黄金比・黄金角による点群生成機構の解明・一般化~植物の形態モデリングに関わる数学の未解決問題を解決~

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2024-10-04 九州大学

マス・フォア・インダストリ研究所

富安 亮子 教授

ポイント
  • 自然界の形の研究として創始され、様々な分野で活用されている黄金比・黄金角を用いた点群生成法が、現代的な数理科学の知見により200年ぶりに大幅アップデート。
  • 一般の曲面、3次元以上のユークリッド空間を含む高次元構造に対し、より自由度の高い点群・メッシュ生成を行うことが可能に。
  • 自然界の形態を扱う数理モデリングや、偏微分方程式を用いた数値計算の基盤としての活用が期待される。
概要

ひまわり頭部や松ぼっくりなどに見られる2重らせんのパターンの数理モデルを与えることが知られる黄金角の方法※1は、19世紀に植物の形態モデリングの方法として提案されて以来、様々な回転体上の点群※2・メッシュ※3の生成法に用いられています。この植物にみられる現象から得られた黄金角の方法を一般化し、様々な対象に使えるようにすることは、数理科学およびサイエンスにまたがる問題として解決が要望されていました。

本学の研究でこの一般化がなされ、2次元の一般曲面、3次元以上のユークリッド空間を含む高次元構造に適用可能な点群・メッシュ生成法として、大幅にアップデートされました。

本研究は九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の富安 亮子教授の研究に、九州大学のSENTAN-Qプログラムの支援で、数理学府博士課程のS. E. Graiff Zurita氏がリサーチ・アシスタントとして参加し、ともに実施したものです。格子をこれまで用いられていたもの※4から、数の幾何(数論)のマルコフ理論※5で最適とされる、より無理数性の高い黄金格子※6に置き換えると、黄金角の方法で得られていたパッキング密度※7≳ ≒ の値を保ったまま、一般曲面に適用できることを発見しました。新規手法が一般曲面に適用できることの証明には、準線形双曲型と呼ばれる偏微分方程式の一般論が、高次元化には、マルコフ理論の高次元版である「斉次線形式の積※8」および微分幾何の「対角化可能計量※9」に関わる知見が用いられました。

今回の発見により、数論の新しい応用として得られた点群・メッシュ生成法は、性能と自由度が理論的に保証されるため、科学計算技術の改善に役立つことが期待されます。

本研究成果は米国の雑誌「Constructive Approximation」に2024年9月30日(月)(米国時間)に掲載されました。

研究者からひとこと

「数学の応用には時間がかかる」と考える研究者は多いですが、19世紀に始まった数の幾何のマルコフ理論と直交曲線座標に関する純粋数学の研究を結びつけた新規応用を与えることができました。今後も数学の応用の突破口になる社会実装を進める所存ですが、数学が難しくなりすぎないうちに早めにプレスリリースすることにいたしました。

黄金比・黄金角による点群生成機構の解明・一般化~植物の形態モデリングに関わる数学の未解決問題を解決~

用語解説

(※1) 黄金角の方法

円周率2πを1 : (黄金比)に分割して得られる小さい方の角度。すなわち、 度が黄金角。黄金角ずつ回転させながら、単位面積当たりの点の数が一定となるよう(※8も参照)回転中心からの距離を調整して点群を配置する方法を黄金角の方法という。例えば、円盤の面積が点数nに比例するように取る場合、円盤の半径は に比例するので、円盤状に点群を生成するフォーゲル螺旋の式は となる。

(※2) 点群

空間中の座標点の集合は。3次元の物体の形態を表す近似的な表現法として利用される。例えば3Dスキャナなどを用いて点群の情報が取得される。

(※3) メッシュ生成

多角形・多面体を用いて曲面・3次元物体を近似的に表現すること。現象を表す数理モデル(偏微分方程式)を離散化し数値計算を行うために用いられる。メッシュの品質は、数値計算の精度や計算時間に影響する。

(※4) 黄金角の方法で主に用いられてきた2次元格子

2次元格子とは、ある実数 に対し、  ( : 整数)の形に表される無限個の座標点からなる点群で、すべての点がある直線上に載らないものを指す。黄金角の方法で得られる点群は、2次元格子をある写像で写したものとみなすことが可能だが、 の形の格子が最も多く用いられる。 の値に関わらず、適当な写像を取れば、同じような2重らせん模様が得られる。

(※5) 2変数不定値2次形式、マルコフ理論

2次式  ( : 実数)のこと。マルコフ理論は、 が原点を除く整数値を動いたときに大きな最小値をとる に関する詳細なリストを与える。

(※6) 黄金格子

(※5)に述べた問題(max-min問題)の解として、ある がどの程度良いものであるかの指標となる目的関数の値は、(※7)のパッキング密度に対応し、連分数展開を用いて計算できる。最も良い値を取る は、黄金格子 に対応する。

(※7) パッキング密度

点群が均一に分布していることの指標を与える0–1の範囲の数値。点群中の最も近い2点の距離を直径とする円・球が全体の中で占める体積の割合に等しく、1に近いほど均一性が高い。

(※8) 斉次線形式の積

斉次線形式  ( : 実数)の積  のこと。(※5)の2変数不定値2次形式は、  の場合にあたる。

(※9) 多様体の対角化可能計量

この場合の「多様体」は、ユークリッド空間 の一部を切り取り、張り合わせることで得られる幾何学的な構造で、さらに計量(距離)が定義されているものを指す。そのような多様体が対角化可能計量を持つとは、 のように、互いに垂直な 個の軸からなる座標系を取れることにあたる。

論文情報

掲載誌:Constructive Approximation

タイトル:Packing theory derived from phyllotaxis and products of linear forms

著者名:S. E. Graiff Zurita & R. Oishi-Tomiyasu

DOI:10.1007/s00365-024-09691-3

お問い合わせ先

マス・フォア・インダストリ研究所 富安亮子 教授

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