2023-03-30 国立情報学研究所
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NIIエヌアイアイ、所長:喜連川 優、東京都千代田区)は、大学図書館等の目録所在情報サービス(以下、NACSISナクシス-CATキャット/ILLアイエルエル)を新システムに更新し、2023年1月31日(火)に始動させました。この更新は、国際的なパッケージシステムであるOCLC社製CBS(Controlled Bibliographic Service)を基盤として、システム全体の能力と機能を増強して再構築したものです
従来の「NACSIS-CAT /ILL」は独自のメタデータフォーマット(CATP)を用いてきましたが、今日ではMARC21がメタデータフォーマットの国際標準となったため、CATP準拠のメタデータが MARC21と相互運用性を持つように長く待ち望まれてきました。そこで、このたびNACSIS-CATの基盤システムに国際的なパッケージシステムを導入することで、NACSIS-CAT/ILL内部では管理されるメタデータを、CATPではなく国際標準のメタデータフォーマットであるMARC21と相互運用性のある形式で保持します。これにより、将来への拡張性・普遍性の担保が可能となりました。
また、MARC21を利用する機関に対しては、Web普及以前の古い規格であるZ39.50ゲートウェイ機能を停止し、後継規格でありHTTP/HTTPS上で動作するSRU(Search/Retrieve via URL)ゲートウェイ機能の提供も開始しました。
今後、国際標準の目録規則であるRDA(Resource Description and Access)に対応した日本目録規則2018年版(NCR2018)のNACSIS-CAT/ILL適用の検討も進め、世界中の機関で使用されている基盤システムを活かしたメタデータの国際流通を進めていきます。
1984年から約40年の歳月をかけ大学図書館等を中心とした参加機関と共同で構築してきた学術情報の基盤「NACSIS-CAT /ILL」は、国際化に向けた新たな一歩を踏み出しました。
背景
NACSIS-CAT/ILLは、全国の大学図書館が所蔵する資料を対象とした、総合目録データベースの形成と図書館間相互利用を支援するサービスで、1984年に運用を開始しました。その後、NIIの前身である学術情報センター(NACSIS)の中核事業として発展し、参加機関数1,339、書誌1,345万件、所蔵1.5億件(2023年1月末時点)の規模となり、研究者や学生の学術資料の入手を支えています。
NACSIS-CAT/ILLの利用機関(参加機関)は、ほぼすべてがNII公開の独自仕様(CATP(*1)仕様書)に基づき開発されたローカルシステムを使用しています。約40年に渡り学術情報基盤となってきたNACSIS-CAT/ILLの仕様は、それらローカルシステムを通じて目録作業だけでなく受入、検索、相互貸借など、図書館業務のすみずみまで活用されています。
一方で今日では、MARC21(*2)が国際標準のメタデータフォーマットの主流となり、CATP準拠のメタデータが MARC21との相互運用性を持つことが長く待ち望まれてきました。
こうしたNACSIS-CAT/ILLの機能強化は、2012年に「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」(*3)の下に設置された「これからの学術情報システム構築検討委員会」(以下、これから委員会)(*4)が、10年にわたって検討を重ねてきました。
これから委員会では、2015年5月29日に『これからの学術情報システムの在り方について』を取りまとめ、さらに4年後の2019年2月15日に『これからの学術情報システムの在り方について(2019)』(以下『在り方2019』)を公開し、次の目指すべき方向性を示しました。
『在り方2019』では、メタデータの国際標準への対応や、電子情報資源と印刷体を区別することなく統合的に発見するための環境の実現に向けた「図書館システム・ネットワーク」構築が提唱されました(図1)。
この方針に基づき、NIIではシステム更新を計画し、2021年6月17日に「大学図書館向け学術情報システムを36年ぶりに一新 : 学術資料のデジタル化に対応した目録所在情報サービスを2022年から順次運用開始」というニュースリリースでお知らせしました。
そして、2023年1月31日、従来のNACSIS-CAT/ILLを、「図書館システム・ネットワーク」における「共同利用システム」である「新NACSIS-CAT/ILL」として再構築することにより、『在り方2019』で示された、メタデータの国際標準への対応等の実現を目指すこととなりました。
リプレイスしたシステム
新NACSIS-CATの基盤システムは、株式会社 紀伊國屋書店(代表取締役会長兼社長:高井 昌史、東京都目黒区)を契約窓口として、アメリカを本拠地とするOCLC(*5)のCBS(*6)(Controlled Bibliographic Service)を採用しました。新NACSIS-ILLは、株式会社シー・エム・エスが構築し、CBSとのシームレスな連携を実現しました。CBSは、イギリスを始め、オランダ、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国、さらにオーストラリアの導入実績のある、地域および国レベルの総合目録のために設計された国際的なパッケージシステムです。
<図1>図書館システム・ネットワークと今回のリプレイス
国際化へ向けて
NACSIS-CATの基盤システムに国際的なパッケージを用いることで、NACSIS-CAT/ILL内部で管理されるメタデータは、CATPではなくMARC21と相互運用性のある形式で保持します。この措置により、将来への拡張性・普遍性を担保したことが利点として挙げられます。また、Web普及以前の古い規格であるZ39.50ゲートウェイ機能を停止し、後継規格でありHTTP/HTTPS上で動作するSRU(Search/Retrieve via URL)ゲートウェイ機能の提供を開始しました。
今後、これから委員会で現在検討が進められている、国際標準の目録規則であるRDA(Resource Description and Access)に対応した「日本目録規則 2018 年版」(NCR2018)のNACSIS-CAT/ILL適用(*7)の検討も進めていきます。
メタデータフォーマット、目録規則、データ提供方法を国際標準化することにより、従来のNACSIS-CAT/ILL参加機関が国内外のメタデータを一層シームレスに活用することにつなげるとともに、NACSIS-CAT/ILLがこれまで蓄積してきた、日本の教育・研究に関する貴重な書誌・所蔵・典拠データが世界中の機関で活用され、NACSIS-CAT/ILLが世界における日本研究を支える大きな基盤となることが期待されます。
1984年から約40年の歳月をかけて参加機関と共同で構築してきた学術情報の基盤「NACSIS-CAT /ILL」は、2023年1月31日、国際化に向けた新たな一歩を踏み出しました。
(*1) CATP(Cataloging information Access & Transfer Protocol)は、NACSIS-CAT/ILLにおけるクライアントとサーバ間のメッセージ交換方式を規定するプルトコルのことを指します。詳しくは、 https://contents.nii.ac.jp/catill/manuals/system/cat_ill/clientを参照。
(*2) MARC21は、USMARCとCAN MARC (カナダのMARC)を調整した目録データの情報交換用フォーマットです。1997年に米国とカナダの間で調整が行われ、MARC21が作成されました。2004年6月には英国図書館もUKMARCからMARC21に移行し、日本では国立国会図書館が2012年1月から「JAPAN/MARC MARC21フォーマット」を提供しています。 (日本図書館情報学会用語辞典編集委員会. 図書館情報学用語辞典. 丸善出版, 2023, 235-236p.)
(*3) 「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」は、我が国の大学等の教育研究機関において不可欠な学術情報の確保と発信の一層の強化を図ることを目的として設置され、国公私立大学の図書館と国立情報学研究所との連携・協力の推進に寄与しています。詳しくは https://contents.nii.ac.jp/cpc/ を参照。
(*4) 「これからの学術情報システム構築検討委員会」は、「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」の下に設置され、「電子情報資源を含む総合目録データベースの強化」について企画・立案し、学術情報資源の基盤構築、管理、共有および提供にかかる活動を推進しています。詳しくは https://contents.nii.ac.jp/korekara/ を参照。
(*5) OCLC (OCLC, Inc.) は非営利・メンバー制のライブラリーサービス機関として、世界中の図書館に様々なサービスを提供するグローバルな図書館共同体です。米国議会図書館(Library of Congress)、大英図書館(British Library)、国立国会図書館(NDL)を始めとする各国の国立図書館やハーバード大学、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学をはじめとする主要大学の図書館、NASA、スミソニアン研究所、メトロポリタン美術館や世界銀行といった公的機関がメンバー館となっており、世界約140の国/地域の48,540館以上の図書館がサービスを利用しています (2021年7月現在) 。詳しくは https://www.oclc.org/en/home.html https://mirai.kinokuniya.co.jp/catalog/oclc-aboutを参照。
(*6) CBS(Controlled Bibliographic Service)はOCLCのメタデータ基盤サービス群「Syndeo」の1コンポーネントです。「Syndeo」は国や地域の統合目録やリソース共有ネットワークのニーズにこたえるOCLCのサービスブランドです。必要に応じてツール、コンテンツコンポーネント、メタデータ管理サービスが提供されます。詳しくは https://cdm15003.contentdm.oclc.org/digital/collection/p15003coll6/id/1438を参照。
(*7) NCR2018適用細則案パブリックコメントについては https://contents.nii.ac.jp/korekara/documentsを参照。