2024-10-11 東北大学
学際科学フロンティア研究所 准教授 阿部博弥
【発表のポイント】
- ムール貝からヒントを得て、水中で接着可能なハイドロゲル接着剤を開発しました。
- 体温付近で性質が変化する温度応答性をハイドロゲルに付与することで、接着力を1000倍以上の差で変化させ、体温以上で強く接着、体温以下で容易に剥離をすることが可能になりました。
- 医療デバイス等と組み合わせることで、必要に応じた生体シグナルの計測等を可能にします。
【概要】
水中で使える接着剤は、生体環境のような濡れた表面へ材料を結合することを可能にし、医療機器の生体表面への接着や止血などに役立ちます。特に、健康状態のモニタリングや電気を使った治療、薬の投与などにおいては、生体電子機器(バイオエレクトロニクス)と生体組織の間に安定した接続を持つことが重要となってきます。一方、強すぎる水中接着剤は、剥離の際に生体組織も傷つける可能性を含むため、湿った環境で強い接着を保ちながらも、容易に取り外せることが重要です。
東北大学学際科学フロンティア研究所(大学院工学研究科 兼任)の阿部博弥准教授のグループは、ムール貝の足(足糸)(注1)が有する水中接着性に着想した水中接着剤に温度応答性を付与することで、体温以上では強固に接着し、体温より低い温度では容易に剥離する脱着可能な水中接着剤を開発しました。本研究で開発した”温度で接着性を制御可能な水中接着剤”は、生体医療機器を人体に安全に取り付けることができ、また取り外す際の皮膚へのダメージを最小限に抑えることを可能にするため、実用化に期待がかかります。
本成果は2024年10月11日に、材料科学分野の専門誌「NPG Asia Materials」にオンラインにて公開されます。
図1. 体温付近で接着と脱離を制御可能な水中接着性ハイドロゲルを開発
【用語解説】
注1. 足糸
ムール貝が岩やその他の硬い表面にしっかりと付着するために使う、糸状の構造物のことです。ムール貝の足の部分から分泌される特殊なタンパク質でできており、これが固まることで強力な接着力を発揮します。
【論文情報】
タイトル: Mussel-Inspired Thermo-Switchable Underwater Adhesive based on a Janus Hydrogel
著者:Hiroya Abe*, Daichi Yoshihara, Soichiro Tottori, Matsuhiko Nishizawa
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所(大学院工学研究科 兼務)掲載誌:NPG Asia Materials
DOI:10.1038/s41427-024-00569-1
問い合わせ先
(研究に関すること)
国立大学法人東北大学学際科学フロンティア研究所・大学院工学研究科
准教授 阿部博弥
(報道に関すること)
国立大学法人 東北大学学際科学フロンティア研究所
企画部 特任講師 児山洋平