スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AIにおいて2期連続の世界第1位を獲得

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Society5.0実現の情報技術基盤としての総合的な高性能を実証

2020-11-17 理化学研究所,富士通株式会社

理化学研究所(理研)と富士通株式会社(富士通)が共同で開発しているスーパーコンピュータ「富岳」[1]は、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングである第56回「TOP500」リストで、2期連続の世界第1位を獲得しました。また産業利用など実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法[2]の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、さらに人工知能(AI)の深層学習で主に用いられる単精度や半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-AI」においても、それぞれ2期連続の世界第1位を獲得しました。これらの結果は「富岳」のフルスペック(432筐体、158,976ノード[3])によるもので、いずれの測定結果もISC2020(2020年6月時)の数値を上回りました。

これらのランキングは、現在オンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「SC20」において、11月16日付(日本時間11月17日)で発表されます。

これら3部門における2期連続の第1位獲得は、「富岳」の総合的な性能の高さを示すものであり、新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety5.0[4]において、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI開発および情報の流通・処理に関する技術開発を加速するための情報基盤技術として、「富岳」が十分に対応可能であることを実証するものです。

スーパーコンピュータ「富岳」(開発・整備中)の画像

スーパーコンピュータ「富岳」(開発・整備中)

「富岳」測定結果

TOP500

今回、「TOP500」リストに登録した「富岳」のシステムは、432筐体(158,976ノード)の構成で、ランキングの指標となるLINPACK性能は442.01PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は82.3%です。この測定結果はISC2020(2020年6月時)での415.53PFLOPS・実行効率80.87%を上回り、これにより「富岳」は2期連続の世界第1位を獲得しました。

なお、2020年11月時点の「TOP500」リストのランキング世界第2位は米国の「Summit」で、測定結果は148.6PFLOPSです。すなわち、今回「富岳」は第2位と約3倍の性能差をつけたことになります。

また、スーパーコンピュータ「京」[5]での測定結果は、10.51PFLOPS(2011年11月時点)であったため、「京」と比較して42倍以上の性能向上を達成しました。

関連リンク:

TOP500ランキング(英語)

TOP500(英語)

HPCG

「HPCG」の測定には「富岳」の432筐体(158,976ノード)を用い、16.00PFLOPS(ペタフロップス)という高いベンチマークのスコアを達成しました。これは「ISC2020」(2020年6月時)での13.40PFLOPSを上回り、今回「富岳」は2期連続の世界第1位を獲得しました。この結果は、「富岳」が産業利用などにおいて実際のアプリケーションを効率よく処理し、高い性能を発揮することを証明しています。

なお、2020年11月時点の「HPCG」のランキング第2位は米国の「Summit」で、測定結果は2.93PFLOPSです。すなわち、今回「富岳」は第2位と約5.5倍の性能差をつけたことになります。

また、「京」での測定結果は、0.603PFLOPS(2016年11月時点)であったため、「京」と比較して26倍以上の性能向上を達成しました。

関連リンク:

HPCGランキング(英語)

HPCG(英語)

HPL-AI

「HPL-AI」は、倍精度演算器の能力を測定する「TOP500」や「HPCG」などと異なり、AIの計算などで活用されている単精度や半精度演算器などの能力も加味した計算性能を評価する指標として、2019年11月に制定されたベンチマークです。この測定には「富岳」が持つ432筐体(158,976ノード)を用い、2.004EFLOPS(エクサフロップス)という高いスコアを記録しました。この記録は、「富岳」が世界で初めてHPL系ベンチマークで1エクサ(10の18乗)を達成した歴史的快挙であった、「ISC2020」(2020年6月時)での1.421EFLOPSを上回ります。このスコアにより、「富岳」は2期連続で世界第1位を獲得しました。これは「富岳」の高い性能を証明するとともに、「富岳」がAIの計算やビッグデータ解析の研究基盤としてSociety5.0[4]社会の推進に大いに貢献し得ることを示しています。

なお、2020年11月時点の「HPL-AI」のランキング第2位は米国の「Summit」で、測定結果は0.55EFLOPSです。すなわち、今回「富岳」は約3.6倍の性能差をつけたことになります。

関連リンク:

HPL-AI(英語)

スーパーコンピュータのランキングについて

TOP500

「TOP500」リストは、LINPACKの実行性能を指標として世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクトです。1993年に発足し、スーパーコンピュータのランキングを年2回(6月、11月)発表しています。

LINPACKは、米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士によって開発された行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであり、「TOP500」リストはこのプログラムを処理する際の実行性能を指標としたランキングです。多くの科学技術計算や産業アプリケーションで使用される倍精度浮動小数点数の演算能力を測ることで、コンピュータの計算速度ランキングを決定します。なお、本ベンチマークで高いスコアを出すためには、大規模ベンチマークを長時間測定する必要があります。そのため、LINPACKによる高いスコアは計算能力と信頼性を総合的に示していると一般的に言われています。

HPCG

「TOP500」は、密な係数行列から構成される連立一次方程式を解く、重要な性能指標であり、演算能力を主に評価するベンチマークとして長年親しまれてきました。しかし、プロジェクトが発足した1993年から20年以上が経過し、近年、実際のアプリケーションで求められる性能要件との乖離やベンチマークテストにかかる時間の長時間化が指摘されています。

そこで、ジャック・ドンガラ博士らにより、産業利用など実際のアプリケーションでよく使われる、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いた新たなベンチマーク・プログラム「HPCG」が提案されました。2014年6月のISC14で世界の主要なスーパーコンピュータ15システムでの測定結果の発表を経て、同年11月に米国ニューオーリンズで開催されたHPCに関する国際会議SC14から正式なランキングとして発表されました。

HPL-AI

「TOP500」と「HPCG」では、連立一次方程式を解く計算性能でランクをつけてきました。どちらも科学技術計算や産業利用の中で多く用いられてきた倍精度演算(10進で16桁の浮動小数点数)のみで計算することがルールに定められていました。近年、GPUや人工知能向けの専用チップで低精度演算(10進で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化した計算機が多数現れています。これらの高性能演算能力が「TOP500」に反映されないとの実情があり、ジャック・ドンガラ博士を中心にLINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた新しいベンチマーク「HPL-AI」が2019年11月に提唱されました。「HPL-AI」はLINPACKが連立一次方程式をLU分解[6]を用いて解く際に、低精度計算で実施することを認めています。しかしながら、倍精度計算よりも計算精度が劣ってしまうため、引き続き反復改良[7]と呼ばれる技術で倍精度計算と同等の精度にすることを求めています。つまり、2段階の計算過程で構成されたベンチマークです。

HPL-AI用のベンチマークのプログラムは、ランキングの規則に従って理研計算科学研究センター(R-CCS)が開発したものであり、近日中にオープンソース化する予定です。

関連リンク:

理研 計算科学研究センター(R-CCS)

関係者のコメント

理研 計算科学研究センター センター長 松岡 聡:
「富岳」は最初のコンセプトから10年、プロジェクトの公式な開始から6年の歳月を経てほぼ完成し、来年度早々の一般共用に向けて、事前の試験運用が進んでおり、既に多くの成果を出しています。「富岳」はSociety5.0に代表される、国民の関心事の高い種々のアプリケーションで高い性能が出るように開発しましたが、その結果として、全ての主要なスパコンの諸元で突出して世界最高性能である事を、6月の前回のランキングの時点から更に性能を向上させる形で、再び示す事ができました。今後「富岳」は、スパコンとしてのそれ自身の利用と共に、開発された「富岳」のITテクノロジが世界をリードする形で広く普及し、新型コロナに代表される多くの困難な社会問題を解決し、我が国のイノベーションを先導していくでしょう。

富士通 理事 新庄 直樹:
主要なベンチマークにおいて2期連続で首位を獲得することができました。今回は、「富岳」の全系を動かし、前回から大きく性能を伸ばすことができました。「富岳」のポテンシャルの高さが確認できたものと考えます。
今後、「富岳」が高いアプリケーション実効性能を実証し、Society5.0の実現を担うスーパーコンピュータとして広く活用されることを期待しています。
理研様をはじめ関係各位の多大なるご協力とご支援に、心より感謝申し上げます。

補足説明

1.スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年度の共用開始を目指している。
「富岳」は”富士山”の異名で、富士山の高さがスーパーコンピュータ「富岳」の性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがスーパーコンピュータ「富岳」のユーザーの拡がりを意味する。また、”富士山”は海外での知名度も高く、名称として相応しいこと、さらにはスーパーコンピュータの名称は山にちなんだ名称の潮流があることなどから理研が選考した。

2.共役勾配法
物理現象をコンピュータでシミュレーションする場合、大規模な連立一次方程式として解くことが多い。連立一次方程式を解く方法として、解を直接求める直接法と、反復計算を行うことで正しい解に収束させていく反復法の2つがある。共役勾配法は、後者にあたる反復法の一つであり、前処理を組み合わせることにより、早く正しい解に収束させることができる。コンピュータシミュレーションの世界ではよく使われている。

3.ノード
スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステムが動作できる最小の計算資源の単位。「富岳」の場合は、1つのCPU(中央演算装置)および32GiBのメモリから構成される。

4.Society5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。IoT(Internet of Things)、ロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会の実現を目指すこととしている。

5.スーパーコンピュータ「京」
文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。2019年8月にシャットダウンした。

6.LU分解
連立一次方程式を解く方法の一つ。解法の途中で行列を下三角行列(Lower-triangular matrix)と上三角行列(Upper-triangular matrix)の積の形に分解するため、LU分解法と呼ぶ。

7.反復改良
LU分解などの方法で連立一次方程式を解いた近似解には真の解との誤差が含まれてしまいます。その誤差を用いた連立一次方程式を再度解いて、近似解を修正することでより真の解に近い答えを得る方法。

報道担当

理化学研究所 神戸事業所 計算科学研究推進室
広報グループ 岡田 昭彦
理化学研究所 広報室 報道担当

富士通株式会社
広報IR室 担当: 富田、富坂

1601コンピュータ工学
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