2024-06-04 九州大学
理学研究院
リユウ・フイシン 教授
ポイント
- 熱圏(※1)という宇宙空間は、人工衛星軌道に大きく影響するためその理解が重要である。
- 熱圏のマルチスケールエネルギーカスケード(※2)法則を世界で初めて発見した。
- 今後衛星軌道や宇宙天気予報の精度向上に期待される。
概要
地球を取り巻く様々な「圏」の高度範囲 高度100km付近は空と宇宙の境目と言われています。 (https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/103.htmlより引用)
現代社会のインフラを支える通信や放送衛星、GPS衛星は無数に存在しています。これらの多くは熱圏と呼ばれる上空100〜1000kmの宇宙空間は、通信や測位に大きく影響するだけでなく、衛星の安全運用にも影響します。例えば、2022年2月に起きたSPACEX社の40機近いSTARLINK衛星が落下した事故は、予想外の熱圏密度の急増が原因でした。このため、熱圏への理解や状態把握、モデリングは宇宙天気予測に必要不可欠です。しかし、直接観測が少ないため、我々の熱圏への理解はまだ乏しく、特にマルチスケールにおけるダイナミクスへの理解は極めて不明確でした。
今回の研究で、熱圏における様々なスケールにおけるエネルギーカスケード法則を発見し、エネルギーのスケール間流れと散逸率を明らかにしました。
九州大学大学院理学研究院のリユウ・フイシン教授らの国際共同研究グループは、ドイツとESAが運用する衛星を用いて、熱圏におけるエネルギーカスケード過程を支配する物理法則を世界で初めて発見しました。また、エネルギーのスケール間変換方向や変換率を明らかにしました。その発見した法則は、2次元乱流理論に予測されている海面や対流圏など気象領域での法則に類似していることから、大気組成やダイナミクスが異なる大気と宇宙領域は普遍的な物理法則に従うことを示唆しています。
今回の発見は熱圏を含む地球システムモデリングや宇宙天気予報の精度向上、高精度衛星軌道制御に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2024年6月3日午後10時(日本時間)に米国科学雑誌「Geophysics Research Letters」のオンライン版に掲載されました。
ドイツクールオンズボーン市で見られる夜光雲。その繊細かつ複雑な構造と流れは大気重力波と乱流の存在を示しています (ドイツ大気物理研究所Gerd Baumgarten博士提供)
研究者からひとこと
今回の研究成果により、熱圏宇宙領域のエネルギーカスケードを支配する物理法則が明らかになり、宇宙天気モデリングと予測に貢献できると思われます。
用語解説
(※1) 熱圏
上空100ー1000km高度の宇宙空間を指します。熱圏はロケットや、国際宇宙ステーションや人工衛星などが飛ぶ領域であり、オーロラが発生する領域でもあります。
(※2) エネルギーカスケード
様々なスケール間のエネルギーの流れを示す物理過程、マルチスケールダイナミクスへの理解に重要。
論文情報
掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:Third‐order structure functions of zonal winds in the thermosphere using CHAMP and GOCE observations.
著者名:Facundo L. Poblet, Huixin Liu, Jorge L. Chau
DOI:10.1029/2024GL108367
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研究に関するお問合せ先
理学研究院 LIU HUIXIN 教授