赤外線観測が明らかにした、終末期の重い連星系から流れ出る塵の雲

ad

2020-09-16 国立天文台

2001年から2019年にかけて捉えられた連星系「WR 112」の中間赤外線画像
2001年から2019年にかけて捉えられた連星系「WR 112」の中間赤外線画像。

Gemini-North、Gemini-South、Keck、VLT、そしてすばる望遠鏡といった数々の大望遠鏡を使って撮影された。それぞれの図中の白線は約6800天文単位(約1兆200億キロメートル)にあたる。(クレジット:Lau et al.) オリジナルサイズ(110KB)


終末期の重い星を含む連星系「WR 112(ウォルフ・ライエ 112)」から、渦を巻いて流れ出す塵(ちり)が作る雲とその動きが、詳細に捉えられました。すばる望遠鏡をはじめ世界最大級の望遠鏡を数多く用い、長年にわたって続けられた中間赤外線撮像観測によって得られた成果です。宇宙における塵の供給過程についての理解を深めるために重要な、新たな知見です。

終末期の重い星を含む連星系は、大量の塵を生成し放出すると考えられています。しかしその放出の量やしくみについては、まだ分かっていないことが多く残されています。これまでの研究で、同様の天体でも公転周期が220日と短い連星系の周囲には、その公転運動を反映した風車(かざぐるま)のような際立った構造の塵が見られた例があります。一方で、これに比べて公転周期がはるかに長いWR 112の周囲では、塵の雲のみかけの構造がきわめて複雑であり、その解釈についての議論が続けられてきました。

すばる望遠鏡に搭載した冷却中間赤外線分光撮像装置「COMICS」を用いて2019年10月に撮影したWR 112の姿は、その解釈に大きな進展をもたらしました。これまでに別の望遠鏡で撮影された姿と比較したところ、塵が作る雲が明らかに動いていたのです。2001年以降に得られた多くの中間赤外線での観測データを総合した結果、公転運動に伴って変化する塵の雲の形状を、とてもよく再現するモデルを構築することに成功しました。WR 112が放出する塵は渦を巻く形をしており、渦の回転の向きは私たちから見て奥行きの方向になっています。その渦の回転周期、つまり連星の公転周期が20年と判明しました。塵が広がる速さが明らかになったことで、1年間に地球の質量と同程度の量の塵が放出されていると算出できました。公転周期が長い連星系としては他にない規模の放出量です。

このような連星系からの塵の放出を、今後も継続して観測することが計画されています。超大型望遠鏡TMTなど次世代の望遠鏡での研究につながる、重要なステップになると期待されます。

この研究成果は、Ryan M. Lau et al. “Resolving Decades of Periodic Spirals from the Wolf-Rayet Dust Factory WR 112”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2020年9月15日付けで掲載されました。

この研究をリードしたJAXA宇宙科学研究所のLau研究員によるWR 112が放出する塵のモデルの解説(クレジット:NAOJ/ISAS)
ad

1700応用理学一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました