2023-05-26 九州大学
ポイント
- 自発光デバイスはディスプレイを中心とした幅広い用途に使用される
- 有機ELよりも単純な素子構造で製造プロセスがシンプルな電気化学発光セルの発光層としてデンドリマーとセルロース由来電解質を使うことで長寿命化出来ることを発見
- 3原色発光の実現とさらなる長寿命化によって環境にやさしい発光デバイスとなることが期待
概要
電気化学発光セル(LEC)*は構造と作製プロセスのシンプルさから有機EL素子に変わる安価な次世代の照明や表示デバイスへの応用が期待されています。しかし、発光材料と電解質の混合がうまく行かないことなどが原因で素子寿命が短いことなどが課題として挙げられています。
九州大学 先導物質化学研究所のアルブレヒト建准教授、山岡敬子テクニカルスタッフ、ミュンヘン工科大学シュトラウビングキャンパスのRuben Costa教授、Luca M. Cavinato 博士課程学生らの研究グループは、電解質との混合が良好な新規なデンドリマー型*熱活性化遅延蛍光(TADF)材料*を開発しました。TADF材料は有機ELデバイスにおける第3の発光材料として注目されていますが、親水性の電解質と混ざりにくい疎水性材料が多く、LECへの適用例は多くありませんでした。開発したデンドリマーをセルロース(バイオマス)由来の電解質と組み合わせることで黄色発光を示す活性層をLECへと展開し輝度半減寿命1300時間を達成しました。デンドリマーはこれまでに使用されてきた材料である低分子・錯体・高分子とは異なる新たなカテゴリーの発光材料として期待できます。
今後はデンドリマーの構造を変えることで更なる長寿命化や黄色以外の発光色の実現を通じて環境にやさしい照明や表示デバイスとして展開することが期待されます。
本研究成果は国際学会誌 [Advanced Functional Materials] (WILEY-VCH)に2023年5月16日(現地時間)にオンライン掲載されました。
黄色発光を示すデンドリマーと発光中のLECデバイス(新規な熱活性化遅延蛍光デンドリマーとバイオマス由来電解質を組み合わせることで輝度半減寿命1300時間を達成)
(※1) 電気化学発光セル
有機ELが一般的に多層の積層構造が必要であるのに対して、電解質を発光層に混合することで単層での電荷注入を容易にした発光デバイス。発光層内にはp-ドープ層とn-ドープ層が形成され、出会う界面で励起状態が形成されて発光する。
英語ではLight-Emitting Electrochemical Cell (LEC) と呼ばれる。
(※2) デンドリマー(樹状高分子)
一般的な高分子が繰り返し単位を線状に結合した1次元状の分子構造を取るのに対して、各繰り返し単位が分岐した高分子をデンドリマーと呼ぶ。分子が樹木状に規則正しく広がった構造を取る。デンドリマーのサイズは分岐の回数(n)によって表現され第n世代と呼ばれる。世代が大きい程、分子サイズも大きくなる。
(※3)熱活性化遅延蛍光(TADF)材料
一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差が極めて小さく、三重項励起状態が一重項励起状態へと室温の熱エネルギーで変換可能な材料。電気発光デバイスに用いるとレアメタルフリーで高効率が実現できることから第3世代の発光材料として注目されている。
熱活性化遅延蛍光は英語ではThermally Activated Delayed Fluorescenceと呼ばれる。
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論文情報
掲載誌:Advanced Functional Materials
タイトル:Dendri-LEC family: Establishing the bright future for dendrimer emitters in traditional and graphene-based light-emitting electrochemical cells
著者名:Luca M. Cavinato, Keiko Yamaoka, Sophia Lipinski, Vladimir Calvi, Dominique Wehenkel, Richard van Rijn, Ken Albrecht, Rubén D. Costa
DOI:10.1002/adfm.202302483
研究に関するお問い合わせ先
先導物質化学研究所 アルブレヒト 建 准教授