気候変動予測に貢献、「千葉セクション」の有孔虫化石~約80万年前の海洋環境の変遷が明らかに~

スポンサー
スポンサー
スポンサー

2019-11-29  国立極地研究所,茨城大学,国立科学博物館

国立極地研究所(所長:中村卓司)の羽田裕貴 特任研究員、茨城大学(学長:三村みむら信男のぶお)の岡田誠 教授らの研究グループは、千葉県市原市の地層千葉複合セクション(「千葉セクション」およびその周辺地層:注1、図1)を対象として、地層に含まれる有孔虫(注2、図2)の化石の酸素同位体比分析を行い、千葉複合セクションが堆積した約80万年前から75万年前の海洋環境の変化を詳細に調べました。その結果、千葉複合セクションの周辺海域では、数万年の時間スケールで繰り返す氷期—間氷期サイクル(注3)に相当する変化に加えて、数千年の時間スケールで繰り返される極端な水温の変化があったことが明らかになりました。さらに北大西洋の深海底堆積物から報告されている同時代の環境記録との比較から、その原因が大西洋の深層水循環が変化したことであることを明らかにしました。これは、大西洋で起こる気候変動が、遠く離れた北西太平洋の海洋環境に大きな影響を与える可能性を示しています。さらに、この成果から、千葉複合セクションの中心である「千葉セクション」が、地層堆積当時の海洋環境を知るための非常に重要な地層であり、前期—中期更新世境界の国際標準模式地(注4)に相応しい特徴をもっていることが示されました。

この成果は、Earth and Planetary Science Letters誌に掲載されました。

研究の背景

過去に起きた気候変動を調べ、地球環境が変化するメカニズムを明らかにすることは、将来の気候変動を予測する上で非常に重要です。本研究が対象にする時代は、「海洋酸素同位体ステージ19(注5)」と呼ばれる間氷期(温暖期)である約79万年前から76万年前に相当します。この間氷期と、約1万年前に始まった現在の間氷期とでは、地球の気候をリズミカルに変化させる要因とみなされる地球の軌道や自転軸に関するパラメータ(注6)が過去80万年間で最もよく似ています。そのため、海洋酸素同位体ステージ19は、地球本来の気候変動サイクルと人為的な地球温暖化を比較するための重要な地質時代と考えられています。

また、千葉複合セクションが位置する北西太平洋では、表層海流である黒潮が北太平洋亜熱帯海域から中緯度海域へ大量の暖かい海水を運んでいます(図1(a)、(b))。そのため、北西太平洋で起こる海洋環境の変化は、東アジアだけでなく、地球規模の気候に大きな影響を与えています。しかし、海洋酸素同位体ステージ19における北西太平洋の環境変動の詳細はまだ明らかになっていません。

研究の内容

研究チームは、2015年から2019年にかけて採取した岩石試料から産出する、生息水深の異なる4種類の有孔虫化石を用いて、30年から540年の時間分解能で酸素同位体比分析を行いました。酸素同位体値が小さいと水温が高く、大きいと水温が低いことを示します。海の底に生息していた有孔虫、ならびに海中を浮遊していた有孔虫の化石の酸素同位体値を調べた結果、千葉複合セクションの周辺海域では、79万2千年前から78万6千年前の寒冷期(氷期)から温暖期(間氷期)への気候変遷期と、77万4千年前から75万6千年前の温暖期から寒冷期への気候変遷期に、約3千年から6千年の時間スケールで繰り返される極端な水温の変化があったことが明らかになりました。この水温変化は最大で約7℃に達し、現在の千葉県沖と秋田県沖の表層水温差に相当します。さらに、北大西洋の深海底堆積物から報告されている深層水循環(注7)の強さおよび海洋への氷山流出の指標と、本研究で得られた千葉複合セクションの酸素同位体記録を比較しました(図3)。その結果、千葉複合セクションでの水温低下のタイミングは、北大西洋への氷山の流出と深層水循環の衰退のタイミングによく対比できることが明らかになりました。このことから、北半球の氷床の融解がもたらす大西洋の深層水循環の衰退が、大気循環の変化を介して黒潮の北限を南下させることで千葉複合セクション周辺海域の水温が低下したと考えられました(図4)。この結果は、北大西洋で起こる海洋変化が、遠く離れた北西太平洋の海洋環境を大きく変化させる可能性を示しています。

今後の展望

本研究により、約79万年前から76万年前の間氷期である「海洋酸素同位体ステージ19」に起きた気候変動を解き明かすための重要な知見が得られました。今回得られた知見をベースにすれば、海洋酸素同位体ステージ19とよく似た地球の軌道要素を持つ現在の温暖期において、人為的な温室効果ガスの過剰排出が現在の地球温暖化にどの程度寄与しているのかを正しく評価し、将来の気候変動予測を改善できると期待されます。今後は、他の海洋微生物の化石や花粉化石の詳細な分析を行うことで、海洋酸素同位体ステージ19での環境変動史の解明を進めます。

注1:千葉複合セクションは、その中心となる「千葉セクション」を含む養老川セクション(35˚17.41’N; 140˚8.48’E)のほかに、養老田淵セクション(35˚17.41’N; 140˚8.49’E)、柳川セクション(35˚17.15’N; 140˚7.88’E)、浦白セクション(35˚16.85’N; 140˚7.47’E)、小草畑セクション(35˚18.52’N; 140˚11.89’E)からなる(図1)。

注2:炭酸カルシウムの殻をもつ海洋微生物の一種。化石として地層中に保存される炭酸カルシウムの殻の酸素同位体比(酸素18と酸素16の比)を測ることで、有孔虫が生きていた当時の海水温や極域の氷床量を知ることができる。

注3:地球の気候が、寒冷な時期(氷期)と暖かい時期(間氷期)を繰り返してきたこと。過去約80万年間は約10万年周期で氷期と間氷期を繰り返してきたが、それ以前は4万年周期だったことが知られている。

注4:正式には、「Global Boundary Stratotype Section and Point(国際境界模式層断面とポイント、GSSP)」。重要な地層境界に対して、模式地となる場所が世界で1か所選ばれる。第四紀更新世前期・中期境界、最終候補地が、千葉県市原市の「千葉セクション」である。千葉セクションが選定されれば、日本初のGSSPとなる。

注5:過去80万年間には9回の間氷期(暖かい時期)が存在し、海洋酸素同位体ステージ19は現在から数えて9番目に古い間氷期。約1万年前から現在は海洋酸素同位体ステージ1と呼ばれる間氷期である。

注6:太陽の周りを回る地球の公転軌道の楕円の形状や、地球の自転軸の向く方向および傾斜角などを指す。数万年の周期で変化し、地球の気候をリズミカルに変化させる要因と考えられている。

注7:北大西洋では、冷たく塩分の高い表層海水が海洋深層に沈み込むことによって、世界中の海洋に熱を運ぶ役割を持つ地球規模の海洋循環を駆動してる。

発表論文

掲載誌:Earth and Planetary Science Letters
タイトル:Millennial-scale hydrographic changes in the northwestern Pacific during marine isotope stage 19: teleconnections with ice melt in the North Atlantic
著者:
 羽田裕貴(国立極地研究所 地圏研究グループ 特任研究員/研究当時:茨城大学大学院理工学研究科 博士後期課程)
 岡田 誠(茨城大学理学部 教授)
  久保田好美(国立科学博物館 地学研究部 環境変動史研究グループ 研究員)
  菅沼悠介(国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授/総合研究大学院大学 極域科学専攻 准教授)
URL:https://doi.org/10.1016/j.epsl.2019.115936
DOI:10.1016/j.epsl.2019.115936
論文公開日:日本時間 令和元年11月18日

研究サポート

本研究はJSPS科研費(16H04068、15K13581、17H06321、19H00710)の助成を受けて実施されました。また、国立極地研究所のプロジェクト研究費(KP306)、日本科学財団の笹川科学研究助成(29-625)、東京地学協会の調査・研究等助成金および国立科学博物館のプロジェクト研究費(「微古生物リファレンスセンターの再構築」、「化学層序」)の支援を受けました。

図1:(a)北太平洋の海流と風系。(b)日本周辺の年平均表層海水温、塩分と海流、風系。(c)房総半島の簡略化した地質図と千葉複合セクションの位置。

図2:酸素同位体比分析に使用した有孔虫化石。(a)底生有孔虫Cibicides aknerianus、(b)底生有孔虫Bolivinita quadrilatera、(c)海洋の亜表層に生息する浮遊性有孔虫Globorotalia inflata、(d)海洋の表層に生息するGlobigerina bulloides。白いスケールバーは100μm。

図3:千葉複合セクションの有孔虫化石の酸素同位体記録と北大西洋の同時代の環境指標。(a)海底に生息していた底生有孔虫化石の酸素同位体記録。(b)海洋の100mより深い水深に生息していた浮遊性有孔虫化石の酸素同位体記録。(c)海洋の100mより浅い水深に生息していた浮遊性有孔虫の酸素同位体記録。酸素同位体値が小さいと水温が高く、大きいと水温が低い。約80万年前から75万年前の氷期—間氷期サイクルに対応した長期的な変化に加えて、数千年の短期的な水温変化があったことがわかる。(d)底生有孔虫と表層浮遊性有孔虫の酸素同位体記録から計算した海洋表層と底層の水温差。(e)北大西洋で掘削された海洋堆積物コア(紫:サイト980、水色:サイトU1385、図1参照)に記録されている深層水循環の強さ、(f)氷山・淡水の流出の指標。氷山の流出に伴われる深層水循環の衰退のタイミングで、千葉複合セクションの酸素同位体値が大きく(水温が低く)なっているのがわかる。

図4:千葉複合セクションが堆積した時代の日本周辺の海流と大気循環の変化の模式図。(a)大西洋の深層水循環が活発な状態。黒潮の北限は房総半島沖に位置する。(b)大西洋の深層水循環が衰退した状態。深層水循環が弱いと北半球の海流と大気循環が南に移動し、房総半島沖に黒潮の暖かい海水が届きにくくなると考えられる。

お問い合わせ先

研究内容について
国立極地研究所 地圏研究グループ 特任研究員 羽田裕貴(はねだゆうき)

報道について
国立極地研究所 広報室

タイトルとURLをコピーしました