低濃度CO2からの尿素誘導体合成法を開発

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火力発電所の排出ガス中のCO2から有用化学品を製造可能に

2021-05-14 産業技術総合研究所

ポイント

  • 排気ガスなどに含まれる低濃度のCO2から有用化学品である尿素誘導体を合成できる技術を開発
  • カルバミン酸アンモニウム塩を経由することで、低濃度CO2を濃縮・圧縮・精製せずに利用可能
  • 地球温暖化の原因とされるCO2の排出量削減への貢献に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター【研究センター長 佐藤 一彦】触媒固定化設計チーム 竹内 勝彦 研究員、松本 和弘 主任研究員、崔 準哲 研究チーム長、ヘテロ原子化学チーム 深谷 訓久 研究チーム長、同研究センター 佐藤 一彦 研究センター長は、東ソー株式会社(以下「東ソー」という)と共同で、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)のプロジェクトで、火力発電所排気ガス相当の低濃度CO2から、樹脂や溶媒、医薬品の原料として有用な化学品である尿素誘導体を合成する触媒反応を開発した。

産総研と東ソーはNEDOのプロジェクトである「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/排気ガス由来低濃度CO2の有用化製品への直接変換」にて、低濃度CO2をポリウレタン原料などの有用化学品に直接変換する合成プロセスを研究開発しており、今回の技術の開発に至った。この技術は、日本で主流の石炭火力発電所排気ガスに相当する低濃度CO2(体積比率15%)とアミンから簡便に得られるカルバミン酸アンモニウム塩にチタン触媒を作用させて、有用化学品であるエチレンウレアなどのさまざまな尿素誘導体を効率的に合成できる。また、これまで直接利用が難しかった火力発電所排気ガス中の低濃度CO2を、濃縮・圧縮・精製といったコストやエネルギーが必要な工程を経ずに有用化学品に効率よく変換できるため、地球温暖化の原因とされるCO2の排出量削減への貢献が期待される。

なお、今回の成果の詳細は、5月14日に英国の学術誌Communications Chemistryに掲載される。

概要図

今回開発した低濃度CO2からの尿素誘導体合成技術の概要

開発の社会的背景

パリ協定の合意を踏まえ、わが国では地球温暖化対策計画を策定し、CO2排出量の削減が進められてきた。直近の首相所信表明でも2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにすることが宣言されており、より一層のCO2排出量削減が求められている。特に、火力発電所が排出するCO2はわが国の総CO2排出量の約3割を占めているが、火力発電所がベースロード電源として将来的にも重要なため、その対策が喫緊の課題となっている。そのため、火力発電所排気ガス中の低濃度・低品質のCO2を回収し、地下貯留する技術(CCS)や有用な化学品に変換する技術(CCU)の研究が進められてきた。しかし、既存の手法では事業者へのインセンティブが小さいことやコスト・エネルギー消費が大きいことが課題であり、火力発電所を所有する民間企業が積極的に参入するには大きな障壁があった。そのため、事業者へのインセンティブが生まれ、コスト・エネルギー消費が小さい、新たな低濃度・低品質CO2利用技術が望まれていた。

研究の経緯

これまで、産総研と東ソーは、低濃度のCO2を濃縮・圧縮・精製を行わずに回収・利用するDirect Air Capture (DAC)技術を活用した有用化学品製造法の開発に取り組んできた。CCSやCCUでは、低濃度・低品質のCO2を、アミンを用いた化学吸着によってカルバミン酸アンモニウム塩へと一旦変換した後、加熱分解して高濃度・高純度のCO2を回収する手法が用いられていたが(図1)、今回、このカルバミン酸アンモニウム塩に着目し、これを加熱分解してCO2とアミンに戻すのではなく直接化学品合成の原料に使用すれば、加熱分解などにかかるコスト・エネルギーが不要になると考え、カルバミン酸アンモニウム塩から単純で環境調和性の高い脱水反応だけで得られる尿素誘導体、特に付加価値の高いエチレンウレアを触媒を用いて合成する反応の開発に取り組んだ。

なお、今回の研究開発は、エネルギー・環境分野の中長期的な課題の解決を目的に、2050年頃を見据えた革新的な技術・システムの提案を支援するNEDOの委託事業「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050(2018~2021年度)」(研究代表者:竹内 勝彦)による支援を受けて行った。

図1

図1 CCS・CCUにおけるカルバミン酸アンモニウム塩の利用

研究の内容

カルバミン酸アンモニウム塩がアミンとCO2との反応で生成することはすでに知られているが、低濃度CO2を原料とした場合の効率的な合成法・単離法については詳細な検討が報告されていなかった。そこで、エチレンウレアの原料となるエチレンジアミンを種々の溶媒に溶かした溶液に、火力発電所排気ガスのモデルガスである濃度15%のCO2と窒素(N2)の混合ガスを吹き込み、効率よくカルバミン酸アンモニウム塩が得られる条件を探した。その結果、エタノールを溶媒として用いると、エチレンジアミンに対応するカルバミン酸アンモニウム塩が白色固体として効率よく生成・沈殿し、単離収率96%で得られることを見出した(図2)。また、CO2源として空気(CO2濃度約0.04%)を用いる場合では、エチレンジアミンを溶媒を用いないでそのまま空気にさらしておくことで、単離収率45%で対応するカルバミン酸アンモニウム塩が得られることを見出した。元素分析の結果から、これらの手法で合成したカルバミン酸アンモニウム塩はCO2源によらず高純度であり、水やエタノールなどが取り込まれていなかった。

図2

図2 エチレンジアミン由来のカルバミン酸アンモニウム塩の合成

続いて、低濃度CO2から合成したエチレンジアミン由来のカルバミン酸アンモニウム塩を原料とした尿素誘導体合成法の開発に取り組んだ。その結果、触媒としてチタン錯体、溶媒として1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、反応容器としてカルバミン酸アンモニウム塩の熱分解によるCO2の遊離を防ぐ密閉型オートクレーブを用いることで、エチレンウレアを高収率で合成できた(図3)。この手法で合成したエチレンウレアは蒸留によって簡便に精製でき、単離収率は82%と高収率であった。また、この手法はさまざまなアミン由来のカルバミン酸アンモニウム塩にも適用可能であり、環状・非環状のさまざまな尿素誘導体も合成できる。

図3

図3 カルバミン酸アンモニウム塩からの尿素誘導体合成

今後の予定

今回開発した反応について実際の火力発電所排気ガスを用いた検証を行った後、工業スケールでの尿素誘導体合成反応の実用化を目指す。

用語の説明
◆火力発電所排気ガス相当の低濃度CO2
火力発電所の排気ガスに含まれるCO2濃度は燃料の種類や発電所の形式によって大きく異なる。今回は、日本で主流である石炭火力発電所の排気ガス(CO2体積比率15%程度)を想定した。
◆尿素誘導体
化学式(CO(NH2)2)で示される化合物である尿素の水素原子のうち、少なくとも1つがアルキル基などで置換された化合物。ウレア誘導体とも呼ばれる。
◆アミン
アンモニア(NH3)の水素原子の少なくとも1つがアルキル基などで置換された化合物。塩基性(アルカリ性)の化合物であり、さまざまな化学品の基礎原料などとして広く利用されている。
◆カルバミン酸アンモニウム塩
アミン(RNH2)とCO2との反応で生成するカルバミン酸(RN(H)COOH)が、もう一分子のアミンとさらに反応して生成する化合物([RN(H)COO][RNH3])。分子内にアミン部位を2つもつジアミン(H2N-R-NH2)が原料の場合、分子内カルバミン酸アンモニウム塩(H3N+-R-N(H)COO)を形成する。
◆エチレンウレア
2-イミダゾリジノンまたはエチレン尿素とも呼ばれる化学品。塗料や樹脂、爆薬、農薬、医薬品の原料として工業的に生産・利用されている。
◆パリ協定
フランスのパリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて、2015年12月12日に採択された気候変動抑制に関する国際的な協定。産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑えるとともに、平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことが目標として設定された。
◆地球温暖化対策計画
日本において、地球温暖化対策の総合的で計画的な推進を図るため、政府が地球温暖化対策法に基づいて策定する地球温暖化に関する総合計画。2030年度までにCO2排出量を2013年度比26.0%で削減し、さらに2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことが示された。現在、温室効果ガス排出実質ゼロに向けた計画の見直しが議論されている。
◆ベースロード電源
季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定して低コストで供給できる電源。日本では、安定性とコスト面などから石炭火力発電所が主流のベースロード電源である。将来、再生可能エネルギーを多く導入したとしても、その不安定な発電能力を補うベースロード電源が必要とされている。
◆CCS
「Carbon dioxide Capture and Storage」の略。発電所などから排出されたCO2を、分離・回収し、圧縮して地中や海底に貯留する技術。
◆CCU
「Carbon dioxide Capture and Utilization」の略。発電所などから排出されたCO2を、分離・回収した後、精製・圧縮し、炭酸ガスとして産業で利用する技術。転じて、CO2を原料として利用する化学品合成技術もCCUの一部とみなされる場合がある。
◆Direct Air Capture (DAC)
低濃度CO2を捕集する技術。狭義では大気中のごく低濃度(0.04%)のCO2を捕集する技術を指すが、排気ガスなどの大気よりは高濃度の低濃度CO2(15%程度まで)の捕集技術も含める場合もある。
◆化学吸着
低濃度CO2を捕集するために、化学反応を利用する手法。主にCO2と反応するアミンなどの塩基が利用される。他のCO2捕集法には、溶媒へ溶解させる物理吸収法、活性炭やゼオライトなどの固体の吸着剤を利用する物理吸着法、CO2と他の気体を選別できる膜を用いる膜分離法などがある。
◆脱水反応
副生成物として水が生成する反応。他に水以外の副生成物が生成しない場合、環境負荷が非常に小さい反応となる。
◆元素分析
化学物質に含まれる元素の割合を決定する測定手法。化学物質の組成決定に利用される他、不純物の有無などを判断することもできる。
◆1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)
高い極性からさまざまな有機物や無機物を溶かすことのできる汎用溶媒。なお、DMIは尿素誘導体の一種であり、今回開発した合成技術を用いて低濃度CO2から合成することも可能である。
◆オートクレーブ
内部を高圧にできる耐圧性の反応容器。
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