EV充電から解放、走り続けられるモビリティ社会像を提示~市街地で「無限走行」を実現させる走行中ワイヤレス給電の最適配置~

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2025-01-07 東京大学

○発表のポイント:
◆市街地における電気自動車(EV)の無限走行を実現するためのワイヤレス給電システム(DWPT)の最適配置を、数理最適化と詳細な交通シミュレーションに基づき精緻に導出。
◆埼玉県川越市を対象に解析した結果、全道路長約150kmの1.6%未満(2,359m)にDWPTを敷設するだけで、EVが充電待ちなしに市内全体を移動できることが判明。
◆交通量や信号停止時間に応じた設置戦略を示し、信号パターンや待ち行列の変動を反映した最先端の数理モデルで、DWPTが都市部における低炭素モビリティの要となることを提言。

EV充電から解放、走り続けられるモビリティ社会像を提示~市街地で「無限走行」を実現させる走行中ワイヤレス給電の最適配置~
EVの無限走行を実現する走行中ワイヤレス給電システムの最適配置

○概要:
電気自動車(EV)の普及を妨げていた短い航続距離と長い充電時間の課題に対し、東京大学 生産技術研究所の本間 裕大 准教授らの研究チームは、走行中ワイヤレス給電システム(DWPT、注1)を用いた「無限走行」の実現に向けたモビリティ社会像を提示しました。DWPTは、道路に埋め込まれたコイルから走行中の車両に電力を供給することで、充電待ちを不要にし、都市内のEV移動を支援します。埼玉県川越市を対象とした数理最適化(注2)と詳細交通シミュレーション(注3)の結果、全道路長 約150kmのうち、わずか2,359m(1.6%未満)のDWPT敷設で、市内の全車両が無限に走行し続けられることを示しました。また、交差点付近への設置が効果的でありつつも、交通量と一時停止時間、待ち行列長と敷設コストなど様々なトレードオフを考慮しながら、丁寧に最適配置することが求められることも示しました。EVインフラとしてのDWPTの前向きなポテンシャルを示した本研究は、低炭素モビリティの実現に向けた重要なステップと位置付けられます。

○発表内容:
<研究の背景>
低炭素モビリティへの移行が進む中、電気自動車(EV)はその重要な柱です。しかし、バッテリーの性能制約による短い連続航続距離と充電スタンドでの待ち時間が普及の障害となっています。こうした中、走行中ワイヤレス給電システム(DWPT)という新しいインフラ技術が現実的な解決策として登場しました。この技術は、道路に埋め込まれたコイルからEVに直接電力を供給することで、走行しながらの充電を可能にし、航続距離の不安と充電スタンドでの長い待ち時間を解消します。ただし、DWPTを都市のどの箇所にどの程度敷設すれば良いのか、そのモビリティ社会像が明確に示されていませんでした。DWPTインフラの整備には大規模な投資が必要になることから、特に市街地移動について定量的分析に基づく最適配置戦略の提示が急務となっていました。(高速道路を用いた長距離移動におけるDWPTの最適配置戦略については、「関連情報」を参照のこと)。

<研究の成果>
そこで本間 裕大 准教授らの研究チームは、走行中にDWPTから給電するだけでEVが自由に航続し続けられる「無限走行」という究極のシナリオを想定し、市街地におけるDWPTの必要な敷設量とその最適配置を導出する数理モデルを提案しました。埼玉県川越市を対象とした詳細交通シミュレーションに基づく実証分析も行い、市内の方向別・道路長 約150kmに対して、わずか2,359m(全体の1.6%)にDWPTを敷設するだけで、EVの「無限走行」が実現できることを明らかにしました(図1)。研究成果は、100年以上の歴史がある交通系国際会議 TRB (Transportation Research Board) 2025 Annual Meetingに採択されました。

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図1:全車両が無限に走行し続けられる走行中ワイヤレス給電の最適配置とその導出手法

分析の結果、市街地におけるDWPTは、車両が信号によって停止したり減速したりする交差点付近に敷設することが最も効果的であることが示されると同時に、その具体的な箇所や敷設長については、緻密な配置戦略が求められることが明らかとなりました。これは、EVへの給電効率が、交通量や信号パターンに伴う加減速に大きく影響を受けるためです。交通量や一時停止時間、待ち行列長と敷設コストなど様々なトレードオフ構造を勘案しながら、最適な配置戦略を導き出す重要性が提言されました(図2)。以上の計算は、150km近くに及ぶ道路全体を7mセグメントに分割し、DWPTを設置するか否かの検討を行う21,000以上の0-1変数からなる離散最適化問題、および信号サイクルや待ち行列長、車両の加減速タイミングまで考慮された詳細交通シミュレーションの双方を活用することによって解析されました。

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図2:DWPTの最適配置で重要となるトレードオフ構造

<将来の展望>
DWPTの導入によって車両は無限に走り続けることが可能となるため、将来的な自動運転社会との親和性も期待されます。研究チームは、DWPTが低炭素社会の実現に向けた重要な鍵となると確信しており、今後のさらなる発展と普及に向けた取り組みを続けていきます。

〇関連情報:
プレスリリース:充電の心配なく電気自動車で日本中を旅行できるモビリティ社会像を提示――高速道路上における走行中ワイヤレス給電の最適配置と経済性を検証――」(2024/2/8)

○発表者・研究者等情報:
東京大学
生産技術研究所
本間 裕大 准教授
大口 敬 教授

連携研究機構 不動産イノベーション研究センター
長谷川 大輔 特任助教
研究当時:東京大学 生産技術研究所 本間(裕)研究室 特任助教

芝浦工業大学
工学部
畑 勝裕 准教授

Arizona State University(アリゾナ州立大学)
School of Geographical Sciences and Urban Planning
Michael J. Kuby 名誉教授
School of Sustainable Engineering and the Built Environment
Xuesong (Simon) Zhou 教授

○詳細情報:
[国際会議]
〈会議名〉TRB (Transportation Research Board) 2025 Annual Meeting
〈題名〉Enabling Infinite Drive: Optimal Location of In-Motion Wireless Power Transfer Systems for Trips in Urban-scale Region by Electric Vehicles
〈著者名〉Yudai Honma, Daisuke Hasegawa, Katsuhiro Hata, Xuesong (Simon) Zhou, Michael J. Kuby & Takashi Oguchi

○研究助成:
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:24K01109)」の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)DWPT
Dynamic Wireless Power Transferの略で、電気自動車(EV)が走行中に電力をワイヤレスで受け取る技術です。このシステムは、道路に埋め込まれたコイルから電磁場を通じて、車両に搭載された受信コイルに電力を伝送します。EVが移動する間にバッテリーを充電できるため、充電のための停車時間を削減し、EVの利便性と航続距離を向上させることが可能になります。

(注2)数理最適化
特定の制約条件の下で、目的関数を最大化または最小化するような変数の最適な値を見つけ出すためのアプローチです。ここでは走行中ワイヤレス給電システムの配置問題において、どの地点に給電装置を設置するかという意思決定を最適化するために当該手法を用いています。

(注3)交通シミュレーション
道路ネットワーク上での車両や歩行者の動きをコンピュータ上で再現し、交通渋滞や信号制御の効果を解析する手法です。本研究では、信号パターンや交通量の変動、車両の停止や加減速といった実際の車両挙動まで精緻にモデル化し、走行中ワイヤレス給電システムの最適配置を評価しています。

○問い合わせ先:
〈研究に関する問い合わせ〉
東京大学 生産技術研究所
准教授 本間 裕大(ほんま ゆうだい)

〈報道に関する問い合わせ〉
東京大学 生産技術研究所 広報室
芝浦工業大学 入試・広報連携推進部 企画広報課

0108交通物流機械及び建設機械
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