原発事故で生じた汚染物中の放射性セシウム保持物質を 判別・定量化する手法の確立に成功

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2020-10-17 東京大学

奥村 大河(地球惑星科学専攻 特任研究員)
小暮 敏博(地球惑星科学専攻 教授)
山口 紀子(農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター ユニット長)

発表のポイント

  • 東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、福島原発事故)によって放出された放射性セシウムは、原子炉から直接飛散した放射性ガラス微粒子に含まれた形態と、鉱物粒子に収着した形態として環境中に存在している。詳細な汚染実態を把握するためには、2つの存在形態を判別し、それぞれの割合を見積もる手法の確立が望まれていた。
  • 放射性セシウムに汚染された試料(農業資材、土壌、植物など)を適当な条件で酸処理することで、鉱物粒子は部分的に溶解して放射性セシウムを脱離するが、放射性ガラス微粒子はほとんど溶解せず放射能の変化は小さいことを明らかにした。これにより汚染試料中における上記の2つの形態の判別と存在割合の評価が可能となった。
  • 今後この手法によってさまざまな地域や種類の汚染物中の放射性セシウムの存在形態を明らかにすることで、福島原発事故による汚染の実態解明が前進することが期待される。

発表概要

福島原発事故により大気中に放出されたガス状の放射性セシウムは、降雨時に雨滴等に取り込まれて地上に落下し、土壌中の小さな鉱物粒子等に吸着・固定(以下、収着)していると考えられている。一方破損した原子炉から放出された放射性セシウムの一部は、セシウムボールとも呼ばれる数ミクロン(μm)以下のガラス微粒子に封じこめられた状態で飛散したこともわかってきた。しかし、福島原発事故由来の放射性セシウムに汚染された物質に、どの程度の割合のガラス微粒子が存在しているかを見積もるための信頼できる評価手法はなかった。

東京大学と農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の研究グループは、福島原発事故以来、放射性セシウムを保持した鉱物粒子やガラス微粒子の構造やその諸特性の解明を進めてきた。最近はさまざまな条件でのこれらの粒子からの放射性セシウムの脱離特性を調べている。そのような研究の結果から、2つの粒子では酸性溶液中での挙動が大きく異なることが明らかとなった。汚染試料を適当な条件下で酸に浸漬することにより、鉱物粒子は部分的に溶解し、そこに収着していた放射性セシウムは大きく減少するが、放射性ガラス微粒子はほとんど溶解しないため、放射性セシウムが保持されたままとなる。すなわち酸処理前後での放射線量やIPオートラジオグラフィ(注1) で見つかる試料中の輝点(放射性セシウムの濃集物質に対応)の比較により、鉱物粒子とガラス微粒子を判別し、それぞれの存在割合を見積もることができると結論された。本報告ではこの手法によって福島県で採取された2つの汚染試料における鉱物粒子とガラス微粒子由来の放射性セシウムの割合を明らかにした。今後この手法を、福島原発事故後にさまざまな地域で採取された試料に適用することで、その中の放射性セシウムの存在形態を明確にし、ガラス微粒子の分布域など福島原発事故による汚染実態の理解が可能となることが期待される。

発表内容

2011年3月に起きた福島原発事故により放射性セシウムを中心とした放射性物質が環境中に放出された。この放射性セシウムの多くはガス状で、主に降雨時に雨滴等に取り込まれて地上に降下し、現在は土壌に含まれる細かい鉱物粒子等に収着していると考えられている[1]。しかしこれとは別に、放射性セシウムの一部は破損した原子炉から直接飛散した主に珪酸塩ガラス(注2)からなる微粒子中に含まれていることが最近の研究でわかってきた[2, 3]。セシウムボールとも呼ばれるこの放射性ガラス微粒子は、そのサイズが数ミクロン以下のため大気中を浮遊しやすく、また単位体積あたりの放射能が鉱物粒子と比較して非常に高い。しかしながら福島原発事故で汚染されたさまざまな物質において、全放射能のどの程度の割合が放射性ガラス微粒子に由来するかを見積もるための信頼できる手法はなかった。鉱物粒子とは環境中での動態等が大きく異なる放射性ガラス微粒子の存在量や分布の実態を明らかにするためには、これらを判別し、存在比を見積もることができる手法の確立が喫緊の課題であった。

東京大学と農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の研究グループは、原発事故以来この放射性セシウムを保持した鉱物粒子と放射性ガラス微粒子の構造やその諸特性の解明を進めてきた[3-5]。特に最近はさまざまな条件でのこれらの粒子からの放射性セシウムの脱離特性を明らかにしてきた[6-8]。その中で、2つの粒子では特に酸性溶液中での挙動が大きく異なることがわかった。例えば1 mM (pH = 3), 90 ℃の塩酸 (HCl) 溶液に24時間浸漬した場合、鉱物粒子では収着していたかなりの放射性セシウムが粒子から脱離して鉱物粒子中の放射性セシウムが大きく減少するが、ガラス微粒子はその独特なガラス組成のためにこの条件ではほとんど溶解せず、粒子中の放射性セシウムは減少しない。また100 mM (pH = 1)の塩酸溶液では鉱物粒子は部分的に溶解し、そこにあった放射性セシウムが完全に脱離するが、ガラス微粒子ではかなりの放射性セシウムが残ることがわかった。よって汚染試料を100 mM程度の塩酸溶液で処理すれば、鉱物粒子に収着した放射性セシウムが減少するため、酸処理後の試料のIPオートラジオグラフィで見つかる輝点(放射性セシウムの濃集物質に対応)および試料に残存する放射能は、放射性ガラス微粒子由来であると判断することができる。本研究ではこの手法を2011年の事故直後に福島県で採取された2つの汚染試料に適用し、放射性ガラス微粒子の存在割合を見積もった。図1は事故当時に福島県の農地で使われていた農業資材の不織布に本手法を適用した結果である。

図1:酸処理により変化する不織布片(農業資材)からのIPオートラジオグラフィ像。(a) 酸処理前。(b) 1 mM,90 ℃の塩酸に1日浸漬後。(c) さらに100 mM,90 ℃の塩酸に1日浸漬後。(d) 不織布片の顕微鏡写真。(e) (b)のIPオートラジオグラフィの強度から見積もられた各輝点の137Csの放射能。

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