2023-09-21 京都大学
図:キラルTiS2におけるスピン選択伝導の模式図。もともとランダムなスピンの向きを持つ電流を流すと、右手系TiS2では下向きスピンが、左手系TiS2では上向きスピンが、それぞれほぼ選択的に伝導される。
分子工学専攻の辺智芸 博士課程学生、筒井祐介同助教、関修平同教授、須田理行同准教授らの研究グループは、二硫化チタン(TiS2)と呼ばれる層状化合物の層間にキラル分子を挿入した新奇な物質「キラルTiS2」を開発し、挿入したキラル分子のキラリティに依存して同物質中を特定方向のスピンを有する電子のみがほぼ選択的に伝導することを明らかにしました。
電流を担う電子の一つ一つは、スピンと呼ばれるミクロな磁石としての性質を持っていますが、通常の電流中ではそれぞれのスピンがバラバラの方向を向いているため磁気情報を持っていません。スピンの方向を特定の一方向に揃えることで磁気情報を持たせた電流は、「スピン偏極電流」と呼ばれ、この磁気情報を利用した省電力デバイスや電気化学的な水素エネルギー製造への応用の可能性が期待されていましたが、これまでに室温で100%に迫るスピン偏極率を実現できる電極材料は報告されておらず、実用化への壁となっていました。
本研究ではキラルTiS2に電流を流すだけで、室温でスピン偏極率(スピンが一方向に揃っている度合い)が約95%ものスピン偏極電流が生成可能でありことを見出しました。更に、同材料を電極とした高性能な磁気抵抗素子の作製や水電解セルによる水素製造の効率化が可能であることも実証しました。本成果は、次世代エレクトロニクスやエネルギー製造を担う革新的電極設計指針となることが期待されます。
本成果は、2023年9月11日にドイツの国際学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。
研究詳細
一方向のスピンのみを選択的に伝導するキラル金属電極材料を開発 ―省電力デバイスの実現や水素エネルギー製造の効率化に期待―
研究者情報
筒井 祐介
関 修平
須田 理行
書誌情報
タイトル
Chiral van der Waals superlattices for enhanced spin-selective transport and spin-dependent electrocatalytic performance (効率的なスピン選択的電子輸送とスピン依存電極触媒性能を有するキラルファンデルワールス超格子)
著者
Zhiyun Bian,Yuki Nakano,Keisuke Miyata,Ichiro Oya,Masaki Nobuoka, Yusuke Tsutsui,Shu Seki and Masayuki Suda*
掲載誌
Advanced Materials