2022-07-20 京都大学
水落憲和 化学研究所教授、藤原正規 同特定研究員、大木出 同研究員と、株式会社ダイセルとの研究グループは、独自に開発したシリコン-空孔(SiV)中心を含む爆轟(ばくごう)ナノダイヤモンド(SiV-DND)を用いて温度計測の実証に成功しました。今回用いたナノダイヤモンドの粒径は20 nm程度で、これまで温度計測が報告されているナノダイヤモンドの中で世界最小径です。
細胞内などの微小な領域を計測できる温度センサとして、ナノダイヤモンド中の発光中心が注目されています。結晶中に存在する不純物や欠陥の中には、光照射すると発光する発光中心と呼ばれるものがあり、それらは構造に応じて様々な発光波長や特性を持ちます。ナノダイヤモンド温度センサとしては、発光中心の中でも窒素-空孔(NV)中心が盛んに研究され、高い温度感度が実証されていますが、高感度温度計測には可視光とマイクロ波の両方を照射する必要がありました。一方、SiV中心は鋭い発光スペクトルを示し、ピーク波長などの温度依存性を利用することで、光のみで温度変化を感度よく検出できるという応用上重要な特長があります。しかし、これまでSiV中心を用いた温度計測での最小粒径は200 nmでした。近年、株式会社ダイセル、京都大学、およびその他研究機関により、大量に合成可能な爆轟法によって、SiV中心を含む1桁nmサイズのナノダイヤモンドを効率的に合成することに成功しました。今回、構築した温度精密制御装置を用い、ナノレベルの微小なSiV-DNDの高感度温度センサとしての有用性を実証しました。今後は、ナノダイヤモンドの特長を活かし、生命科学分野等での応用が期待されます。
本研究成果は、2022年7月13日に、国際学術誌「Carbon」に掲載されました。
図:ナノダイヤモンドを用いた世界最小粒径での温度計測を実証
研究者のコメント
「学生の皆さんと一緒にどういった光学系を構築すれば効率的に温度計測ができるか、様々な議論を取り入れて試行錯誤できたのは良い思い出です。企業の方とも試料や解析方法について密接に議論できたのは良い勉強となりました。今後もナノダイヤモンドの生体応用に向けて様々な課題をクリアしていく必要がありますが、着実に解決していければと思っています。」(藤原正規)
研究者情報
研究者名:水落 憲和
研究者名:藤原 正規
研究者名:大木 出