天の川銀河の腕間にて巨大フィラメント状ガス雲を発見、そして星団形成の起源を解明!

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2022-03-29 国立天文台

概要
私たちの太陽系は、天の川銀河(銀河系)と呼ばれる数千億個の星の大集団に属しています。天の川銀河は直径10万光年の広がりを持っていて、円盤状の構造をしています。夜空で淡い光の帯としてみることのできる天の川は、この天の川銀河の円盤方向にあるたくさんの星の光を重ねて見たものです。従来、太陽より10倍以上の重さを持つ大質量星は星の材料である星間ガスが集まっている天の川銀河の渦巻き腕の中で誕生すると考えられてきました。しかし、近年の位置天文衛星 Gaia[2] の観測結果から渦巻き腕と腕の間の領域にも大質量星が存在することが示され、その存在が注目されています。その腕間にある大質量星がどのようにしてできたのかを解明するため、研究グループでは野辺山 45m 電波望遠鏡を用いて、天の川銀河の腕間に位置する大質量星形成領域「こぎつね座[1] OBアソシエーション」に対する大規模な分子ガス雲の観測を行いました。その結果、この領域で長さ 100光年にわたる巨大フィラメント状分子ガス雲の存在を初めて明らかにしました。さらに、この領域に付随する分子ガス雲の解析から、フィラメントを含むガス雲同士の衝突が、若い星団を生み出すきっかけになったと考えられます。このように腕間に位置する局所スパーで、ガス雲の衝突が若い星団を生み出すことが明らかとなったのは本研究が初めてです。

研究背景
太陽のように自ら光り輝く恒星は、宇宙空間に漂う希薄な星間ガスが集まることによって、誕生します。可視光よりも波長の長い電波を観測することによって、目では見ることのできない星間ガスの姿を捉えることができます。恒星の中でも太陽よりも10倍以上の重さを持つ大質量星は、星間ガス雲が集中する銀河の渦巻き腕の中で誕生するとこれまで考えられてきました。
しかし、近年の位置天文衛星 Gaia[2] の観測結果から天の川銀河の渦巻き腕と腕の間の領域にも大質量星が存在することが示され、その存在が注目されています。一方、1970年代の電波望遠鏡による観測からは天の川銀河の星間ガス雲の全貌が明らかにされていました。しかしながら、”スパー”と呼ばれる腕間領域は、これまで高分解能の分子雲観測は行われておらず、その詳しい形状や性質は未解明のままでした。

天の川銀河の腕間にて巨大フィラメント状ガス雲を発見、そして星団形成の起源を解明!
図1(左): Spitzer 宇宙望遠鏡による赤外線観測から推定された天の川銀河の想像図。太陽系は銀河中心からおよそ2万6000光年離れたところに位置している。
図1(右): 今回の解析領域であるこぎつね座OBアソシエーションと太陽系の位置関係。太陽系からはおよそ6500光年の位置に存在し、いて腕とオリオン腕のちょうど間の領域(局所スパー)に位置している。

研究内容と成果
名古屋市科学館の河野樹人 学芸員、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の西村淳 特任准教授、大阪府立大学の藤田真司 研究員を中心とする研究グループでは、野辺山45 m 電波望遠鏡と主力観測装置であるFOREST受信機を用いて、 太陽系に最も近い腕間領域である「局所スパー」をターゲットとして、一酸化炭素分子 (CO)の広域観測を行いました。観測領域はおよそ27平方度で、これはおよそ満月140個分にも相当する広さです (図2上)。一酸化炭素分子の同位体 12CO, 13CO, C18O を併せて観測することで、低密度分子ガス雲から星形成の母体となる高密度分子ガス雲を一挙に捉えることができます。

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図2(上): 観測によって得られた天の川銀河腕間領域の分子ガス雲の分布。赤が12CO, 緑が13CO, 青がC18O で色付けした3色合成図。
図2(下): 今回の解析を行った、こぎつね座領域の巨大フィラメント状分子雲。銀河面に平行におよそ100 光年にわたって細長い構造をしている。

私たちの観測の結果、腕間の領域にも渦巻き腕と同様に分子ガスが豊富に存在することが明らかになりました(図2上)。その構造に注目するとおよそ、100 光年にわたる巨大なひも状 (フィラメント)の構造をした分子ガス雲が多く存在することがわかります。これは野辺山 45m 電波望遠鏡による高分解能かつ広域の観測によって初めて明らかとなった事実です。研究グループでは、こうした巨大フィラメント状分子雲が腕間における星形成に深く関わっていると考えています。
その中でもフィラメント構造が最も顕著なのが、今回詳細に解析を行った「こぎつね座 OBアソシエーション」です(図2下)。太陽系からの距離はおよそ6500光年で、これまで可視光や赤外線による研究が行われてきました。その中心部に位置するのが散開星団 NGC 6823 です。星団周辺の分子ガス雲を詳しく解析したところ、視線速度の異なるガス雲で構成され、それらの重なった領域に若い星団が集中していることがわかりました (図3)。

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図3: こぎつね座OBアソシエーションの分子ガス雲の解析結果。背景画像で近づく分子ガス雲を、青い等高線で遠ざかる分子ガス雲の空間分布を示している。十字が散開星団 NGC 6823 の大質量星の位置。2つの分子ガス雲が重なった領域に大質量星が集中している様子がわかる。

これらの観測結果から、巨大フィラメント状分子雲を含む複数のガス雲同士の衝突が腕間領域における星団形成のきっかけになった可能性が考えられます。これまでの研究で渦巻き腕の中で分子雲同士の衝突による星団形成の可能性は指摘されていましたが、局所スパーで、明らかとなったのは本研究が初めてです。

今後の展望
本研究では、天の川銀河の腕間に位置する分子ガス雲を世界最高の空間分解能で明らかにすることに成功しました。 本研究は、天の川銀河の分子雲観測プロジェクトFUGIN[3]の拡張観測にも対応しています。 今後、天の川銀河全体の分子ガス雲のより詳細な解析を行うことで、腕間と渦巻き腕の分子ガス雲の性質の違いが明らかにできると期待されます。

用語解説
[1] こぎつね座は、17世紀にポーランドの天文学者へヴェリウスによって作られた星座で、夏の大三角の中間部分に位置しています。4等星以下の暗い星からなっていて、亜鈴状星雲 (M27)がこの星座に含まれています。
[2] Gaia は、2013年12月にヨーロッパ宇宙機関によって打ち上げられた位置天文衛星。天の川銀河の構造の解明を目的としていて、Data Release 2 では13億個以上の恒星の年周視差と固有運動の結果が公開されています。
[3] FUGINは、2014-2017年にかけて野辺山 45m 望遠鏡を用いて天の川銀河の分子ガス雲の広域観測を行ったプロジェクト。2018年にデータが公開され、世界中の研究者によって、研究が進められています。
FUGINプロジェクト:見えない天の川の大規模探査〜天の川の最も詳しい電波地図づくり〜

論文・研究メンバー
本研究は2022年2月発行の日本天文学会欧文研究報告「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載されました。 論文の題目、および著者と当時の所属は以下の通りです。
論文名:
Nobeyama 45 m Local Spur CO survey. I. Giant molecular filaments and cluster formation in the Vulpecula OB association”, Publications of the Astronomical Society of Japan, 2002, Vol.74, p.24-49
研究メンバー:
河野樹人(名古屋市科学館 学芸員)
西村淳(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所 特任准教授)
藤田真司(大阪府立大学 研究員)
立原研悟(名古屋大学 准教授)
大西利和(大阪府立大学 教授)
徳田一起(大阪府立大学 特認助教)
福井康雄(名古屋大学 名誉教授)
宮本祐介 (国立天文台・アルマプロジェクト 特任助教)
上田翔汰(大阪府立大学 大学院生)
切通僚介(大阪府立大学 大学院 卒業生)
堤大陸(名古屋大学 大学院生)
鳥居和史(元国立天文台・野辺山宇宙電波観測所 特任助教)
南谷哲宏(国立天文台・チリ観測所、総合研究大学院大学 准教授)
西合一矢(東京大学 特任研究員)
半田利弘(鹿児島大学・天の川銀河研究センター 教授)
佐野栄俊(国立天文台・科学研究部 特任助教)

1701物理及び化学
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