『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.34
図2-6 反応度事故(RIA)時に被覆管に発生する応力の状態
RIA 時に発生するペレット被覆管機械的相互作用(PCMI)によって被覆管には軸及び周方向の二軸応力が発生します。
図2-7 二軸荷重負荷試験装置の概要
被覆管に内圧及び被覆管軸方向への引張荷重を負荷させることで二軸応力を発生させます。コンピュータ制御により、試験中に被覆管に掛かる応力比を自由に変更することができます。
図2-8 加圧水型軽水炉(PWR)用ジルカロイ-4 製被覆管の変形異方性
図中の記号は、様々な応力比条件において軸方向単軸引張時のある塑性ひずみ量に相当する降伏・硬化条件に到達した点を表し、破線はこれらの点を、変形異方性を表現する関数によってフィッティングしたものです。破線で示す楕円が、等方性材料の場合の形状(一点鎖線、塑性ひずみ 0.002)と比べて応力比1 の方向にやや伸びています。これは、軸及び周方向の応力比が 1 に近づくと変形しづらくなることを表しています。
発電用軽水炉施設が安全に設計されていることを確認するための想定事故の一つに反応度事故(RIA)があります。RIA は、何らかの原因で制御棒が炉心から急速に引き抜かれて原子炉の出力が急激に上昇する事故で、この事故の際、燃料棒内ではペレットが急激に温度上昇・熱膨張することで被覆管を内側から急速に押し拡げる「ペレット被覆管機械的相互作用(PCMI)」が生じ(図 2-6)、燃料が破損する可能性があります。安全性の確認は破損する燃料の評価本数に基づくため、その信頼性には燃料の壊れやすさの評価精度が影響します。PCMI 下では、被覆管は軸及び周方向に同時に発生する応力(二軸応力)の影響で自由に変形しづらい状態となり壊れやすさが変化すると考えられていましたが、RIA条件に対応する系統的なデータの取得が難しく、これまで知見が限られていました。
そこで、発電用軽水炉用燃料に使用されるジルカロイ-4製被覆管に作用する、周方向に対する軸方向の応力比(以下、応力比)を正確に制御可能な二軸荷重負荷試験装置を新たに開発しました(図 2-7)。被覆管のような細い管状試料に適用することは従来困難でしたが、新しい治具と制御プログラムの開発を経て、RIA 時に想定される応力比(0.5 ~ 1)をカバーする範囲での変形挙動データ取得に成功しました。応力比と被覆管の塑性変形のしやすさとの関係をプロットしたところ(図 2-8)、等方性材料の場合に比べ右上方向にやや伸びた形状となりました。ジルカロイ-4 製被覆管内部の結晶組織状態も調べ、やや伸びた形状の原因が、製造時に結晶組織をある方向に揃えたことで生じる軸及び周方向の塑性変形しやすさの違いにあることを明らかにしました。また、本研究で初めて取得した変形異方性のデータに基づき、二軸応力条件における被覆管の降伏及び変形の進行に伴う硬化を表現できる機械特性モデルを新しく提示しました。
上記の機械特性モデルは、長期使用された燃料のRIA時破損に関するコンピュータシミュレーションに活用され、シミュレーションで得られた知見は、安全評価のさらなる信頼性及び合理性の向上を目指して、原子力機構が最近提案した新しい PCMI 破損しきい値に反映されています。
本研究で実施した二軸荷重負荷試験は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成 27 年度原子力施設等防災対策等委託費(燃料等安全高度化対策)事業」として行われたものです。
(三原 武)
●参考文献
Mihara, T. et al., Deformation Behavior of Recrystallized and Stress-Relieved Zircaloy-4 Fuel Cladding under Biaxial Stress Conditions, Journal of Nuclear Science and Technology, vol.55, issue 2, 2018, p.151–159.