日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔

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2022-12-23 京都大学

太陽系の大気のない天体表面は、マイクロメテオロイドが秒速10キロメートルを超えるような速度で衝突、太陽からのプラズマの流れである太陽風の照射、さらには、太陽および銀河宇宙線の照射に常に曝されている非常に厳しい環境にあります。これらの影響で、大気(と磁場)のない天体の表面の化学組成、構造、そして、光学的特性が徐々に変わっていることが知られています。この変化を宇宙風化といいます。

小惑星リュウグウは、内部太陽系の小天体で最も多いC型小惑星に属しています。野口高明 理学研究科教授らの研究チームは、「はやぶさ2」によるリュウグウからのサンプルリターンをもとに、このC型小惑星の特徴を実験室で研究しました。宇宙風化による試料の表面の変化は、今まで地球に持ち帰られた月やS型小惑星イトカワの試料で研究されてきました。これらの試料は、基本的にヒドロキシ基(OH)や水分子(H2O)を含まない無水鉱物からできています。一方、C型小惑星であるリュウグウは、そのもととなる天体ができたときに、鉱物、有機物、氷が集積し、その後、氷が融解して鉱物が水と大規模に反応しました。この天体が、他の天体の衝突で破壊されてできた破片が集まって現在のリュウグウができました。このため、リュウグウの物質は、層状珪酸塩鉱物という粘土鉱物の仲間を大量に含んでいます。宇宙風化が検出できたリュウグウ粒子(本研究では「砂」サイズの試料を分析しているため、サンプルを粒子と表すことにします)には、層状珪酸塩鉱物の結晶構造が壊れてしまっているものと、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けているものがありました。どちらの場合でも、層状珪酸塩鉱物に含まれていた3価の鉄イオンが2価に還元されていました。

また、層状珪酸塩鉱物に含まれるヒドロキシ基が失われていました。これは、リュウグウ粒子表面から水が取り去られたことを意味します。特に、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けた場合、脱水反応は顕著でした。これらの結果は、C型小惑星における宇宙風化では、小惑星リュウグウの表面に存在している層状珪酸塩鉱物の脱水が大きく寄与していることを示しています。「はやぶさ2」が測定した、2.7ミクロンの波長の光の吸収が弱い小惑星の反射スペクトルは、ヒドロキシ基が少ないことを示しています。C型小惑星一般においても、2.7ミクロンの吸収帯が弱い天体は、天体全体で揮発性物質が失われたというよりも、宇宙風化によって引き起こされた脱水の程度を示しているのかも知れません。

本研究成果は、2022年12月20日に、科学誌「Nature Astronomy」に掲載されました。

日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔
© Noguchi et al. (2022)
小惑星リュウグウの宇宙風化組織
点線より右側は太陽風照射による宇宙風化(Smooth layer)を受けた部分、点線より左側は、メテオロイド衝突による宇宙風化(Frothy layer)を受けた部分です。 Frothy layerは表面数ミクロンが融けて泡立っています。Frothy layerには、後に近くから飛来し付着した岩石の溶融物が薄く張り付いています(Melt splash)。このように、リュウグウの複雑な歴史が読み取れます。走査電子顕微鏡で撮影した反射電子像です。

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:野口 高明

メディア掲載情報
毎日新聞(12月20日 22面)、読売新聞(12月20日 33面)、産経新聞(12月20日 24面)、日刊工業新聞(12月20日 30面)および日本経済新聞(12月20日夕刊 11面)に掲載されました。

1701物理及び化学
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