戦略策定、オープンイノベーションプラットフォーム構築と研究開発推進に向けて
2021-04-16 産業技術総合研究所
概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)エレクトロニクス・製造領域【領域長 安田 哲二】およびTIA推進センター【センター長 金丸 正剛】は、「次世代コンピューティング基盤開発拠点」(以下「拠点」という)活動をスタートしました。拠点では、次世代コンピューティング基盤にかかわる戦略策定、研究推進、オープンイノベーションプラットフォームとしての試作評価拠点整備を進めてまいります。すでに、昨年10月には拠点における研究推進の中心となる「新原理コンピューティング研究センター」および「プラットフォームフォトニクス研究センター」を設立し研究開発体制を整備するとともに、2020年度補正予算に基づいた「重点産業技術に係るオープンイノベーション拠点整備」を進めています。また、2021年3月31日には国内の有識者による第一回 次世代コンピューティング基盤戦略会議を開催し、戦略検討を開始いたしました。
産総研 次世代コンピューティング基盤開発拠点の体制図
背景
Society5.0 を支えるコンピューティング技術が大きな変革期を迎えています。半世紀以上にわたってデータの爆発的な増加を支えてきたシリコン電子回路の微細化技術に限界を迎えつつある中、従来のCPU中心のコンピューティングシステムが見直されつつあります。一方、モバイル技術の進展に伴い、クラウドに加えてエッジコンピューティングの重要性が増しています。今後は、エッジコンピューティング、およびエッジとクラウドを有機的に結び最適なコンピューティング能力を発揮するための、ネットワークとコンピューティングが一体化したシステム(分散クラウド)が重要となってきます。この新たな潮流の中で日本が重要な地位を占めるための研究開発およびビジネス化の戦略、その戦略を実現するための研究開発体制および人材育成を実現することが重要です。このような観点から、経済産業省が発表した「産業技術ビジョン2020」において、次世代コンピューティングの普及、活用を念頭においた各種革新技術の研究開発と社会実装に取り組む拠点の必要性が述べられています。
なお、内閣府 統合イノベーション戦略推進会議が策定した「量子技術イノベーション戦略」に基づき、産総研に設置された「量子デバイス開発拠点」は本拠点の一部と位置付けています。
次世代コンピューティング基盤開発拠点の目的
次世代コンピューティングにかかわる産業・学術分野において日本が重要な位置を占め、また占め続けるために、1)研究開発およびビジネス化の戦略策定、2)戦略に基づいた産総研における研究推進、3)企業・大学などが効率的に研究開発や人材育成を進めるために活用される試作・評価機能の実現の3点を拠点の目的といたします。
1)次世代コンピューティング基盤戦略会議
産総研エレクトロニクス・製造領域では次世代コンピューティング基盤の研究開発、ビジネス化、および人材育成の戦略を策定、また産総研のオープンイノベーションプラットフォームおよび研究開発について議論するため、益一哉東京工業大学学長と金山敏彦産総研特別顧問を共同座長として、大学、企業の有識者、新エネルギー産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(NEDO-TSC)および産総研のメンバーからなる戦略会議を設置いたしました。第一回の戦略会議が2021年3月31日に開催され、2030年を見据え、社会的、産業的必要性から、下記5つのテーマについて検討することになりました。
① ニーズを先取りしたエッジコンピューティング開発と新たなプレーヤーの呼込み
② 遍在する大規模データを高効率処理できる超分散コンピューティング技術開発
③ 日本の強みを生かしたバリューチェーンの強化・拡大
④ アカデミアを含む総合的な研究開発力・人材育成力の強化
⑤ 情報処理・通信デバイスの試作・評価拠点整備(上記4テーマ共通部)
2017年度から活動してきたIMPULSEコンソーシアムで検討している情報、議論も活かし、今後一年をめどに基本的な戦略を策定してまいります。
2)研究実施体制
産総研エレクトロニクス・製造領域の「新原理コンピューティング研究センター(2020年10月1日設立)」、「プラットフォームフォトニクス研究センター(2020年10月1日設立)」、「デバイス技術研究部門」、東京大学の中に設置した「AIチップデザインオープンイノベーションラボラトリ(2019年9月1日設立)」などを中心として、企業、大学などと連携しながら、さまざまな国家プロジェクト、共同研究、および産総研独自の取り組みを通じて先進的な研究を推進してまいります。すでに、いくつかの大型国家プロジェクトや企業・大学との共同研究を進めています。
3)試作・評価拠点
産総研では、TIA推進センターを中心として、外部からも利用可能な下記の試作評価設備の整備を進めています。
- スーパークリーンルーム(SCR)
シリコンの300mmウエハープロセスが可能なクリーンルームであり、その中の設備群は共用施設等利用制度により外部利用可能です。今年度よりNEDO事業により整備される先端半導体製造技術のパイロットラインもこのSCR内に整備されます。 - Proof of Concept (PoC) ファブ
SCRよりも小径のウエハーで新材料や新構造のコンセプトを短い研究開発期間で実証するためのプロセス装置が各種そろっています。なかでも、超電導デバイス向けのクリーンルームは、量子コンピューティングなどに用いられるデバイスや超電導集積回路を作成できる国内最高水準の施設です。2020年度補正予算に基づいた「重点産業技術に係るオープンイノベーション拠点整備」によって、より使いやすく、優れた特性のデバイスを開発することを可能とするための整備を進めています。 - 試作ライン連携
PoCファブで先進的なデバイス技術を開発し、その技術に関する、産業化に必要な集積化、量産化実証をSCRで行うことにより、素早く産業化へつなげることが可能となります。
今後の予定
今後は、戦略会議において、委員および企業・大学などの有識者と5つのテーマで戦略の議論を進めてまいります。また、さらなるオープンイノベーションに向けて研究推進、および拠点整備を進めてまいります。
次世代コンピューティング基盤戦略会議委員
共同座長: 益 一哉(東京工業大学 学長)
金山 敏彦(産総研 特別顧問)
主査: 星野 岳穂(東京大学マテリアル工学科 特任教授)
メンバー: 遠藤 哲郎(東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター長)
大村 隆司(ソニー株式会社 執行役員)
岡田 顕(日本電信電話株式会社 先端集積デバイス研究所 所長)
新庄 直樹(富士通株式会社 理事)
堤 秀介(東京エレクトロン株式会社 常務執行役員)
服部 健一(株式会社INCJ ベンチャー・グロース投資グループ マネージング・ディレクター)
平本 俊郎(東京大学生産技術研究所 教授)
南川 明(インフォーマインテリジェンス合同会社 シニアコンサルティングディレクター)
安浦 寛人(九州大学 名誉教授)
中屋 雅夫(NEDO-TSCフェロー)
伊藤 智(NEDO-TSC デジタルイノベーションユニット長)
安田 哲二(産総研 エレクトロニクス・製造領域長)
森 雅彦(産総研 エレクトロニクス・製造領域 研究戦略部長)
オブザーバー:経済産業省
敬称略
本件問い合わせ先
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
エレクトロニクス・製造領域研究戦略部
部長 森 雅彦
用語の説明
- ◆産業技術ビジョン2020
- 日本におけるイノベーションの停滞の本質的課題を見つめ直し、2025年、さらにその先の2050年に向けて重要技術群の研究開発の方向性を示すため、産業構造審議会産業技術環境分科会研究開発・イノベーション小委員会での議論をもとに経済産業省が取りまとめたビジョン。
- ◆量子技術イノベーション戦略
- 「量子技術イノベーション」を明確に位置づけ、日本の強みを活かし、重点的な研究開発や産業化・事業化を促進することを目指して内閣府で2019年度に策定された戦略。
- ◆IMPULSEコンソーシアム
- ※IMPULSE:高電力効率大規模データ処理イニシアティブ
高電力効率大規模データ処理の実用化を目指す企業などが社会・産業ニーズの変化と技術動向を踏まえたロードマップを議論し共有する場を提供することを通じて、エネルギーに制約されずにデータを利活用できる社会の実現を先導することを目的とした産総研コンソーシアム。2017年から活動、現在企業6社、2国立研究所が参加。 - ◆先端半導体製造技術のパイロットライン
- 産総研が、NEDO事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業 研究開発項目②先端半導体製造技術の開発」に採択された東京エレクトロン(株)、(株)SCREENセミコンダクターソリューションズ、キヤノン(株)の3社との共同研究により、SCR内に整備する3次元構造ロジック半導体デバイスを試作できる共用のパイロットライン。