ブラックホールごく近傍からの放射か
2020-05-11 国立天文台
超巨大ブラックホールと、そのごく近傍を周回する熱いガスの塊の想像図。(Credit: 慶應義塾大学)
アルマ望遠鏡の観測データの解析から、天の川銀河の中心核「いて座A*(エー・スター)」が放つ電波の強度が、「瞬き」のような短い周期的な変動を見せることが分かりました。この瞬きは、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールのごく近くを周回する熱いガスの塊に起因すると考えられます。超巨大ブラックホールのごく近傍の現象を描き出し、その時空構造の理解につなげる重要な成果です。
天の川銀河の中心核には太陽の400万倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが位置しています。ブラックホールを取り囲む高温のガス円盤(降着円盤)から放射される非常に強い電波は「いて座A*」という電波天体として観測され、その強度は刻々と変化しています。
慶應義塾大学や国立天文台の研究者らから成る研究チームは、2017年10月にアルマ望遠鏡で観測された10日間にわたるいて座A*の電波強度の変化を詳しく調べました。その結果、いて座A*の電波強度は、1時間以上かけてゆっくりと変化しながらも時折、瞬きのような30分程度の短い周期の変動を見せることが分かりました。この30分という周期は、降着円盤の最も内側、つまりブラックホールのごく近傍での回転周期に相当します。研究チームは、降着円盤内に熱いガスの塊が発生し、それが回転することで周期的な強度変化が起こっていると解釈しています。
2019年にブラックホール・シャドウの画像が公開された銀河M87の中心核と共に、いて座A*は、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)の主要な観測対象です。今回の結果が示すように、いて座A*はその電波強度が刻々と変化するため、長い観測時間を必要とするEHTでのブラックホール・シャドウの撮像は容易ではないと、研究チームは考えています。一方、今後も電波の強度変化を継続的に観測することで、周囲のガスがブラックホールを周回しながら吸い込まれていく様子を描き出すことが期待できます。
この研究成果は、Y. Iwata et al. “Time Variations in the Flux Density of Sgr A* at 230 GHz Detected with ALMA”として、2020年4月2日付けで米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載されました。