2024-01-15 水産研究・教育機構,海洋生物環境研究所,サスティナビリティセンター,里海づくり研究会議,エイト日本技術開発,東京大学,海洋研究開発機構
ポイント
- 日本沿岸域で、降雨時の塩分低下に伴って、10日間程度pH(注1)が低下する現象(酸性化)が頻繁に発生していることがわかりました。
- その際に、貝類の幼生の殻の形成に影響が現れるとされるレベルまでpHが一時的に低下することも確認されました。
- ただし、実際に殻に異常を生じた貝類幼生は観察されていません。
- 陸から沿岸域へ供給される栄養塩(注2)の量が少ない海域ほど、塩分低下時のpHの短期的低下が小さいことがわかりました。
- 沿岸域への栄養塩負荷量を適切にコントロールすることによって、将来の沿岸域におけるpHの低下量を削減できる可能性があります。
人類が放出した二酸化炭素の一部を海が吸収することにより、海水のpHが徐々に低下していく「海洋酸性化」が世界中で観測されています。海水のpHが低下し過ぎると、貝やウニ、サンゴ等の石灰石(炭酸カルシウム)の殻を持つ生物が殻を作りにくくなるため、沿岸の生態系や磯根資源に何らかの影響を与えることが懸念されています。
水産研究・教育機構は海洋生物環境研究所、サスティナビリティセンター、里海づくり研究会議、エイト日本技術開発、東京大学大気海洋研究所、北海道大学大学院環境科学院、海洋研究開発機構と連携して、国内の5つの沿岸海域(岩手県宮古市地先、新潟県柏崎市地先、宮城県南三陸町志津川湾、岡山県備前市日生町地先、広島県廿日市市地先)においてpHとその他の関連する項目の通年観測を実施し、日本沿岸域における酸性化の進行状況を評価して、論文として公表しました。
観測した5つの海域で、pHの年平均値は8.0~8.1の間でした。しかし、降雨等により沿岸域の塩分が短期的に低下した時に、沿岸のpHも10日間程度の短期間、平均値から大きく外れて低下する現象を、年十回〜数十回の頻度で起こしていることがわかりました。この際、特に規模の大きなpH低下現象の際には、飼育実験の上では貝類の幼生の殻の形成に異常を生じる可能性のレベルまで、pHが低下することも確認されました。ただし、現時点では貝類幼生の顕微鏡観察の結果から実際に殻に異常を生じた幼生は確認されていません。
一方で、5つの海域間の比較からは、陸域から沿岸に供給されている栄養塩量が少ない海域ほど、塩分低下時に観察される短期的なpHの低下幅が小さくなっていました。栄養塩が一時的に多くなることにより生物活動が活発化した結果、当該海域のpHが下がったと考えられることから、各沿岸域に陸から供給される栄養塩の量を適切にコントロールすることによって、短期的なpH低下イベント抑制の可能性が示唆されました。
本研究は、独立行政法人環境再生保全機構「環境研究総合推進費事業」「海洋酸性化と貧酸素化の複合影響の総合評価」(JPMEERF20202007)および日本財団助成事業「海洋酸性化適応プロジェクト」により実施されたものです。
詳細資料(PDF:1,679KB)
お問い合わせ先
(研究担当者)
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部(横浜) 小埜恒夫
水産技術研究所 環境応用部門 沿岸生態システム部(宮古) 村岡大祐
水産技術研究所 環境応用部門 沿岸生態システム部(廿日市)鬼塚 剛
(広報担当者)
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 広報課