亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさを簡便に推定する方法を開発~地下水流動の解析の効率化や精度向上に貢献~

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2024-06-12 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 地下水流動の解析では、亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさを定量的に推定する技術が必要です。岩盤中の亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさは、直接計測できる亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさと大きく異なる場合があります。
  • 亀裂内の地下水の流れ方は、亀裂平面内を自由に移動できる流れ方からパイプ状に制約された流れ方まで様々です。この地下水の流れ方の情報と、既存の狭い範囲の地下水の流れやすさのデータベースを用いて、広範囲の地下水の流れやすさを簡便に推定する方法を開発・実証しました。
  • 本研究で考案した手法は、データの蓄積が十分でない状況でも広い範囲の地下水流動解析が要求される、高レベル放射性廃棄物の地層処分、地熱開発やトンネル工事等の地下空間利用に係る様々な分野における開発に役立つと考えられます。

図 亀裂内の地下水の流れ方と亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさのデータを統合して、亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさを簡便に推定する手法の概念図

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範)幌延深地層研究センターの尾崎裕介研究員および石井英一グループリーダーは、地下施設を含む広い範囲の地下水流動解析に必要な亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさを簡便に推定する手法を開発・実証しました。

高レベル放射性廃棄物の地層処分など地下の掘削を伴うプロジェクトでは、地質環境への影響を評価するため、地下施設を含む広い範囲の地下水流動を解析する必要があります。岩盤の中に亀裂がある場合、地下水は亀裂中を流れます。亀裂内の地下水の流れやすさは、亀裂内の比較的狭い範囲では、ボーリング孔を用いた調査で評価することができます。しかし、これらのボーリング調査で取得される結果を広い範囲の地下水流動解析に直接適用すると、計算結果と観測結果が乖離し、解析の精度が低下する場合があります。効率的かつ確実に広い範囲の地下水流動を解析するためには、ボーリング調査で取得可能な情報から、広い範囲の地下水流動解析に適用できる情報を取得する技術が必要になります。

これまでに幌延深地層研究センターでは、亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさの法則性1)や亀裂内の地下水の流れ方の深度による変化2),3)に関する研究を実施してきました。これらの研究から、亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさの変化の統計的な情報を取得・分析し、また、地中深くでは、亀裂内の地下水の流れ方が亀裂平面内を自由に移動できる流れ方からパイプ状に制約される流れ方に変化することを確認しました。本研究では、亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさにその統計的な情報や地下水の流れ方に応じた係数を与えることで、亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさを精確に推定する手法を考案しました。

幌延深地層研究センター周辺では、地下研究施設の掘削による地下水流動への影響を把握するために、地下研究施設周辺の地下水圧や地下坑道への湧水量を10年以上観測しています。この観測結果からは、本研究で考案した方法とは別に地下研究施設を含む岩盤内の広い範囲の地下水の流れやすさが推定されています4)。本研究で考案した手法による亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさと、これまでの研究4)で推定された岩盤内の広い範囲の地下水の流れやすさを比較することで、本研究で考案した手法の妥当性を確認しました。

本研究で開発した手法は、ボーリング調査で取得できる情報のみを使用することから、地下施設建設の初期段階等に想定される使用できる情報が少ない場合に、広い範囲の地下水流動解析の効率的な実施や精度向上に役立つと考えられます。また、現在、幌延深地層研究センターでは深度500mに向け地下研究施設を拡張していますが、本研究で考案した方法による亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさの分布や数値シミュレーションの結果から、この拡張工事による広い範囲の地下水圧の低下や継続的な地下研究施設への湧水量の増加が発生する可能性は低いと考えられます。

本研究の成果は、令和6年6月11日にロンドン地質学会と欧州物理探査学会が共同で出版する国際学術誌「Geoenergy」にオンライン掲載されました。Geoenergy誌は、近年の世界的な脱炭素社会へ向けた需要に対応するために令和5年より刊行されている、地層処分やCO2地中貯留、地熱開発等を専門に取り扱う論文誌です。

【これまでの背景・経緯】

高レベル放射性廃棄物の地層処分のような地下施設を掘削するプロジェクトでは、地質環境への影響を評価するために、地下施設を含む広い範囲の地下水流動の数値シミュレーションが実施されます。岩盤中に亀裂がある場合、地下水は、連結した亀裂の中を不均質に流れています。地下施設を含む広い範囲の地下水流動を効率的にシミュレーションするためには、亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさ(有効透水量係数)の情報が必要です。ボーリング孔を用いる岩盤中の地下水流動調査では、亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさ(局所的透水量係数)は調査することができます。しかし、このような調査で得られる局所的透水量係数は、広い範囲の数値シミュレーションで用いられる有効透水量係数と乖離が生じる場合があります。これは、有効透水量係数が広い範囲の地下水流動を反映するのに対して、局所的透水量係数は調査が行われるボーリング孔周辺のみの地下水流動を反映するからです(図1)。局所的透水量係数から有効透水量係数を計算する手法として、岩盤中の多数の亀裂を詳細にモデル化する手法があります。この手法では、亀裂の大きさや方向等の膨大な情報を必要とすることから、地下施設建設初期等の情報量が限られる場合には適用することが困難です。このような状況下においても広い範囲の地下水流動を効率的かつ確実に評価するためには、有効透水量係数を簡便に推定するための方法が必要です。


図1 数値シミュレーションで対象とする亀裂の範囲とボーリング調査等で調べることができる範囲の関係


これまでに幌延深地層研究センターでは、ダクティリティインデックス(DI)という指標(岩石にかかる力を岩石の硬さで割った値)を用いて、局所的透水量係数のDI依存性に関する法則1)や亀裂内の地下水の流れ方とDIの値の関係2),3)に関する研究を実施してきました。本研究では、これらの研究結果を統合し、有効透水量係数を簡便に計算する方法を考案しました。また、幌延深地層研究センターでは、地下研究施設の掘削による地下水流動への影響を把握することを目的として、地下研究施設周辺のボーリング孔における地下水圧変化や地下坑道への湧水量を10年以上観測しています。この観測結果から、本研究による有効透水量係数とは別に、岩盤内の広い範囲の地下水の流れやすさの分布(岩盤の透水係数)が推定されています4)。本研究による有効透水量係数と既存の研究4)による岩盤の透水係数を比較することで、考案した手法の妥当性を検討しました。

【今回の成果】

幌延深地層研究センターでは、これまで、ダクティリティインデックス(DI)と呼ばれる、ボーリング調査で取得可能な指標を用いて、地下水流動を評価する技術を開発してきました。図2は、これまでの研究成果1)による、DIと局所的透水量係数(亀裂内の狭い範囲の地下水の流れやすさ)の変化の関係です。局所的透水量係数はDIの値とともに低下します。これは、亀裂の開きの閉塞度合がDIの値と関連しているためです。局所的透水量係数は、図2のデータベースを用いることで、DIの値から岩石の種類に依存せずに推定することができます。

図2 これまでの研究1)による亀裂の局所的透水量係数のDI依存性

また、別の研究結果2)では、亀裂の中の地下水の流れ方は、流れの次元と呼ばれる指標で評価できることが示されています。流れの次元は、流れの方向に対して水平方向への広がりが無くパイプ状に流れる場合は1と、水平方向に広がりながら流れる場合には2と、区別することができます(図3)。流れの次元は、DIの値が2より大きい場所では1と、DIの値が2よりも小さい場所では2と分類することができます3)


図3 これまでの研究3)によるDIと亀裂内の広い範囲の地下水の流れ方の関係


このように、これまでの研究ではDIを用いて局所的透水量係数や亀裂内部の地下水の流れ方を岩石の種類に依存せずに評価する手法を開発してきました。本研究では、これら既存の地下水流動の評価手法を統計的な考えを導入することで統合し、数値シミュレーション等で必要な有効透水量係数(亀裂内の広い範囲の地下水の流れやすさ)を簡便に推定する手法を開発しました。

亀裂内の広い範囲では、地下水の流れやすい部分と流れにくい部分が不均質に分布しており、局所的透水量係数の値もばらついています(図4右)。流れの次元が2の場合、地下水は流れにくい場所を迂回できます(図4左上)。これにより、地下水の流れにくい部分の影響は緩和されます。その結果、有効透水量係数は電流の流れ方のオームの法則と同様な原理で局所的透水量係数の対数値の平均となります(図4右上)。一方で、流れの次元が1の場合は、地下水が流れにくい場所を迂回できません(図4左下)。この効果は地下水がより流れやすい部分を移動することを抑制するため、有効透水量係数は同様な原理で局所的透水量係数の対数値の平均よりも低下します。この低下の度合は、局所的透水量係数のばらつきに依存します(図4右下)。


図4 亀裂内の地下水の流れ方と広い範囲の地下水の流れやすさの関係のイメージ

これまでの研究1)により、局所的透水量係数の対数平均値およびそのばらつきとDIの関係がデータベース化されており(図2左図)、上述した有効透水量係数の計算に利用することができます。また、DIの値に応じて流れの次元を決定し(図3)3)、流れの次元の値を基に計算式を選択する(図4)ことで、岩石の種類に関らずDIの値のみを用いて有効透水量係数を推定する方法を考案しました(図5)。


図5 これまでの研究1),2),3)を統合したDIを用いた有効透水量係数の推定手法


本研究で開発した手法の妥当性を検討するために、本研究で考案した手法を用いて推定した亀裂の有効透水量係数の深度分布と、本研究で考案した手法とは別の手法で推定された幌延深地層研究センター周辺の岩盤の広い範囲の地下水の流れやすさ(岩盤の透水係数)の深度分布を比較しました。幌延深地層研究センター周辺では、地下水圧変化の観測結果から本研究とは異なる手法で、岩盤の広い範囲の地下水の流れやすさ(岩盤の透水係数)の分布が推定されています4)。岩盤内の亀裂が主な地下水の流動経路である場合、亀裂の有効透水量係数と岩盤の透水係数は、どちらの値も広い範囲の地下水流動を反映した値となるために相関します。岩盤の透水係数と亀裂の有効透水量係数の深度分布を比較したところ、その深度分布は整合的であることを確認することができました(図6)。このことは、本研究で考案した既存のデータベースの情報と地下水の流れ方の情報を統計的に統合した亀裂の有効透水量係数の推定手法が妥当であることを示しています。


図6 本研究による推定結果と既存の推定結果の比較による妥当性の検討

【今後の展望】

本研究では、既存の研究結果を活用して亀裂内の広い範囲の有効透水量係数を簡便に推定する手法を考案しました。これまでの有効透水量係数を推定する手法では亀裂を詳細にモデル化するために膨大な情報が必要でしたが、本研究で考案した手法ではボーリング調査だけで取得可能なDIの値から岩石の種類によらず推定が可能です。このことから、本研究で考案した手法は、地層処分の分野だけでなく、データの蓄積が十分でない状況でも広い範囲の地下水流動解析が要求される、地熱開発やトンネル工事等の様々な分野における開発初期段階に役立つと考えられます。現在、幌延深地層研究センターでは深度500mに向け地下研究施設を拡張しておりますが、今回の研究で実施したシミュレーション結果や考案した手法による有効透水量係数の分布から、掘削の進捗による広い範囲の地下水圧変化や継続的な湧水量の増加が発生する可能性は低いと予測されます。

【論文掲載情報】

雑誌名:Geoenergy, 2024, geoenergy2023-056, https://doi.org/10.1144/geoenergy2023-056
論文タイトル:Relationship among the fault transmissivity, flow dimension, and effective hydraulic conductivity in siliceous mudstone of the Wakkanai Formation around the Horonobe Underground Research Laboratory in Japan
著者:尾崎 裕介、石井 英一

【参考プレスリリース、参考文献】

1) 幌延深地層研究センター. 「地下深部の割れ目の水の流れやすさに関わる法則性を発見-地層処分における地下調査の効率性の向上などに役立つ新知見-」プレスリリース、令和3年12月6日、幌延深地層研究センターHP

2) Eiichi Ishii, Effects of flow dimension in faulted or fractured rock on natural reductions of inflow during excavation: a case study of the Horonobe Underground Research Laboratory site, Japan, Hydrogeology Journal, 31, 2023, 893-911, https://doi.org/10.1007/s10040-023-02628-3.

3) Hirokazu Ohno, Eiichi Ishii, Masaki Takeda, Modeling transport pathways of faults with low hydraulic connectivity in mudstones with low swelling capacity, Geoenergy, 2024, geoenergy2023-047, https://doi.org/10.1144/geoenergy2023-047

4) Yusuke Ozaki, Eiichi Ishii, and Kentaro Sugawara, Variation in fault hydraulic connectivity with depth in mudstone: An analysis of poroelastic hydraulic response to excavation in the Horonobe URL, Geomechanics for Energy and the Environment, 31, 2022, 100311, https://doi.org/10.1016/j.gete.2022.100311.

【用語解説】

(1) 透水量係数
ある厚さを持った地層や割れ目の地下水の流れやすさを表す指標

(2) 透水係数
地層や割れ目内の単位断面積あたりの地下水の流れやすさを表す指標

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