2023-06-29 九州大学
ポイント
- 酸化物全固体電池の製造は「異種材料間の反応回避」と「緻密焼結体の実現」両立が課題
- 既報より250ºC以上の低温焼結でも同等の密度とイオン伝導率を実現する独自材料を開発
- 高いイオン伝導率を生かして室温での繰り返し作動が可能なことを確認
概要
酸化物固体電解質を用いた全固体電池は、発火や有毒ガス発生のない安全性の高い電池です。しかしながら、このような電池では電池材料間を接合するために高温焼結(≥ 1000°C)が必要であり、この高温プロセス中に電極材料と固体電解質が反応してしまうために電池化が困難でした。
九州大学大学院総合理工学府博士課程3年(兼 株式会社デンソー)の林真大、総合理工学研究院の渡邉賢准教授、島ノ江憲剛教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)の高田和典博士、大西剛博士らの研究グループは電解質の1種であるLi₇La₃Zr₂O₁₂(LLZ)において、汎用的なセラミックプロセスにおける焼結温度を750℃に低温化することに成功しました。従来の低温化技術では背反としてイオン伝導率の低下がありましたが、今回開発した材料では,750°Cでの焼結にもかかわらず、室温でのイオン伝導率が1.2×10-3 S/cmと既存の酸化物系固体電解質のなかでもトップレベルのイオン伝導率を実現しました。今回開発した材料は、LLZと焼結助剤をナノレベルで複合化したものです。この複合化においては、助剤とLLZの濡れ性・助剤へのLLZの溶解度に着目し、LLZへの添加元素や助剤を構成する元素を最適化しました。複合化する助剤量によって焼結性や、イオン輸送経路のボトルネックサイズを調整可能であることを突き止めました。さらに開発した材料を用いて全固体電池を作製し、室温環境において80サイクルにわたって充放電可能であることを実証しました。これまでに報告されたLLZを用いた電池の多くは内部抵抗が高く,60ºC以上でないと動作しませんでしたが、本研究における全固体電池は室温での動作も可能であり,実用化に大きく近づいたものということができます。
本研究成果は英国王立科学会誌「Journal of Materials Chemistry A」に2023年6月14日(現地時間)に掲載されました。
作製した全固体電池の充放電サイクル特性および正極層の拡大図(750 ºC焼結で緻密な正極層が形成されており,またこの正極層を備える全固体電池は80サイクルにわたって充放電可能であることが確認できる。)
焼結助剤を複合化したLLZ粒子を用いて緻密な電解質となる機構(上段)、既報の材料と今回開発した材料の比較(下段)
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論文情報
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A
タイトル:Impact of intentional composition tuning on the sintering property of Ca-Bi co-doped Li₇La₃Zr₂O₁₂ for co-fired solid-state battery
著者名:Naohiro Hayashi, Ken Watanabe, Tsuyoshi Ohnishi, Kazunori Takada and Kengo Shimanoe
DOI:10.1039/D3TA00921A
研究に関するお問い合わせ先
総合理工学研究院 渡邉 賢 准教授