2021-08-19 弘前大学
本件のポイント
- 弘前大学と理化学研究所の共同研究グループは、リンゴに特徴的に含まれる健康機能性成分である「プロシアニジン」を非破壊かつ簡便、スピーディーに測定する技術を開発しました。
- 「プロシアニジン」はリンゴポリフェノールとも呼ばれ、内臓脂肪の蓄積を抑制するなどの機能性を有する、リンゴに特徴的な健康機能性成分です。
- 本研究成果により、レーザーポインター程度の微弱なレーザー光を照射する(ラマン分光法)だけでリンゴに含まれる「プロシアニジン」含量を推定することが可能になりました。
- 本成果を活用することで機能性成分を多く含むリンゴを選別することができ、品質の高いリンゴの生産や出荷に役立てることが期待できます。
- 本研究成果はドイツの物理学専門雑誌Applied Physics Bの5月にオンライン掲載されました。
本件の概要
【背景と経緯】
青森県が日本最大の収穫量を誇るリンゴは、ポリフェノールなどの健康の向上に役立つ機能性成分を多く含みます。ポリフェノールの中でもリンゴに含まれるプロシアニジンは抗酸化作用の他、抗アレルギー作用やメラニン生成抑制(美白)作用、育毛、アンチエイジング、内臓脂肪の蓄積を抑制するなどの様々な機能性が報告されており、最近では、消費者庁の機能性表示食品に届出受理され、「内臓脂肪を減らす」という機能性が表記された青森県産リンゴも販売されています。
【プロシアニジンの一般的な測定方法】
上述した背景から、個々のリンゴにどれだけのプロシアニジンが含まれているのか?を知りたいと思うことは、自然なことであり、プロシアニンジン含量の測定では、高速液体クロマトグラフィ ー(以下、HPLC: high-performance liquid chromatography)と呼ばれる手法が、一般的に用いられてきました。HPLCは、細切したリンゴの凍結乾燥や粉末化、プロシアニジンの抽出など、分析試料作製のためにいくつかの前処理行程を必要とし、その後、1サンプルあたり数時間という比較的長い時間をかけてプロシアニンジン含量を計測します。
また、分析に使用したリンゴは廃棄されてしまうことから、非破壊かつ簡便、スピーディーにリンゴ内のプロシアニンジン量を計測できる技術が求められてきました。
【研究、及び成果の内容】
そこで、レーザー技術開発を専門とする花田(弘前大・理工)および和田(理研・光量子工学研究センター)、食品の成分計測を専門とする前多(弘前大・農生)らの研究グループは、ラマン分光法と呼ばれるレーザー計測およびデータサイエンスを駆使した分析技術を用いることで、リンゴ内に含まれるプロシアニンジン量を非破壊計測する技術を開発しました。
具体的には、弘前市およびJAつがる弘前協力のもと、農園で収穫した多数のリンゴサンプルを、ラマン分光計測およびHPLCにかけ、そこから得られた大量の計測データを統計分析することで、プロシアニジン量を予想することができるモデルを作製しました。
その結果、レーザーポインター程度の微弱なレーザー光を15秒間リンゴにあてるだけで、リンゴ内に含まれるプロシアニジン量を簡便かつスピーディーに非破壊で推定することに成功しました。詳しい内容については、ドイツの物理学専門雑誌Applied Physics Bの5月にオンライン掲載されました。なお、本研究の一部は弘前市と実施した研究事業として行われました。
【今後の予定・展望】
本研究は、レーザー計測と統計分析を融合することで、リンゴ内に含まれる健康機能性成分プロシアニジンを非破壊計測することに成功しました。
今後の展望としましては、本技術を用いることで、品質の高いリンゴの生産や出荷に役立てることが期待できます。また、リンゴ以外の食品・果物に含まれる機能性成分測定や食品・果物から得られる不透明であった様々な情報も同様の技術で計測することが可能になると考えられます。
農園でリンゴを収穫する様子
収穫したリンゴにレーザーを照射する様子