2024-05-31 日本原子力研究開発機構,J-PARCセンター
【発表のポイント】
- J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のパルス中性子源は、2024年4月8日から開始した運転で、施設建設時からの目標性能である「1000 kW相当の陽子ビーム出力での長期に渡る運転」を達成しました。
- パルス当たりの中性子強度は、J-PARCに次ぐ高強度のパルス中性子源である米国SNSの2倍以上にまで達しました。
- これにより、パルス中性子を用いた物質科学や生命科学の先進的な研究がさらに加速され、発展することが期待されます。
図1 世界のパルス中性子源の性能比較
【概要】
J-PARC※1 物質・生命科学実験施設(MLF)のパルス中性子源※2では、光速に近い速度まで加速された陽子ビーム※3を水銀標的※4(図2)に入射させ、水銀の原子核をバラバラに破砕する反応により、世界最高レベルの強度を持つパルス中性子を発生させます。陽子ビームの出力をあげれば、より多くの中性子が発生するので、中性子を用いた実験・研究を加速させることができます。パルス中性子を用いた実験は、物質科学や生命科学の先進的な研究を行う上で非常に有効な手段であり、米国、EU諸国、中国など世界中の主要な国々が、高出力かつ高性能のパルス中性子源の開発に凌ぎを削っています。
水銀標的内には水銀が約1m/sの流速で常に流れており、強力な陽子ビームと水銀の原子核反応で大量の中性子を生成します。
図2 水銀標的と内部構造
MLFのパルス中性子源は出力1000kWの陽子ビームを入射させることを目標として設計されました。2008年の運転開始以来、水銀標的を始めとする様々な機器の改良と検証を積み重ねながら段階的に出力を上げて来ました。そして、2024年4月8日から1000 kW相当の運転を開始し、50日以上に渡る長期運転を達成しました(図3)。
MLFのパルス中性子源の上流に設置されているミュオン源も、同時に、世界一の強度及び長期間運転を達成しております。
今後はさらに安定な運転実績を積み重ねると共に、長寿命化を含めた設備の高度化を進め、より多くの研究成果創出に貢献して行きます。
図3 MLFの陽子ビーム出力履歴
【用語の説明】
※1 J-PARC(ジェイパーク)
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同運営する大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。
※2 パルス中性子源
100万分の1秒という短い時間に大量の中性子(パルス中性子)を発生させ、これを繰り返し行う装置。J-PARC MLFでは1秒間に25回発生させる能力がある。
※3 陽子ビーム
加速器を使って、陽子を光の速さに近い速度まで加速させたもの。陽子ビームの出力が高いほど、より多くの陽子が水銀標的に入射し、より多くの中性子が発生する。
※4 水銀標的
ステンレス鋼製の容器内に水銀を流動させ、陽子ビームを照射して水銀との核反応で中性子を発生させる装置。