トポロジカル磁性体の磁気熱電効果で起電力生成に成功 ~ゼロ磁場下でも熱電変換動作が可能で創エネや省エネに期待~

ad

2024-01-09 東北大学

東北大学金属材料研究所 准教授 藤原宏平
東北大学金属材料研究所 教授 塚﨑敦

【発表のポイント】

  • トポロジカル物質(注1)の一種であるトポロジカル磁性体を代表するコバルト系強磁性化合物の薄膜を用いて元素置換により電子状態を制御することで、磁気熱電効果(異常ネルンスト効果(注2))による熱起電力の符号を制御することに初めて成功しました。
  • 符号の異なる薄膜を組み合わせたサーモパイル素子を作製し、異常ネルンスト効果を用いる熱電変換素子の起電力生成を達成。ゼロ磁場下での熱電変換動作を実証しました。
  • 電子状態に着目した材料開発により、磁気熱電変換素子の高性能化を通して創エネ化や省エネ化の取り組みに貢献するものと期待されます。

【概要】

電子産業におけるエネルギーの効率的な利用への要請が強まる中、熱を電気に変換する熱電変換材料に注目が集まっています。トポロジカル物質科学の分野では、巨大な磁気熱電効果を示す磁性体が報告されており、磁気熱電変換素子や熱流センサへの応用が期待されています。異常ネルンスト効果から大きな熱起電力(注3)を取り出すために、熱起電力の符号の異なる層を接続して電圧を増強する素子、サーモパイル(注4)が提案されています。これまでの報告は、熱起電力の符号の異なる二種の物質を組み合わせたもので、作製には異なる構成原料や合成プロセスを用いる必要があります。同一の物質系で磁気熱電変換特性(異常ネルンスト係数)の符号そのものを簡便に制御できれば、素子化への道が大きく拓けることが期待されますが、そのような例はありませんでした。

東北大学金属材料研究所の野口駿大学院生(研究当時)、藤原宏平准教授と塚﨑敦教授、富山県立大学の柳有起准教授、物質・材料研究機構(NIMS)の平井孝昌研究員らの研究グループは、代表的な強磁性(注5)トポロジカル半金属(注6)であるコバルトスズ硫黄化合物の電子状態に着目し、元素置換した薄膜試料を作製することで、異常ネルンスト係数の符号を正・負の双方に制御できることを明らかにしました。さらに、元素置換で作り分けた二つの強磁性層を接続してサーモパイル素子を作製し、ゼロ磁場下での熱電変換動作を実証しました。

この成果はトポロジカル物質に基づく磁気熱電変換材料の開発やエネルギーハーベストの実現に向けた関連技術の高度化に寄与すると期待されます。本研究成果は2024年1月8日10:00(英国時間)に、科学誌Nature Physicsオンライン版に掲載されました。


図1. (a) 異常ネルンスト効果による熱起電力の符号の異なる物質の磁場応答(垂直磁気異方性の物質の場合)と (b) その模式図。(a)中の太矢印と白抜き丸は、試料面直上向き方向に磁化を配向させた状態を示す。(c) 符号の異なる二つの層を交互に接続したサーモパイル。接続数に比例して、熱起電力が増加する

【用語解説】

注1. トポロジカル物質 無数の原子・イオンから成る固体では、電子の存在が許されるエネルギー状態がバンド(帯)として出現し、バンド構造の性質が諸物性を決定する。従来の金属や半導体とは異なるバンド構造の幾何学的性質をもつ物質群をトポロジカル物質と呼ぶ。トポロジカル物質に関する科学研究は、近年急速な発展を遂げている。

注2. 異常ネルンスト効果 導電体に温度勾配とそれと直交する方向に磁場を印加したときに、それらの両方に直交する方向に電位勾配(熱起電力(注3))が生じる現象をネルンスト効果と呼ぶ。磁場を印加する対象が磁性体の場合、異常ネルンスト効果と呼び、温度勾配、磁化、電位勾配がそれぞれ直交関係にある。

注3. 熱起電力 物質に温度差や温度勾配を加えたときに、試料に生じる電位差。

注4. サーモパイル 複数の熱電変換層を直列あるいは並列に接続した構造の素子。温度差と同じ方向に起電力が生じるゼーベック効果に基づくサーモパイルが一般的に立体的な素子構造であるのに対し、異常ネルンスト効果に基づくサーモパイルは平面的な構造で作製することができる。

注5. 強磁性 電子がもつミクロな磁石の性質であるスピンが同じ方向に並ぶことで、マクロな磁化を生み出している磁気的状態。鉄、ニッケル、コバルトが室温で強磁性を示す代表的な物質。本研究で用いたCo3Sn2S2は、約180ケルビン(約−93 ℃)以下で強磁性を示す。

注6.トポロジカル半金属 結晶の特別な対称性やスピン軌道相互作用によって保護された線形のエネルギー分散(電子のエネルギーと波数の関係)が試料全体に三次元的に広がった物質。近年の研究を通して、Co3Sn2S2が強磁性のトポロジカル半金属であることが示された。

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 低温物理学研究部門
准教授 藤原 宏平
教授 塚﨑 敦

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班

ad


1700応用理学一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました