重水素実験新たなフェーズへ~ 水素同位体混合プラズマの乱流と突発型不安定性の研究が大幅に進展~

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2021-04-15 核融合科学研究所

概要

核融合発電は、1億度という高温のプラズマ中で生じる核融合反応によるエネルギーを利用するものです。それを実現するためには、高温のプラズマを磁場で閉じ込め、長時間にわたって安定に維持することが必要です。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)における重水素実験で、温度が1億度のプラズマを生成する技術を確立し、LHDの研究は新たな段階に入りました。プラズマ中に発生する乱流※1や、安定維持を妨げる突発型不安定性※2の原因を探る物理実験を、軽水素と重水素の水素同位体※3混合プラズマで行い、乱流の新たな性質や、不安定性の発生メカニズムを明らかにする研究成果が得られました。

本研究成果は、2021年5月10日-15日にオンラインで開催される第28回国際原子力核融合エネルギー会議(IAEA FEC 2020)で、発表される予定です。

研究の背景

核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、2017年より重水素ガスを用いたプラズマ実験(重水素実験)を行ってきました。将来の核融合発電で用いられる水素同位体の「重水素」と「三重水素」の混合プラズマを模擬した、「重水素」と「軽水素」の水素同位体混合プラズマの実験では、混ざり合う水素同位体を世界で初めて観測するなど(2020年にプレスリリース)、今後の核融合研究の基盤となる成果を挙げてきました。
核融合発電の実現には、このような高温のプラズマを長時間にわたって安定して維持することが必要であり、この安定維持に向けた多くの課題があります。磁場で閉じ込めたプラズマは、核融合反応を起こす中心部は1億度以上の高温を維持する一方で、周辺部のプラズマは、プラズマを閉じ込める装置の壁への熱負荷を減らすために、できるだけ低温にすることが求められます。この温度勾配は、約1メートルで1億度という極めて急峻なものです。温度勾配が急峻になるとプラズマ中に大小様々な渦を伴った乱流が発生し、この乱流がプラズマをかき混ぜて中心温度が低くなってしまいます。また、プラズマの圧力勾配が急峻になるとプラズマが不安定になり、閉じ込めたプラズマの一部が失われることもあります(この現象を不安定性と呼びます)。このため、プラズマの安定維持のためには、乱流と不安定性を理解し、それを制御する方法を確立することが必要です。

研究成果

2020年度のLHD重水素プラズマ実験で、電子温度・イオン温度共に1億度に達するプラズマの生成に成功しました。今回の成功によって、1億度に達するプラズマの生成法を確立することができ、LHDの研究は新たな段階に入りました。
重水素と軽水素の水素同位体混合プラズマの物理実験によって、プラズマの安定維持を阻害する乱流と不安定性について、新たな発見がありました。乱流に関しては、プラズマの中心部と周辺部で全く異なる制御を必要としていることを見出しました。プラズマ中心部では、乱流を小さくすることで急峻な温度勾配の形成ができるのに対し、周辺部では、乱流を大きくすることで、装置への熱負荷が減ることが分かりました。したがって、プラズマ中心部で乱流を抑制し、周辺部では逆に増大させるという制御が望ましいとことが明確になりました。また、プラズマをかき混ぜて同位体を均一にする効果(2020年にプレスリリース)を持つ乱流の詳細も明らかになりました(論文発表[1])。核融合にとってマイナス面が強調されてきた乱流に、プラス面があることを実験で明らかにしました。
圧力勾配が急峻になると発生するプラズマの不安定性には、緩やかに現れて持続するものと、突然現れるものがあります。突然現れる不安定性は、地震のように「いつ起こってもおかしくないが、いつ起こるか分からない」という性質を持っています。この突発型については、「きっかけ」と「プラズマへの影響」の解明に、重要な実験結果が得られました。プラズマを閉じ込めている磁場構造が突然変化して、プラズマ内部の流れが止まる現象(2015年にプレスリリース)についても、更なる研究の進展が見られました(論文発表[2])。

成果の意義と今後の展開

プラズマの乱流と不安定性に関する物理実験により、将来の核融合プラズマの乱流と不安定性の制御法の開発につながる重要な知見を得ることができました。
乱流や突発型不安定性は、核融合プラズマだけでなく、宇宙や地球で生起する様々な現象にも深く関わっていると考えられています。今後、LHDでは、そのような学際的な研究も推進していく予定です。

重水素実験新たなフェーズへ~ 水素同位体混合プラズマの乱流と突発型不安定性の研究が大幅に進展~

図 LHDの模式図(左)と装置内部写真(右)二重らせん状の電磁石を用いて捻じれた磁力線の「カゴ」を形成し、高温プラズマを閉じ込めている。

【用語解説】

※1 乱流
プラズマを加熱していくと、温度勾配が大きくなるにつれて小さい渦状の流れができる。この流れは大きさも様々で不規則に並んでいることから、乱れた流れ=乱流と呼ばれている。乱流が発生すると、温度の上昇が妨げられたり、プラズマの粒子が渦によってかき混ぜられたりする。

※2 突発型不安定性
プラズマは強力な磁場によってドーナツ形状を保っているが、プラズマの内部の圧力勾配が急峻になると、その一部に変形が生じる。その変形が大きくなると、プラズマの一部が突然外に飛び出してしまうという突発型不安定性を引き起こす。発生の予想が難しく、不安定が起こった時のプラズマへの影響も大きいことから、核融合プラズマの安定維持のためには、その発生メカニズムの解明が重要である。

※3 水素同位体
原子核は陽子と中性子から構成されているが、物質の化学的性質はほとんどが陽子の個数で決定されるので、陽子数が同じで中性子数が異なるものを同位体という。陽子が1個の水素の同位体としては、軽水素(中性子数0)・重水素(中性子数1)・三重水素(中性子数2)の3種類がある。自然界における水素の存在比は、軽水素が99.985%、重水素が0.015%で、三重水素はほとんど存在しない。核融合発電は重水素と三重水素の核融合反応を利用して行う。軽水素と重水素との組み合わせでは、核融合反応は起こさない。

【発表情報】

1)雑誌名:Nuclear Fusion

会議名: 28th IAEA Fusion Energy Conference
論文名:Characteristics of plasma parameters and turbulence in the isotope-mixing and the non-mixing states in hydrogen–deuterium mixture plasmas in the large helical device
出版日:2020年11月23日
著者:居田克巳1、吉沼幹朗1、田中謙治1、仲田資季1、小林達哉1、藤原大1、坂本隆一1、本島厳1、増崎貴1、LHD実験グループ1
1 自然科学研究機構 核融合科学研究所
DOI: https://doi.org/10.1088/1741-4326/abbf62

2)雑誌名:Nuclear Fusion

論文名:Effects of core stochastization on particle and momentum transport
出版日:2021年2月12日
著者:大谷芳明1、田中謙治2、伊神弘恵2、居田克巳2、鈴木康浩2、武村勇輝2、土屋隼人2、Mike Sanders3, 吉沼幹朗2、徳澤季彦2、山田一博2、安原亮2、舟場久芳2、庄司主2、坂東隆宏1、LHD実験グループ2
1 量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所、2 自然科学研究機構 核融合科学研究所、3 Eindhoven University of Technology
DOI: https://doi.org/10.1088/1741-4326/abd6b1

【本件のお問い合わせ先】

大学共同利用機関法人
自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部
大型ヘリカル装置計画研究総主幹・教授
居田 克巳(いだ かつみ)

2001原子炉システムの設計及び建設
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