2023-06-15 国立天文台
CIZA1359の電波強度分布。黒の線は、広がった放射を強調したuGMRTでの観測による電波強度分布を示している。白はX線天文衛星「すざく」によるX線表面輝度分布、赤は「XMM-ニュートン」による高温領域を示している。(クレジット:藏原昂平) オリジナルサイズ(793KB)
衝突早期の段階にある銀河団からはこれまでほとんど見つかっていなかった電波放射を、低周波での観測で検出することに成功しました。銀河団同士の衝突により放射される電波のメカニズムの謎に迫るとともに、将来計画されている次世代電波干渉計の観測結果をより詳細に理解する手法にもつながります。
銀河は宇宙空間で銀河団と呼ばれる集団を成しています。数千個もの銀河から成るような巨大な銀河団は、膨大な重力エネルギーを抱えた宇宙最大規模の天体と言えます。銀河団は互いに衝突を繰り返しながら進化すると考えられています。その衝突で発生した衝撃波による「粒子加速」と呼ばれるメカニズムで光速近くにまで加速された電子が放射する電波が、銀河団から検出されています。ただし、これまで検出された電波放射は、銀河団同士の衝突が十分に進んだ衝突後期の段階の銀河団からが主であり、衝突が始まって間もない衝突早期の段階の銀河団からはほとんど見つかっていませんでした。このことは、「粒子加速」のメカニズムがどのような状態で機能するのかという大きな謎を残していました。
この謎を解決するため、国立天文台の藏原昂平(くらはら こうへい)特任研究員を中心とする国際研究チームは、衝突早期の段階にある銀河団「CIZA1359」とその周辺をセンチメートル帯の低周波の電波で観測をしました。観測にはインドにある巨大メートル波電波干渉計(uGMRT)を用い、また解析には、「方向依存型較正(こうせい)」と呼ばれる最新の手法を導入しました。その結果、これまでの研究よりもおよそ10倍高い感度を達成することに成功し、CIZA1359からの電波放射の分布を高い精度で、かつ多様なスケールで明らかにしました。また、38000という記録的なイメージダイナミックレンジを達成しました。
今回の研究で、CIZA1359からは初めて、銀河団同士の衝突に由来すると考えられる淡く広がった電波の検出に成功しました。この結果は衝突早期の段階における弱い衝撃波でも、「粒子加速」のメカニズムが存在することを明らかにするものです。またこの電波の分布の中には、活動銀河核のような構造が複数見られました。活動銀河核からは電子などの荷電粒子が放出されるため、今回検出された衝突早期の銀河団からの淡い電波放射との関連が示唆されます。
一方で、名古屋大学大学院理学研究科 博士課程の大宮悠希(おおみや ゆうき)さんを中心とする研究グループは、欧州宇宙機関(ESA)のX線天文衛星「XMM-ニュートン」による観測データを解析し、CIZA1359の電波放射がある領域において衝撃波が存在することを初めて発見しました。このX線観測の結果と今回の電波観測の結果を合わせることで、「粒子加速」のメカニズムをより詳細に理解できることが期待されます。
今回のような新しい電波放射の発見に用いた最新の解析手法は、今後建設が始まる次世代の超大型電波望遠鏡「SKA(エスケーエー)」などによる観測結果を、より詳細に理解するためにも重要な技術となります。今後も同様の解析手法の発展と、多くの新しい電波放射の発見が期待されます。
この研究成果は、Kurahara et al. “Diffuse radio source candidate in CIZA J1358.9-4750”として、2023年2月出版の『日本天文学会欧文研究報告(PASJ)』の特集号“Metre and Centimetre Radio Astronomy in the Next Decade(メートル、センチメートル電波天文学の次の10年)”に掲載されました。