中国からのブラックカーボンの排出量が過去10年で約40%減少

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2020-07-06 国立極地研究所

国立極地研究所の近藤豊特任教授を含む海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学、国立環境研究所などの研究グループは、中国からのブラックカーボン(すす粒子;BC)の排出量が過去10年で約40%減少したことを、長崎県・福江島での高精度観測から明らかにしました。

地球温暖化の主要因としては二酸化炭素などの温室効果気体が挙げられますが、大気中の微粒子であるエアロゾルも気候に影響を及ぼします。エアロゾルの中でも黒色のBC粒子は太陽光を効率的に吸収し、大気を加熱します。また北極の雪氷面に沈着し、その太陽光反射率を低下させ北極の気候にも影響すると考えられています。北極のBCの多くはアジアから輸送されるため、アジアにおけるBCの発生量の変化の把握が北極の今後の気候変化の理解に重要です。

長崎県の福江島は大気の流れ上、中国の下流域に位置し、中国からの大気汚染物質の影響を受けやすい場所にあります。本研究では、福江島でのBCの濃度を2009-2019年にわたって観測し、この10年間にBCが約50%減少したことを見出しました(図1)。さらに、数値モデルなどを用いてこの観測データを詳しく解析したところ、中国からのBCの排出量が約10年間に約40%減少したと推定されました(図2)。減少の原因は、大気汚染物質であるエアロゾル(PM2.5)削減の施策が行われ、その一成分であるBC排出量も減少したことにあると考えられます。中国からのBC排出は世界の排出量の約30%を占めるものの、最近の中国からの排出量には大きな不確実性がありました。この結果は気候変動の正確な理解のために重要な知見です。

図1: 福江島で観測されたBC濃度の年平均の推移(青)。発表論文より引用。

図2: 本研究で明らかになった中国からのBC排出量の推定値(赤太線)。縦軸の単位はテラグラム/年。赤太線以外のデータは、これまでに発表されている各排出インベントリ(大気中に排出される汚染物質の量を推計し、データベース化したもの)における中国からのBC排出量。発表論文より引用。

このBC高精度観測には、近藤豊特任教授が東京大学などと共同で開発を行ってきた測定器COSMOS(Continuous Soot Monitoring System、図3)が用いられています。現在、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)の一環でCOSMOSにより北極域の多くの場所でBCの観測が行われています。アジアおよび北極でのBC観測データの詳しい解析から、BCの発生・輸送・降水除去の過程や地球全体の気候に与えるBCの影響を解明する研究が進められています。

なお本研究は、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の支援を受けて行われました。

図3: COSMOS。装置の詳細については過去の研究成果「北極のブラックカーボン測定の著しい高精度化に成功」を参照。

発表論文

掲載誌: Atmospheric Chemistry and Physics

タイトル: Rapid reduction in black carbon emissions from China: evidence from 2009–2019 observations on Fukue Island, Japan

著者

金谷有剛1,2、山地一代2,1、宮川拓真1、竹谷文一1,2、朱春茂1、Yongjoo Choi1、駒崎雄一1、池田恒平3、近藤豊4、Zbigniew Klimont5

 1. 海洋研究開発機構地球環境部門地球表層システム研究センター

 2. 神戸大学大学院海事科学研究科

 3. 国立環境研究所 地球環境研究センター

 4. 国立極地研究所

 5. 国際応用システム分析研究所(オーストリア)

DOI: 10.5194/acp-20-6339-2020

URLhttps://www.atmos-chem-phys.net/20/6339/2020/acp-20-6339-2020.html

論文出版日:2020年6月5日

1702地球物理及び地球化学1900環境一般1902環境測定
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