藁わらと畜糞燃焼灰が互いをアップグレード~農畜資源を混ぜ置くだけで利用し易く、資源価値が向上~

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2020-11-12 農研機構

ポイント

農研機構では、藁などの植物茎葉と畜糞燃焼灰(家畜の糞を燃やした灰)に水を加えて混ぜて置くだけで、両者を資源として利用し易くする「RURALルーラルプロセス」を開発しました。本法で処理をした藁などの繊維からは、ブドウ糖や生分解性プラスチックの原料となる乳酸などを容易に製造でき、また強アルカリ性の畜糞燃焼灰はアルカリ度が下がることで肥料用リン原料として利用し易くなります。本技術により農畜資源の利用が容易になり、価値も向上するため、その活用による循環型の地域産業の創出を促します。

概要

農業・食品産業では食料を生産する際に、循環型の資源として再利用できる様々な副産物・廃棄物が発生します。近年、これらの循環型の資源の社会的価値や経済的価値を高め、高度利用を促し、持続的社会へ貢献することが求められています。
そこで農研機構は、稲、麦などの副産物・廃棄物である藁(植物茎葉)と、畜糞(の燃焼灰)の資源としての利用価値の向上に取り組みました。従来、これら植物茎葉からバイオ燃料・化成品原料等を製造するには、酸、アルカリ、高温水蒸気などによる前処理が必要でコストがかかり、大がかりな設備が必須でした。また、畜糞を再生可能エネルギー源として燃焼利用した後に残る畜糞燃焼灰は、肥料用リン原料としての価値を持ちますが、アルカリ性が強く、取り扱いや肥料の製造が容易ではありませんでした。そこで今回、藁などの作物残渣と畜糞燃焼灰に水を加えて混合・静置することで、藁の繊維の前処理(改質)と畜糞燃焼灰のアルカリ低減を同時に行う地域型のプロセス(Reciprocal Upgrading for Recycling of Ash and Lignocellulosics:RURALプロセス)を開発しました。
この技術により、大がかりな前処理設備を必要とせず、例えば、農家単位で、混合物を山積みして周りを覆うだけでも前処理できるようになります。前処理に使用するアルカリに地域内で生じる畜糞燃焼灰を利用することで、化石資源由来のアルカリを地域外から輸送する必要がなくなるとともに、前処理利用によりアルカリ性が低減した畜糞燃焼灰は、リサイクル型リン肥料製造のための原料として取扱い易くなります。この技術は処理工程が簡易で原料の規模に影響を受けにくいため、各地域で入手できる原料の規模や、耕畜連携1)の状況などに応じて、有価物の製造に向けた多様な研究開発や実証試験をスタートできます。本技術は、日本型の地域バイオエコノミー2)の実現に道を拓くとともに、地域食料供給体制の強靱化にも貢献するものと期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構食品研究部門 研究部門長 亀山 眞由美

研究担当者 :同食品研究部門 食品生物機能開発研究領域 ユニット長 徳安 健

同中央農業研究センター 生産体系研究領域 グループ長 田中 章浩

広報担当者 :同食品研究部門 研究推進室(兼 本部広報専門役) 清水 恒

詳細情報

開発の社会的背景

気候変動による環境変化や自然災害、人間活動による環境汚染などが世界的問題となっている中で、持続的社会の構築への取組が急務となっています。すでに、国内外の多くの企業が再生可能エネルギーの導入、持続的手法によるものづくり等への急速な転換を図っており、このような配慮は製品の海外展開を図る上でも不可欠となりつつあります。
農業・食品産業では、食料と同時に多様な副産物や廃棄物も持続的に産生されます。これらの資源を用いて新たな「ものづくり」ができれば、その取組自体に対して持続的社会の構築への貢献として社会的価値が高く評価されるとともに、農産物・食品をはじめとする多様な製造物に経済的価値が付与されるものと期待されます。このためには、日本の農業・食品産業の特徴を考慮し、各地域の資源量や多様な「ものづくり」に対応できるような、簡素な処理・加工プロセスの構築を加速する必要があります。

研究の経緯
藁の高度利用戦略と課題

稲、麦などを栽培すると、穀粒重量とおよそ同量の藁(植物茎葉)を副生します。植物茎葉中の繊維を酵素などで加水分解後、発酵することで、エタノール、乳酸など化学原料として使える有価物を得ることができます。その一方で、植物繊維は頑丈なため、加水分解し易くするためには酸、アルカリ、高温水蒸気などによって前処理を行う必要があります。これまでのほとんどの前処理工程は高温・高圧処理で行われていました。しかし、この方式は設備が大掛かりとなりコストもかかるため、地域での小規模な処理には適用が難しいことから、より簡素な前処理技術を開発する必要があります。

畜糞の高度利用戦略と課題

畜糞は、現在は主に堆肥化処理が行われています。その一方で、堆肥製造スペースの抑制、堆肥需要とのアンバランスの解消、堆肥化時の温室効果ガスの発生の抑制のため、畜糞燃焼が注目されています。畜糞燃焼では、畜糞の大幅な減量、環境汚染物質の分解などに加えて、再生可能エネルギーとして熱・電気を生み出す利点があります。 畜糞燃焼後に残る燃焼灰は、リン源としての肥料価値が注目されます。枯渇の懸念があるリン鉱石ではなく、畜糞燃焼灰の中のリンを活用できれば、リン資源の高度なリサイクルが実現します。しかしながら、多くの畜糞燃焼灰には多量のカルシウムも含まれており、強いアルカリ性を示すことから、これを肥料原料として取り扱う際には、取扱作業者への健康影響や肥料製造効率の低下が懸念されます。

2つの課題の同時解決

この2つの課題を同時に解決する方法として、藁を前処理するためのアルカリに、強いアルカリ性を示す畜糞燃焼灰を用いることを着想しました。

研究の内容・意義

本研究では、畜糞燃焼灰をアルカリとして用い、藁を前処理する工程を開発しました。
畜糞燃焼灰は、枯渇性資源である石灰岩から製造される水酸化カルシウム(消石灰)と比較してアルカリの強さで劣りますが、畜糞からリサイクルされた資源である点、地域内の畜舎近傍で製造できて輸送・貯蔵費用が低い点などが、消石灰に対する利点となります。それに加えて、畜糞燃焼灰をリン肥料原料として利用する際の問題となる、高いアルカリ度が前処理での利用で低減できることを見出しました。
稲藁も畜糞燃焼灰も高品質化できるこの処理法(プロセス)を、RURAL(Reciprocal Upgrading for Recycling of Ash and Lignocellulosics:灰とリグノセルロースのリサイクルのための相互アップグレード)プロセスと名付けました。

RURALプロセスの概要(試験例)

1.前段階:鶏糞燃焼灰の調製
鶏糞及び木粉を燃焼し(熱はエネルギーとして利用)、残った灰を空冷後に貯蔵します。

2.RURALプロセス(図1、図2)
裁断した稲藁と鶏糞燃焼灰(図3左)を混合し、水分量が混合物の乾燥重量の1.5倍になるように調整した後(図3右)、密封して室温で適切な期間(例えば2週間)静置します。その後、改質された稲藁を主成分とする部分と改質された鶏糞燃焼灰を主成分とする部分に分けます(固-固分離3))。

3.改質された稲藁からの有価物製造
改質された稲藁を細い繊維にほぐし、水に混ぜてpH調整した後、酵素を加えて加水分解して単糖・オリゴ糖を製造します。また、改質された稲藁に繊維質分解用の酵素を加え、pHを制御しつつ乳酸菌で発酵させ、乳酸を製造します。

4.改質された鶏糞燃焼灰の特性評価
RURALプロセスでは、元の燃焼灰のリンの殆どは改質された鶏糞燃焼灰として回収されるのに対して、カルシウムの一部が鶏糞燃焼灰から稲藁に移行します。試験例では、鶏糞燃焼灰を混ぜた水のpHが13.0であったのに対して、改質灰では11.2まで低下します。

5.研究成果(試験例)に基づく試算(図4)
10万羽の採卵鶏を飼育する鶏舎から年間に排出される鶏糞を湿重量で1,095 tと仮定し、この鶏糞1 tから鶏糞燃焼灰が60 kg得られると仮定すると、上記鶏舎からの鶏糞燃焼灰の供給量は年間66 tと試算されます。また、1 haの水田から稲藁が乾燥重量換算で4 t回収できると仮定し、50 haの水田から得られる稲藁を用いて、RURALプロセスを動かす際には、鶏糞燃焼灰の投入量が50 tとなり、38 tの改質された鶏糞燃焼灰が得られます。また、それと同時に、187 tの改質稲藁が得られます。この改質稲藁を糖化・発酵すると、63 tの乳酸が製造できるものと試算されます。

6.研究成果の利用上の留意点
畜糞燃焼灰のアルカリを低減した灰をリン肥料に加工して譲渡・販売する際には、肥料取締法などの法令に遵う必要があります。

今後の予定・期待

本技術により、我が国の地域で求められている小規模な資源循環を実現することで、日本型の地域バイオエコノミーの姿を創り上げることができ、ひいては地域食料供給体制の強靱化、我が国の農産物・食品の輸出競争力強化などにも貢献するものと期待されます。
RURALプロセスを用いて改質された草を原料とすることで、多様な有価物が得られます(図5)。この多様性を活かし、地域主導で個性的な製品を生産する新たな産業(図5の有価物生産およびそれを使った製品製造など)の創出が期待できます。この地域に根差した多様な取組は、持続的社会の構築への取り組みとしてアピールすることで社会的価値及び経済的価値が高まり、高度な連携・資源循環システムの構築に貢献します。
本成果は、エリアンサス、ススキ、オギススキなどのセルロース系資源作物、サトウキビバガスのような食品製造残渣、芝、河川堤防や道路等に生える雑草などにも適用可能と考えられます。特に、湿った状態の「草」は放置すると腐敗してしまいますが、RURALプロセスにより腐敗が抑制されることから、貯蔵面でも有効です。
畜糞燃焼システムは、再生可能エネルギー生産を通じ、持続的社会の構築に貢献します。畜舎近傍でのエネルギー利用を想定した、中小規模での燃焼システムの導入が進むことで、畜糞燃焼灰の高度利用に関するニーズは一層拡大するものと期待します。
現在、本プロセスの効率化を目指して多様な原料の特性評価、有価物製造試験などを行っており、今後、本研究成果の現地実証試験に向けた準備を進める予定です。

用語の解説
1)耕畜連携
耕種農家と畜産農家との連携。例えば、耕種農家が稲藁を敷料として畜産農家に提供する代わりに、堆肥の供給を受けるような連携が挙げられる。
2)バイオエコノミー
化石資源への依存度を低減し、持続的な社会の構築を促すため、再生可能な生物資源を活用して化石資源由来製品の代替物を製造することを特徴とするような多様なものづくり産業を創出するとともに、その価値を受容し支える社会機構(国内外で様々な定義が存在することから、それらを参考にしつつ本稿の趣旨に合わせて再定義。)。
参考:McCormick K. and Kautto N., The bioeconomy in Europe: an overview. Sustainability, 5, 2589-2608 (2013).
3)固-固分離
固形物と固形物の混合物を分離する工程。本成果では、稲藁と鶏糞燃焼灰を混合した処理物の水懸濁物から、改質された稲藁と改質された鶏糞燃焼灰を形状、比重、水中での沈降特性などの差によって二つの画分に分離。水を貯めた桶に混合物を投入し、自然沈降時の挙動差により分離したり、網で濾したりするような簡素な分離技術や、遠心分離工程や圧力を掛けた濾別工程などを活用する迅速・効率的な分離技術などが適用できる。
発表論文

Yamagishi K., Ike M., Tanaka A., Tokuyasu K., The RURAL (reciprocal upgrading for recycling of ash and lignocellulosics) process: a simple conversion of agricultural resources to strategic primary products for the rural bioeconomy, Bioresour. Technol. Rep. doi.org/10.1016/j.biteb.2020.100574 (2020).

参考図

藁わらと畜糞燃焼灰が互いをアップグレード~農畜資源を混ぜ置くだけで利用し易く、資源価値が向上~

図1 RURALプロセスの概念図

図2 稲藁及び鶏糞燃焼灰を用いたRURALプロセスの主要工程

図3 鶏糞燃焼灰(左)及び稲藁と鶏糞燃焼灰の混合物(右、水分調整後)

図4 RURALプロセスの試験結果を基にした有価物生産量の試算例
(詳細については本文をご覧ください。)

図5 糖質からの多様な有価物製造の可能性(概念図)

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