世界初、結晶欠陥の3次元分布を可視化~太陽電池の高効率化に向け欠陥発生機構解明に期待~

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太陽電池の高効率化に向け欠陥発生機構解明に期待

2018/06/26 名古屋大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 太陽電池の高性能化には、シリコンインゴット中の結晶欠陥が問題であった。
  • 実験科学者とデータ科学者の連携により、シリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元分布の可視化に成功した。
  • 欠陥発生機構の解明によるシリコンインゴットの高品質化、太陽電池の高性能化への貢献が期待される。

名古屋大学 大学院工学研究科 宇佐美 徳隆 教授の研究グループと、同大学 大学院情報学研究科 工藤 博章 准教授の研究グループは、多数の太陽電池用シリコンウエハー注1)の蛍光画像注2)を収集し、得られた多数の画像に情報処理技術を適用することで、従来は困難であった太陽電池用シリコンインゴット注3)中の結晶欠陥注4)の3次元分布の可視化に成功しました。

再生可能エネルギーへの期待から太陽光発電の普及が急速に進んでいますが、さらなる普及には発電コストの低減が必要です。太陽電池の主材料である多結晶シリコン注5)は、製造コストの低さがメリットですが、結晶欠陥が多いことがエネルギー変換効率を向上するうえでの課題でした。結晶欠陥は、太陽電池用シリコンウエハーを作製するためのシリコンインゴットの製造時に発生することが知られていますが、その内部で結晶欠陥がどのように分布しているかを調べる方法は、これまでにありませんでした。そのため、結晶欠陥の発生メカニズムが解明できず、結晶欠陥の少ない高品質なシリコンインゴット製造技術の開発指針も不明確でした。

本研究グループは、シリコンインゴットをスライスして作製した大量の実用サイズの多結晶シリコンウエハーに、レーザー光を照射し、蛍光と反射光が混ざった画像をCCDカメラで撮影しました。得られた多数の画像に対し、情報処理技術を適用することでウエハー表面のスライス痕やノイズを除去し、シリコン多結晶の結晶欠陥を蛍光強度の低い領域として抽出しました。さらに大量の2次元画像を3次元に再構成することにより、シリコンインゴット中で結晶欠陥が発生したり消滅したりする様子が3次元的に示されました。このようなシリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元可視化により、結晶欠陥の発生メカニズムが解明され、結晶欠陥の少ない高品質なシリコンインゴットの開発が加速すると期待されます。

本成果は、2018年6月26日付け(日本時間)「Solar Energy Materials and Solar Cells」誌のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的創造研究推進事業 CREST

研究領域:「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」
(研究総括:細野 秀雄 東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)

研究課題:「多結晶材料情報学による一般粒界物性理論の確立とスマートシリコンインゴットの創製」

研究代表者:宇佐美 徳隆(名古屋大学 大学院工学研究科 教授)

研究実施場所:名古屋大学 大学院工学研究科、大学院情報学研究科

研究期間:2017年10月~2023年3月

本研究領域では、これまで実施されてきた物質・材料開発の基本となる実験科学と、理論、計算、データ科学とを融合させることにより、革新的材料開発へとつながる手法の構築を目指します。また、本研究課題では、大量の実用多結晶ウエハーに対するデータ収集・機械学習・理論計算の連携により、一般粒界の構造・物性の理論を構築する多結晶材料情報学を開拓します。データ科学によって設計し、理論に裏付けされた有用な多結晶組織を実現して、優れた特性を示す太陽電池用スマートシリコンインゴットを創製することで、手法の有効性を実証していきます。

<研究の背景と経緯>

再生可能エネルギーへの期待から、太陽光発電の普及が急速に進んでいますが、さらなる普及には発電コストの低減が求められています。発電コストの低減には、太陽電池の製造コストの低減とエネルギー変換効率の向上が必要です。

現在最も普及している太陽電池の主材料は結晶シリコンであり、結晶太陽電池は発電量で全太陽電池の9割以上を占めています。結晶シリコンは、高品質ですが製造コストの高い単結晶シリコンと、品質は単結晶に劣るものの製造コストの低い多結晶シリコンに分けられます。多結晶シリコンは、発電量の市場シェアが単結晶シリコンの2倍程度で、太陽電池の主材料となっています。今後は、多結晶シリコンの製造コストが低いというメリットを損なうことなく、品質を改善し、エネルギー変換効率を単結晶と同等まで向上させることが太陽光発電の低コスト化の鍵となっています。

太陽電池用多結晶シリコンウエハーを作製するには、まず水から氷を作るのと同様に、高温で溶かしたシリコンを容器の内部で冷やし固めて多結晶シリコンインゴットを成長し、これを専用ののこぎり(マルチワイヤー・ソー)でスライスします。単結晶シリコンウエハーを作製するには、高温で溶かしたシリコンに小さな単結晶(種結晶)を接触させ、回転させながら徐々に引き上げることで単結晶インゴットを成長する必要があり、多結晶と比較して、一度に製造できるインゴット重量が小さく、高価な製造設備が必要となります。多結晶シリコンの品質が単結晶に劣る原因は、シリコンインゴットの製造時に発生してしまう結晶欠陥です。よって、結晶欠陥の少ないシリコンインゴットの製造技術が求められています。

結晶欠陥の少ないシリコンインゴットの製造技術を開発するには、結晶欠陥の発生メカニズムの理解が不可欠ですが、これまで、シリコンインゴット中で結晶欠陥がどのように分布しているかを調べる方法さえ、ありませんでした。そのため、結晶欠陥の発生メカニズムが解明できず、結晶欠陥の少ない高品質なシリコンインゴット製造技術の開発指針も不明確でした。

<研究の内容>

そこで、実験科学を得意とする宇佐美グループと、データ科学を得意とする工藤グループが連携し、シリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元分布の可視化に挑戦しました。

具体的には、シリコンインゴットをスライスして作製した多数の実用サイズの多結晶シリコンウエハーに、レーザー光を照射し、蛍光と反射光が混ざった画像を特殊なCCDカメラで撮影しました。結晶欠陥の存在を蛍光強度の低下として検出し、さらに、多結晶の複雑な組織情報を反射光強度の差として検出しようと試みました。

得られた画像の生データは、ウエハー表面のスライス痕や、レーザー光の散乱による干渉縞などの影響により、結晶欠陥による蛍光強度の低下を視認することは困難でした。そこで、フーリエ変換および逆フーリエ変換注6)によるスライス痕の除去、色濃度の正規化、平滑化およびアンシャープマスク処理注7)などの情報処理技術を適用することで、多結晶ウエハーの複雑な組織や結晶欠陥領域が明確になりました。さらに、輝度の閾値処理注8)により結晶欠陥を抽出し、画像の連続性に基づき個々の結晶欠陥領域をラベリング処理して、個別の結晶欠陥領域を追跡することも可能としました。なお、本測定の空間分解能は、約0.3ミリメートル(mm)であり、可視化された結晶欠陥のサイズはミリメートル程度のものです。

図1に、ラベリング処理後の画像の典型例を示します。結晶欠陥は長方形で囲われており、長方形の上の数字は輝度が閾値以下の領域の画素数を示しています。さらに、ラベリング処理後の2次元画像を積層しインゴットのイメージを再構成することで、結晶欠陥の3次元分布を可視化しました。個々の結晶欠陥を追跡した結果から、本測定で可視化されたほぼ全ての結晶欠陥は、シリコンインゴットの成長過程で内部に点として発生し、一旦拡大した後に消滅することがわかりました。

図2は、インゴット再構成結果の一例であり、多結晶組織と結晶欠陥の関係が可視化されています。2次元画像を時系列に従って表示することで、結晶成長過程における多結晶組織や結晶欠陥の分布の変化をアニメーションで示すことも可能です。また、インゴット内部の情報を利用して、任意断面の様子を示すこともできます。

図3は、個々の結晶欠陥領域をラベリング・追跡した結果をもとに、インゴット中の結晶欠陥の分布を3次元再構成した結果です。結晶欠陥の集合体の形状をはっきりさせるため、個別の結晶欠陥領域ごとに色分けしています。この図から、多数の結晶欠陥が生成・拡大・消滅している様子がわかります。

<今後の展開>

本研究では、シリコンインゴット中の結晶欠陥の3次元分布の可視化に成功し、さらに、結晶組織の情報も同時に得られました。本成果は、結晶欠陥の発生・消滅メカニズムの解明の大きな手がかりとなります。研究グループでは、機械学習も活用して結晶欠陥の発生点の特徴を明確にし、インゴット製造条件の情報を連携させて解析することで、結晶欠陥の発生・消滅メカニズムの解明を進めます。今後、民間企業との共同研究により、太陽電池用高品質シリコンインゴットの新規製造技術の開発を実施することも計画しています。

<参考図>

図1 ラベリング処理後の画像の典型例

図1 ラベリング処理後の画像の典型例

(試料は156mm角ウエハー)

図2 インゴット再構成結果

図2 インゴット再構成結果

(底面が156mm角のブロック)

図3 シリコンインゴット(底面が156mm角のブロック)中の結晶欠陥の3次元分布

図3 シリコンインゴット(底面が156mm角のブロック)中の結晶欠陥の3次元分布

結晶欠陥の集合体ごとに色分けしている。

<用語解説>
注1)太陽電池用シリコンウエハー
太陽電池の基板材料となる薄い板状のシリコン結晶。本研究では実用サイズ(一辺が156mm角)で厚さが0.15mm程度のものを研究対象としている。
注2)蛍光画像
レーザー光などの励起光照射によって物体が発する蛍光の強度の2次元分布を示す画像。本研究では、晴天時の太陽光と同等の強度のレーザー光を太陽電池用シリコンウエハーの全面に照射し、励起レーザー光の大半をカットするフィルターを介して、CCDカメラによって撮影を行った。
注3)太陽電池用シリコンインゴット
石英容器中でシリコン融液を容器の下部から上部に向かい1方向成長することによって製造される塊状のシリコン結晶。大型のものの場合は重量が1,000キログラムを超える。シリコンウエハーはインゴットを156mm角のブロックに切り出し、さらに薄くスライスすることで作製される。
注4)結晶欠陥
原子が規則的に並んだものが結晶であるが、あるべき原子が抜けるなど構造の乱れた領域の総称を結晶欠陥と呼ぶ。一般的には電気的特性を悪化させ、太陽電池の効率低下の原因となる。
注5)多結晶シリコン
対象とする領域全体が1つの結晶粒で構成される単結晶に対して、多くの結晶粒で構成される結晶を多結晶と呼ぶ。太陽電池用の多結晶シリコンは、結晶粒サイズが数mmであり1枚の太陽電池用シリコンウエハーは典型的には数千の結晶粒から構成される。
注6)フーリエ変換と逆フーリエ変換
フーリエ変換は関数の積分変換の1つであり、位置の関数としての画像を周波数の関数に変換することで、どのような周波数成分が含まれているかがわかる。今回取得した画像には、ウエハー表面に存在する一定周期のスライス痕に起因する模様が含まれていた。フーリエ変換により、その周期に対応する信号を抽出し、その信号を除いた後に、フーリエ逆変換により画像に戻すことで、表面のスライス痕の除去を行った。
注7)アンシャープマスク処理
画像をぼかし、もとの画像との差を利用して処理を行うことで、画像の輪郭部を強調する画像処理技術。この処理により、結晶粒と結晶粒の境界部分である結晶粒界が明確になる効果がある。
注8)閾値処理
画像の輝度が閾値として定義される一定の値以下の領域を抽出する処理。本研究では、この処理により結晶欠陥を抽出した。
<論文情報>

タイトル:“3D Visualization and Analysis of Dislocation Clusters in Multicrystalline Silicon Ingot by Approach of Data Science”
(データ科学的手法による多結晶シリコン中の転位クラスターの3次元可視化と解析)

doi:10.1016/j.solmat.2018.06.008.

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

宇佐美 徳隆(ウサミ ノリタカ)
名古屋大学 大学院工学研究科 物質プロセス工学専攻 教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

名古屋大学 総務部 総務課 広報室

科学技術振興機構 広報課

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