熱電材料と磁性材料の組み合わせで巨大な熱起電力を生成、熱電技術の応用展開に新たな道
2021-01-19 物質・材料研究機構,科学技術振興機構
NIMSは、熱電材料と磁性材料を組み合わせた複合構造において生じる新原理の熱電効果を発案し、与えた温度勾配と直交する方向に起電力を生む「横型」熱電効果として世界最高値となる熱電能を観測することに成功しました。本成果は、汎用性の高い環境発電技術や高感度な熱流センサーの実現に資する新たな原理、設計指針を提供するものです。
金属や半導体に温度勾配を与えると起電力が生じる「ゼーベック効果」という現象は、排熱から電気エネルギーを創出できるため、IoT機器の独立電源などへの応用に向けた研究開発が進められています。しかし、ゼーベック効果は温度勾配と平行な方向に起電力が生じる「縦型」の熱電効果であるため、その発電力を高めるためには、材料を温度勾配方向に長くしたり、2種の異なる熱電材料のペアを多数並べて直列に接続する必要があるなど構造が複雑となり、コストや耐久性、フレキシビリティーの観点で応用上の足かせになっています。
一方、磁性材料に特有の熱電現象である「異常ネルンスト効果」は、温度勾配と直交する方向に起電力が生じる「横型」熱電効果であるため、材料を熱源に沿う横方向に広げるだけで発電力を高めることができ、モジュール設計上の自由度が飛躍的に高まり、ゼーベック熱電が抱える問題を解決することが期待されています。しかし、異常ネルンスト効果によって得られる熱電能は非常に小さく、室温近傍では10μV/K(マイクロボルト毎ケルビン)にも満たないことが課題でした。
今回、研究チームは、熱電材料のゼーベック効果によって生じる縦方向の電子の流れを、磁性材料の異常ホール効果によって横方向の起電力に変換させる新原理の横型熱電効果を考案、実証しました。この現象を理論モデルで予測した結果、材料と構造の最適化により、温度勾配と直交する方向に100μV/Kを超える巨大な熱電能を生成可能であることを見いだしました。
この現象を実証するため、大きな異常ホール効果を示す磁性体Co2MnGaと、大きなゼーベック効果を示す半導体Siを組み合わせた複合構造を作製し、横型熱電効果の熱電能として世界最高値となる正負双方の熱電能(+82μV/K、-41μV/K)を観測することに成功しました。観測された熱電能の値は上記モデルによる予測値と定量的に一致しており、構造最適化によりさらなる向上が見込まれます。
今回観測された熱電能は、これまで得られていた異常ネルンスト効果による熱電能の最高値を一桁上回る値であり、横型熱電効果の実応用に向けた研究開発を大きく進展させるものです。今後は、IoT技術に資する環境発電や、社会の省エネルギー化に貢献する熱流センサーなどへの応用を目指し、磁性材料・熱電材料双方の探索、開発やそれらの複合構造の最適設計に取り組んでいきます。
本研究は、物質・材料研究機構 磁性材料グループの周 偉男 ポスドク研究員と桜庭 裕弥 グループリーダー、スピンエネルギーグループの内田 健一 グループリーダー、磁性理論グループの山本 薫 ポスドク研究員(研究当時)らによって行われました。
本研究成果は、2021年1月19日(日本時間)に、英国科学誌「Nature Materials」にオンライン掲載されます。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「異常ネルンスト効果を用いた新規スパイラル型熱電発電の創成(研究者:桜庭 裕弥)」(JPMJPR17R5)、CREST「スピントロニック・サーマルマネージメント(研究代表者:内田 健一)」(JPMJCR17I1)、NEDO 先導研究プログラム未踏チャレンジ2050(P14004)の一環として行われました。
<論文タイトル>
- “Seebeck-driven transverse thermoelectric generation”
- DOI:10.1038/s41563-020-00884-2
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
桜庭 裕弥(サクラバ ユウヤ)
物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 磁性材料グループ グループリーダー
内田 健一(ウチダ ケンイチ)
物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点 スピンエネルギーグループ グループリーダー
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
科学技術振興機構 広報課