2024-02-26 物質・材料研究機構,東京理科大学
NIMSと東京理科大学からなる研究チームは、層状化合物二セレン化ニオブ (NbSe2) が極低温で示す電子密度の周期パターンに、鱗 (うろこ) 文様のような互い違いの三角形構造が織り込まれていることを発見しました。
概要
- NIMSと東京理科大学からなる研究チームは、層状化合物二セレン化ニオブ (NbSe2) が極低温で示す電子密度の周期パターンに、鱗 (うろこ) 文様のような互い違いの三角形構造が織り込まれていることを発見しました。さらにそれが約40年前に理論的に予言されまだ実証されていなかった構造であることを突き止めました。
- NbSe2は超伝導性を示す層状化合物です。量子現象の基礎研究で頻繁に利用されるため、その極低温物性を正確に理解することは重要です。とくに、極低温で超伝導と電荷密度波 (電子密度の周期的な濃淡) が共存する特徴があり、同居する2つの異なる状態がどのように相互作用しているか関心が集まっています。その解明のためには電荷密度波の構造を正確に知ることが基本です。これまでの研究では、NbSe2の電荷密度波に星型のパターンが繰り返される領域とクローバー型のパターンが繰り返される領域とが混在する様子が観察されていました。しかし、これら2種類のパターンを数値的に正確に識別する手法が無かったために、分布の規則が分かっていませんでした。
- 研究チームは、走査型トンネル顕微鏡という原子レベルの解像度で結晶表面を観察できる装置を使って、NbSe2の電荷密度波の高解像度データを取得しました。このデータに対して、電荷密度波の波面と原子位置との間の「ずれ」に着目した数値処理を行うことで、星型のパターンとクローバー型のパターンの分布を曖昧さなく可視化することに成功しました。その結果、2種類のパターンがそれぞれ三角形の分域 (ドメイン) を作っており、それらが互い違いに並んで、織物の柄でいう「鱗文様」のように敷き詰められていることがわかりました。このドメイン構造は、1980年代までに行われた理論研究で予想されていたものでしたが、今回、現実の物質でその存在が初めて実証されました。
- 今回の成果は、NbSe2や関連物質における電荷密度波の正確な理解につながり、高温超伝導体にも関係する電荷密度波と超伝導の関わりを紐解く手がかりとなると期待されます。また、これらの物質を基板や素材として利用する量子現象や量子材料の研究を基礎から支えます。
- 本研究は、NIMSマテリアル基盤研究センターナノプローブグループ 吉澤俊介主任研究員、鷺坂恵介主幹研究員と、東京理科大学理学部第一部物理学科 坂田英明教授からなる研究チームによって行われました。
- 本研究成果は、Physical Review Letters 誌の2024年2月2日発行号 (Vol. 132, Issue 5) にて掲載されました (https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.056401) 。
プレスリリース中の図 : 星型パターンとクローバー型パターンの電荷密度波が観測されるドメインが鱗文様のように分布している様子
掲載論文
題目 : Visualization of alternating triangular domains of charge density waves in 2H-NbSe2 by scanning tunneling microscopy
著者 : Shunsuke Yoshizawa, Keisuke Sagisaka, and Hideaki Sakata
雑誌 : Physical Review Letters
掲載日時 : 2024年1月29日 オンライン掲載
DOI : 10.1103/PhysRevLett.132.056401