2022-02-21 物質・材料研究機構
NIMSは、物質の特徴を決定する電子状態パラメータのデータベースの構築とその俯瞰的な分析により、熱電変換物質の新しい設計指針を得ることに成功しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、物質の特徴を決定する電子状態パラメータのデータベースの構築とその俯瞰的な分析により、熱電変換物質の新しい設計指針を得ることに成功しました。この新しい指針を活用することで、より性能の高い熱電変換物質の開発が期待されます。
- 低炭素社会で必要なエネルギーハーベスティングへの応用やDXを推進するために必須であるIoT機器へ熱電変換技術を用いるために、より高い熱電変換効率を示す新物質が求められています。温度差のついた固体物質で発現する熱電変換は、古くから知られている物理現象であり、変換効率の高い物質の探索が行われてきました。これまでは、種々の高性能熱電変換物質の電子状態の解析により、それぞれの物質における高い熱電変換特性の起源を解明し、物質開発の指針としてきましたが、その共通点は未解明でした。本研究では、高性能熱電変換物質で見られる電子状態の共通点を発見し、より普遍性の高い物質開発指針を得ることに成功しました。
- 本研究グループは、遷移金属イオンを含んだ様々な物質群の2つの電子状態パラメータ (電荷移動エネルギー Δ, 原子内の電子間クーロン反発エネルギー U) のデータベースを構築しました。このΔとUは、物質の性質を決定する重要なパラメータです。このデータベースを用いた俯瞰的な分析により、ΔとUのケミカルトレンド (元素種依存) を明らかにしました。この分析結果を熱電変換物質に適用したところ、特定の範囲のΔとUの組み合わせを示す物質が、高い熱電変換特性を示すことを発見しました。
- この研究結果は、熱電変換物質の新しい設計指針を与えるものであり、より高い性能を示す新しい熱電変換物質の開発に資する研究結果です。また、このデータベースは、熱電変換物質ばかりでなく、リチウムイオン電池材料、触媒、超伝導、磁性材料、イオン伝導体等の様々な研究分野での利用が可能であり、幅広い波及効果が期待されます。
- 本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) の大久保 勇男 主幹研究員、森 孝雄 グループリーダーの研究により行われました。
- 本研究は、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究領域「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」 (研究総括 : 常行 真司) 研究課題「第一原理計算・インフォマティクス主導型新物質開拓 (研究者 : 大久保 勇男) 」 (No. JPMJPR15N1) 、科学技術振興機構 イノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」、JST未来社会創造事業 研究課題「磁性を活用した革新的熱電材料・デバイスの開発 (研究開発代表者 : 森 孝雄) 」 (No. JPMJMI19A1) 、JST未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域研究開発課題「Materials Foundryのための材料開発システム構築とデータライブラリ作成 (研究開発代表者 : 知京 豊裕) 」 (No. JPMJMI18G5) 等の一環として行われました。
- 本研究成果は、2022年2月16日 (米国時刻) に、米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました (URL: https://doi.org/10.1021/jacs.1c12520) 。
プレスリリース中の図 : 電子状態パラメータ (電荷移動エネルギー Δ, 原子内の電子間クーロン反発エネルギー U) の概略図 (左) と、高い熱電変換特性を示す物質が特定の領域に存在することを示すΔ–Uマップ (右) 。
掲載論文
題目 : Rational Design of 3d Transition-Metal Compounds for Thermoelectric Properties by Using Periodic Trends in Electron-Correlation Modulation
著者 : Isao Ohkubo, Takao Mori
雑誌 : Journal of the American Chemical Society
掲載日時 : 2022年2月16日 オンライン
DOI : 10.1021/jacs.1c12520