2020-04-30 国立天文台
アルマ望遠鏡が新しい周波数帯を観測することを可能にする「バンド2」受信機の開発に関する正式な契約が交わされ、開発が正式に開始されることになりました。
アルマ望遠鏡は、宇宙からやってくる電波を10の周波数帯に分けて受信します。各周波数帯(バンド1からバンド10)に対しては、それぞれを受信するための専用の受信機があり、アルマ望遠鏡の各アンテナはこれら10バンド分の受信機を搭載することができます。アルマ望遠鏡の受信機は各国が分担して開発・製造し、現在バンド3からバンド10までは観測に使用されています。また、バンド1は開発が進められています。今回バンド2受信機の開発が正式に開始されることで、プロジェクトが当初予定していたすべての周波数帯をカバーできることになります。なお、バンド2受信機は周波数67~90 GHz(波長2.6mm~4.5mm)の電波を観測します。
バンド2プロトタイプ受信機の試験が成功裏に終了したのち、アルマ望遠鏡の最高意思決定機関であるアルマ評議会は、バンド2受信機の初期生産段階への移行を承認しました。初期生産段階では、6台の受信機を開発します。初期生産された受信機の性能と量産・品質管理体制の審査が行われたのちに、アンテナ全66台に受信機を搭載するための量産段階に移行します。
バンド2受信機が実現し、すべての受信周波数帯がカバーできるようになれば、アルマ望遠鏡の観測能力はさらに高まります。バンド2の周波数帯でも様々な観測が想定されており、その一例として星間物質における重水素化合物の観測が挙げられます。星間ガスにはごくわずかに重水素を含む物質が含まれており、これらがバンド2の周波数帯で電波を出すのです。重水素の含有率は、例えば地球上に存在する水の起源を探るうえで重要な指標になると考えられています。また、非常に遠方にある銀河の一酸化炭素分子が放つ電波の観測にもバンド2受信機が活躍します。遠方天体からの電波は宇宙膨張による赤方偏移によって周波数が低くなるため、現在のアルマ望遠鏡受信機よりも低い周波数をカバーするバンド2受信機では、より遠くの天体を観測することができるのです。
バンド2受信機の開発は、欧州にある複数の研究機関(オランダ・Netherlands Research School for Astronomy [NOVA]、スウェーデン・チャルマース工科大学、イタリア・National Institute for Astrophysics [INAF])が共同して主導します。国立天文台は、アルマ将来開発プログラムへの東アジアからの貢献として、受信機に電波を導く「受信機光学系」の製造と試験を担当します。また、米国立電波天文台とチリ大学も受信機部品の一部の開発で参加します。
Credit: ESO / Y. Beletsky