%の脱フッ素化も可能。半導体業界の成長に伴う環境汚染対策として注目されており、今後の法規制対応・持続可能性強化に寄与。
半導体産業の成長に先駆けて汚染を防止する新しい PFAS 除去プロセス (New PFAS removal process aims to stamp out pollution ahead of semiconductor industry growth)
半導体産業の成長に先駆けて汚染を防止する新しい PFAS 除去プロセス (New PFAS removal process aims to stamp out pollution ahead of semiconductor industry growth)
2024-11-07 アメリカ合衆国・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは、PFAS(ペルおよびポリフルオロアルキル物質)を水から効率的に除去・破壊する新たな電気化学的手法を開発しました。こ...

9:Ag₈GeS₆量子ドットによる近赤外発光・低毒性半導体の開発

10:生体内で強い発光と低毒性を両立する量子ドットを開発

概要:京都大学、大塚製薬らの研究グループは、腸内環境モニタリング機能付きデジタル錠剤に向け、胃酸充電機能を備えた半導体集積回路の開発に成功した。65ナノメートルCMOSプロセスで製造した1ミリ角の超小型回路により、胃酸で発電した電力を内部コンデンサに蓄電し、腸内での温度やpHモニタリングに活用できることを実証した。腸内環境を継続的に計測可能にする点が革新的である。
腸内環境モニタリング機能付きデジタル錠剤に向けた胃酸充電半導体集積回路の開発に成功~65nm CMOSで実証、消化器官内の温度・pHモニタリングに目途~
2025-10-29 京都大学Web要約 の発言:京都大学情報学研究科の新津葵一教授、修士課程のウ・ヨウ(Wu You)氏、大塚製薬株式会社の大西弘二プリンシパル、山根育郎課長らの研究グループは、腸内環境モニタリング機能付きデジタル錠剤に向...

トレンド分析:効果・課題・今後の方向性

効果(メリット)

  • これらの研究は、AI/半導体分野で「省電力化・高効率化」「材料・構造革新」「応用(実装/産業化)へ近づく」という共通のメリットを示しています。
  • 例えば、Ag₈GeS₆量子ドットでは「低毒性かつ近赤外発光」という特徴を持ち、生体イメージングや次世代デバイス用途への展開が期待されます。
  • 他にも、製造プロセス最適化(デジタルツイン+AI)や高電圧試験自動化など、製造・検証段階の効率化も進んでいます。

課題(残る問題)

  • 多くの技術が「研究室レベル」または「プロトタイプ」に止まっており、量産化・コスト低減・信頼性確保というフェーズにまだ課題があります。
  • 汎用性・適用範囲の広さという観点からも、「特定用途/条件下」でしか実証されていないケースが多く、実際の製品・市場に適合させるための標準化・互換性も懸念です。
  • 材料系(例えば量子ドット)では、長期耐久性・環境耐性・人体安全性なども今後さらにクリアすべき点です。

今後の方向性

  • システムレベルでの統合:単一技術ではなく、「材料+デバイス+回路+製造プロセス」などを総合して最適化する潮流が加速すると予測されます。
  • 展開範囲を広げる:例えば量子ドット技術が生体イメージングだけでなく、次世代半導体やディスプレイ、通信用途にも応用される可能性があります。
  • 端末・エッジ側の活用:省電力・小型化が可能な技術が、モバイル端末、IoT、車載/産業用途での普及を牽引すると見られます。
  • 持続可能性・環境配慮:材料調達、製造工程、廃棄・リサイクルまで含めた「グリーン半導体」「グリーンAI」への要求も強まるでしょう。

技術テーマ別まとめ

AIハードウェア/半導体系

  • 製造プロセス最適化、試験自動化、高効率アクセラレータなど。
  • 効果:高効率・省電力・高速化。
  • 課題:モデル汎用性、製造コスト、システム化。
  • 今後:汎用AIアクセラレータ、エッジ向け展開、メモリ+演算統合。

次世代材料・デバイス系

  • 量子ドット、半導体材料、放熱構造/冷却構造など。
  • 効果:性能向上、材料革新、応用範囲拡大。
  • 課題:量産化、環境/耐久性、コスト。
  • 今後:量産対応プロセス、異分野融合(材料+AI)、環境配慮設計。

まとめ

この1年間のAI・半導体関連研究を俯瞰すると、 「高性能+省電力」 を実現するための材料・構造・システム設計の革新が目立ちます。特に、AI処理のためのハードウェア(アクセラレータ、PIM)と、エネルギー変換・デバイス(太陽電池、半導体材料)の両輪が並行して進展しており、今後はこれらが 融合・統合 されていくフェーズに入ってきていると考えられます。

ただし、研究から実用化・量産化・コスト競争力の確保という“壁”は依然として存在します。従って、今後数年は「研究成果をいかに実装可能な製品・システムに変えるか」が重要な焦点となるでしょう。

特に エッジAIIoTデバイス持続可能な製造プロセス といった領域が、今後の成長領域になりそうです。

0403電子応用
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