五重項状態の室温量⼦コヒーレンスの観測に成功 〜超⾼感度な量⼦センシングへの重要な⼀歩〜

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2024-01-09 九州⼤学

ポイント

  • 有機分⼦を⽤いてより多くの電⼦からなる量⼦ビットを作ることは将来の量⼦技術に向けて重要であるが、4つの電⼦スピンを持つ五重項状態の量⼦コヒーレンスを室温で達成した例はなかった。
  • 分⼦性材料の五重項状態の量⼦コヒーレンスを室温で観測することに初めて成功し、⾦属錯体⾻格(MOF)中で⾊素部位の運動性を抑制することがその実現の鍵であることを明らかにした。
  • 超⾼感度な量⼦センシングを実現する上で重要な基盤的知⾒が得られた。

概要

⼀重項分裂は、光照射により⽣成された1 分⼦の励起⼀重項状態が近傍の分⼦とエネルギーを共有し、2 つの励起三重項状態を⽣成する現象です。この過程で⽣じる五重項状態と呼ばれる特殊な量⼦状態は、量⼦コンピューティングをはじめとする量⼦技術の最⼩単位である量⼦ビット*1 に利⽤できることから近年研究が進んでいます。しかし、量⼦ビットとして利⽤するにあたり必要とされる、五重項状態の量⼦コヒーレンス*2 を室温で観測した例はありませんでした。
今回、九州⼤学⼤学院⼯学研究院の⼭内朗⽣⼤学院⽣、⽥中健太郎⼤学院⽣(当時)、楊井伸浩准教授、同⼤学⼤学院理学研究院の宮⽥潔志准教授、神⼾⼤学分⼦フォトサイエンス研究センターの婦⽊正明特命助⼿、⼩堀康博教授らの研究グループは、九州⼤学⼤学院⼯学研究院の君塚信夫教授、同⼤学⼤学院理学研究院の恩⽥健教授、神⼾⼤学⼈間発達環境学研究科の佐藤春実教授らと共同して、室温における五重項状態の量⼦コヒーレンス観測に初めて成功しました。
量⼦コヒーレンスの観測は量⼦センシング*3 への応⽤上⾮常に重要です。本研究ではMOF 中に⾊素を⾼密度に集積化することにより、五重項状態を発⽣させ、かつ室温下でもその量⼦コヒーレンスを100ns(ナノ秒)以上維持できることを⾒出しました。今回の成果により、複数の電⼦スピンから成る量⼦ビットを室温で⽣成するための要件が明らかとなり、今後のMOF の多孔性を活かした超⾼感度な量⼦センシングの実現が期待されます。
本研究成果は、2024 年1 ⽉4 ⽇(⽊)4 時(⽇本時間)にアメリカ科学振興協会の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。


(参考図)⼀重項分裂により⽣成された五重項状態の量⼦コヒー レンスの⽣成

研究者らからひとこと

今回の成果は材料の合成、測定、解析を得意とするグループが密に協⼒することで得られました。精密な構造制御や多孔性の付与ができるという分⼦性材料の利点を⽣かすことで、これからの量⼦の時代における材料化学の活躍の場を⾒出していきます。

用語解説

(※1) 量⼦ビット
0 と1 で表される古典的なビットの概念をエネルギーの異なる2 準位の量⼦系へと拡張したものであり、その例として電⼦スピンが該当します。
(※2) 量⼦コヒーレンス
量⼦⼒学に特有の性質の1 つであり、複数の状態が混ざり合った重ね合わせ状態のことを指します。電⼦スピンの場合、エネルギー分裂に対応した周波数の強いマイクロ波を適切な時間照射することによって、2 つの状態の重ね合わせ状態、すなわち2 状態間の量⼦コヒーレンスを⽣み出すことができます。
(※3) 量⼦センシング
量⼦ビットの量⼦⼒学的な性質を利⽤してセンシングを⾏う技術で、従来に⽐べて⾼感度・⾼分解能なセンシングが可能になると期待されています。

論文情報

掲載誌:Science Advances
タイトル:Room-temperature quantum coherence of entangled multiexcitons in a metal-organic framework
(多孔性⾦属錯体中における量⼦もつれ多重励起⼦の室温量⼦コヒーレンス観測)
著者名:⼭内朗⽣・⽥中健太郎・婦⽊正明・藤原才也・君塚信夫・笠僚宏・⻄郷将⽣・恩⽥健・楠本 遼太・上野那美・佐藤春実・⼩堀康博・宮⽥潔志・楊井伸浩
DOI:10.1126/sciadv.adi3147

研究に関するお問い合わせ先

工学研究院 楊井 伸浩 准教授

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