安価かつ簡便にハウスの情報をスマートフォンで確認~「通い農業支援システム」製作マニュアルを公開~

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2021-08-31 農研機構

ポイント

農研機構は、「通い農業1)支援システム」の製作方法を説明したマニュアルを本日ウェブサイトで公開しました。「通い農業支援システム」は、通信機能付きマイコン2)と小型パソコンを組み合わせ、ハウスの情報をスマートフォンで確認できる遠隔監視システムです。ハウス内の温度などを定期的に確認できるほか、取得データは平均値やグラフなど生産者が利用しやすいように変換できます。材料費2万円から作成できます。本マニュアルにより、安価かつ簡便に「通い農業支援システム」を製作することでハウスの管理を省力化することができます。

概要

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、福島の営農再開地域では、居住地から遠く離れたハウスを往来しながら農業を行う「通い農業」を行っている農業経営や、ハウスが複数箇所に分散している農業経営があります。そうした状況では、各ハウスの状況を現地で確認することは大変な作業です。

農研機構では、このような遠隔地のハウスへ通いながら行う農業の支援に向け、IoTなどのスマート技術の適用を検討してきました。その結果、高価で高精度な機器の運用ではなく、生産者自身が安価で簡便なシステムを構築でき、ハウスから離れていても容易にハウスの状況が確認できる「通い農業支援システム」を開発しました。
本日公開された製作マニュアルに従って製作することで、簡単に「通い農業支援システム」を導入できます。材料費は2万円から作成でき、維持費は月に約千円と低価格です。ハウスの温度、湿度、土壌水分を定期的にスマートフォンで気軽に確認できるほか、最高温度、最低温度や平均温度といった管理作業に必要な情報、グラフによる履歴の確認も可能です。
「通い農業支援システム」を導入することで、生産者がハウス管理のために実際に足を運ぶ頻度を減らすことが可能になり、見回り時間が削減できます。

【マニュアル掲載URL】
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/142629.html

QR

関連情報

予算:   食料生産地域再生のための先端技術展開事業「原発事故からの復興のための放射性物質対策に関する
実証研究」

お問い合わせ

研究推進責任者:   農研機構東北農業研究センター   所長   羽鹿 牧太

研究担当者:          同   東北農業研究センター   農業放射線研究センター   研究員   山下 善道

広報担当者:          同   東北農業研究センター   広報チーム長   櫻 玲子

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

東京電力福島第一原子力発電所事故から10年が経過し、大規模水稲生産法人や施設園芸農家等を核に営農再開が進んでいますが、労働力の確保や担い手不足の問題が被災地では特に深刻です。また、居住地から離れた場所へ「通い農業」を行っていたり、生産者の管理するハウスが分散している事例もあることから、遠隔地での農業再開のためには、リモートで生産現場の状況を確認することが可能な技術の開発が必要です。一方で、市販のハウス遠隔監視システムは、通年で運用することを前提としており、水稲の育苗などの一時的な利用には適しておらず、被災地での運用はコスト的に見合わないことから、省力化のためにハウス遠隔監視システムの導入を検討している生産者も気軽に試すことができませんでした。そこで、「通い農業」の負担を持続的に軽減できる技術として、安価かつ簡便に運用できるIoT技術が求められていました。
近年、スマート農業を支えるIoT技術に用いられるマイコンやセンサの価格が急速に低下したことから、遠隔監視システムを安価に自作する生産者も現れています。しかし、依然として生産者にはハードルが高い状況です。そこで、生産者が安価かつ簡便に製作でき、スマートフォンで気軽にハウス内の状況を確認できるような遠隔監視システムを開発し、製作マニュアルとして取りまとめました。

研究の内容・意義
  1. 「通い農業支援システム」のイメージを示しました(図1)。ハウスに設置した通信機能付きマイコンで温度などの情報を取得し、小型パソコンで収集したデータをスマートフォンへと通知します。
  2. 本システムは、専門的な知識や技能を必要とせず、スマートフォンやパソコンを操作できるなどの一定の知識があれば、製作マニュアルの手順に従うことで、ハードについては市販品を組み合わせ、ソフトについては配布プログラムを利用して、水稲育苗ハウスや園芸ハウスの温度などの情報を遠隔監視するシステムを作ることができます。
  3. スマートフォン向けのメッセージアプリ(LINE)に通知することができるため、専用のアプリケーションを必要としません(図2)。マニュアル内の事例集には、圃場や自宅などどこにいても、いつでも家族や法人内で情報や指示を共有することができる、といった実際の使用事例が記載されており、導入前の参考になる情報が掲載されております。
  4. 本マニュアルでは、取得したデータを定期的に通知するプログラムのほか、栽培上の異常値が発生した場合は警報通知を行うプログラムを作成できます。また、取得したデータを小型パソコンに保存することで、日平均値や最大値、最小値やグラフなど生産者が利用しやすい形で通知するプログラムを用意しております。
  5. 本マニュアルでは、ハウス1棟から6棟に導入する際のコスト試算が掲載されています。たとえばマイコンと温度センサを1組製作するのに材料費約4千円、温度センサを1つ設置した際の1棟分のハウス遠隔監視システム一式の材料費は約2万円程度で、市販のハウス遠隔監視システムに比べ非常に低価格です。自宅のWi-Fiを使用すれば通信費はかかりませんが、別途用意する場合の通信費は一月当たり約千円です。
今後の予定・期待

営農再開地域のみならず労働力の確保や担い手不足に悩む地域の生産者にとって、スマート農業の1つである本システムによるハウスの遠隔監視を導入することで、見回りなどの管理を省力化し営農を継続する一助となることが期待されます。

用語の解説

1) 通い農業特にここでは東京電力福島第一原子力発電所事故による避難後、避難先や新たな居住地から営農が再開された地域に通いながら農業を行うこととしています。

2) マイコンマイクロコントローラの略称で、CPUやメモリなどを1つのチップに集約した電子機器を制御する小さなコンピュータのこと。本システムでは、ハウス内では通信機能付きマイコンとしてSeeed社のWio Nodeを、自宅や事務所に設置する小型パソコンとしてRaspberry Piを使用しています。

発表論文

山下善道、内藤裕貴、稲葉修武、根本知明、金井源太、星典宏、営農再開後の通い農業を支援するハウス遠隔監視システムの開発とその展開、農研機構研究報告、受理済、2021年10月発行予定

参考図

図1

図1  通い農業支援システムのイメージ

図2

図2  生産者へのデータ通知画面

免責事項
  1. LINEはLINE株式会社の商標または登録商標です。
  2. Wio NodeはSeeed Technology Co.,Ltdの商品です。
  3. Raspberry Piは英国Raspberry Pi財団の登録商標です。
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