マイクロ流路内のプラズマで放射性試料を分析する

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液体電極プラズマ発光分光分析法による高レベル放射性廃液中のセシウムの定量

『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.90

マイクロ流路内のプラズマで放射性試料を分析する

図8-24 液体電極プラズマ発光分光分析法(LEP-OES)の原理
電圧印加に伴い気泡が発生し、これに電界がかかり液体電極プラズマ(LEP)が発生します。試料溶液中の元素が LEP 中に入り込むと発光します。

図8-25 グローブボックス(GB)に設置した LEP-OES 装置
GB 内には石英ガラス製の測定セルを設置し、LEP による元素の発光は、光ファイバーを介して GB 外の分光器、CCD 検出器で測定しました。

図8-26 高レベル放射性廃液(HLW)の LEP 発光スペクトル
黒線は硝酸で 1 万倍に希釈したHLW、赤線はブランクである硝酸の発光スペクトルです。852.1 nm に観測された Cs の発光線を用いて、HLW 中の Cs 濃度を求めました。


使用済燃料の再処理によって生じる高レベル放射性廃液(HLW)中には、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)などの核分裂生成物、再処理工程で添加された試薬由来のナトリウム(Na)等が含まれています。HLW 中の元素濃度は、HLW をガラス固化体として処理した後の固化体による放射性物質の保持性能に影響を及ぼすことから、正確に把握しておく必要があります。HLW を含む放射性試料は、作業者の被ばくを防止するため、気密性を有する遮へいセルやグローブボックス(GB)内で分析を行います。元素分析でよく用いられる誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は、プラズマガス、冷却水、大容量電源等を要する装置であるため、遮へいセルや GB 内への設置にあたっては専用 GB の設計 ・ 製作、装置の大掛かりな改良工事が必要になります。また、遮へいセル内においては、遠隔操作によるメンテナンス性にも課題があります。

本研究では、このような課題を解決するため、マイクロ流路内で発生させる液体電極プラズマ(LEP)と、これに基づく LEP 発光分光分析法(LEP-OES)に着目しました。LEP は、図 8-24 に示すように、流路幅約100 μm の狭小部を有する流路に溶液試料を導入し、パルス状の直流電圧を印加させて発生させます。LEP に試料中の元素が入り込むと原子固有の発光線が放出されます。この発光線を分光分析する方法は LEP-OES と呼ばれ、元素分析への適用が報告されています。LEP-OESでは、プラズマガス、冷却水、大容量電源が不要であることから、ICP-OES、ICP-MS と比べて装置が小型になり、汎用 GB 内へも容易に設置可能と考えられます。また、マイクロ流路内で試料を取り扱うため、放射性試料分析時に問題となる廃液発生量や作業者への被ばく量の低減も期待できます。

そこで本研究では放射性試料を測定するために最適化した機器を組み合わせ、図 8-25 に示すように LEP-OES装置を設置しました。本装置を用いて Cs 標準溶液の発光スペクトルを測定した結果、852.1 nm、894.3 nm に発光線が得られました。最も高い強度を示した 852.1 nmにおける Cs の検出限界値は 0.005 mg/L、定量下限値は0.02 mg/L であり、HLW 中の Cs を定量するにあたって十分な感度を有することが分かりました。また、HLWの元素組成を模擬した試料の発光スペクトルを測定した結果、当該波長域に共存成分による分光干渉は認められませんでした。そこで、東海再処理施設で発生したHLW を LEP-OES で測定しました(図 8-26)。Cs 濃度の測定値は 3.61 ± 0.47 g/L であり、計算コードより求めた値 3.60 g/L と良好な一致を示しました。本法は、GB等内に設置する分析装置の小型化に有効であるとともに、HLW中のCs測定に適用可能であることが分かりました。
今後、HLW 中の Sr、Na 等の元素分析、HLW 以外の再処理工程試料に LEP-OES の適用が期待されます。(小髙 典康)

●参考文献
Do,V-K. et al., Quantitative Determination of Total Cesium in Highly Active Liquid Waste by Using Liquid Electrode Plasma Optical Emission Spectrometry, Talanta, vol.183, 2018, p.283–289.

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