銀河系最大級のゆりかご はくちょう座で見つけた星のたまごたち

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2019-11-21 国立天文台

[概要]
はくちょう座方向、約5000光年の距離に位置する巨大分子雲複合体は、銀河系最大級の星形成活動をともなう領域の一つとして知られています。 その中心部には多くの若い星々の集団が存在しています。この領域では、 過去の観測によって太陽の数百万倍もの質量をもつ大量の分子ガスの存在が明らかにされており、 現在も非常に活発な星形成活動がおこなわれています。 分子ガスから星団の形成にいたる進化のプロセスを明らかにすることは天文学における最大の課題の一つですが、 はくちょう座領域はその星団形成の現場を調べる上で、非常に重要な天体です。 波長2.7mmの電波を放射する一酸化炭素の微量な同位体分子C18Oの観測は、 星団を構成している大質量星の母体となる高密度な分子ガス雲(分子雲コア)を調べるための最も一般的な方法のひとつです。 しかし、はくちょう座領域における観測は、その領域の広さと観測装置の感度不足によってこれまで困難とされてきました。 2014年に野辺山45m電波望遠鏡に搭載され、これまでの観測装置では不可能だった広視野、高感度な観測を可能にしたFOREST受信機を用いることによって、 はくちょう座領域の大規模な分子雲コアの探査観測が実現できたのです。 東京大学の竹腰達哉特任助教、宇宙科学研究所の山岸光義研究員を中心とした研究グループは、本研究の結果、174個のコンパクトなC18O天体、 すなわち星のたまごとなる分子雲コアを検出することに成功しました。これらの分子雲コアは自己重力で強く束縛されており、 今後大質量星や星団に進化することが予想されます。 また、これらの検出された分子雲コアの質量の分布の傾向が、我々の銀河における星で知られているものと一致していました。 これは、はくちょう座のような大規模な巨大分子雲の星形成活動によって、銀河における星々の大部分が生み出されているという説を支持するものです。
この結果は、2019年10月1日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。

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図:野辺山45m電波望遠鏡で得られたはくちょう座X領域の電波画像。赤が12CO, 緑が13CO, 青がC18O分子輝線の強度を示している。

1.研究背景:
我々の銀河を構成する星々は、主に水素分子ガスにて構成されるガスの塊である「分子雲コア」と呼ばれる天体が、 重力収縮することによって形成されることが知られています。また、大質量星と呼ばれる重い星の形成は、 多数の中小質量星を含む星団を同時に形成することがわかっています。このように、大質量星を含む星団は、非常に多数の星を効率よく形成することから、 銀河における主要な星の供給源であると考えられています。つまり、そのような星団の影響は、我々が見上げる星々の質量における個数分布、 すなわち質量関数に反映されていると考えられています。 これまで、太陽系の近傍にある中小質量星形成領域の電波や可視光での観測によって、多数の分子雲コアが発見されています。 これらの観測で発見された分子雲コアは、典型的には1光年以下の大きさと太陽と同程度の質量の天体であり、 我々が見上げる星々の生まれた時の個数分布、つまり初期質量関数と非常によく似ていることが指摘されています。 一方で、銀河の星々の重要な供給源である星団形成領域における分子雲コアは、天体までの距離が中小質量星形成領域と比べて遠いために観測が難しく、 その物理的性質はこれまであまり明らかにされていませんでした。

2.研究内容・成果
そこで研究グループでは、野辺山45m望遠鏡とその主力観測装置であるFOREST受信機を用いて、 「はくちょう座X巨大分子雲複合体」をターゲットとした大規模な掃天観測を実施しました。この領域は、 銀河系最大級の星形成領域であるとともに、太陽系から最も近傍にある大規模な星団形成の現場として知られており、 分子雲コアを電波望遠鏡で検出するために最適な天体です。 これまでに、低温分子ガスの指標として代表的な4つの分子輝線(一酸化炭素とその同位体分子である12CO, 13CO, C18Oとシアン化物 CN; 波長2.7 mm)の観測を行い、 9平方度もの広大な天域に対して、過去に例のない高感度での掃天観測を実現しました。観測された分子輝線のうち、 一酸化炭素の同位体分子であるC18O分子は、分子雲コアを効率的に反映することが知られています。 そのため本研究では、C18O分子の観測データを用いて分子雲コアの同定を行い、その物理的性質を調査しました。 観測データの解析の結果、撮像領域から174個もの分子雲コアを同定することに成功しました。 これは、1つの星団形成領域における分子雲コアのサンプルとしては、 最大級のものです。同時に天体内部の解析から、ほとんどの分子雲コアが自己重力によって強く束縛されていることがわかりました。 これは、検出された分子雲コアの多くが大質量星や星団に進化することを示しています。 さらに、本研究で検出された分子雲コアの質量関数は、小質量星も含んだ銀河系の星で得られている初期質量関数の特徴と一致することがわかました(図2)。 これは、星団形成領域での大質量星や星団の活動が、銀河における主要な星の供給源であるという説を支持する重要な証拠であるといえます。

fig1-512
図1:
(左)野辺山宇宙電波観測所で撮影された星景写真(撮影:依田貴臣)での本研究でのはくちょう座観測領域。
(右)野辺山45m電波望遠鏡で得られた、9平方度のはくちょう座X領域の電波画像。
上段:3色電波画像。赤が12CO, 緑が13CO, 青がC18O分子輝線の強度を示している。
下段:活発な星形成領域(左)と比較的穏やかな星形成領域での(右)の拡大図。
本研究で同定された分子雲コアを青線の楕円で示している。

3.今後の展望
本研究では、銀河系最大級の星団形成活動を示すはくちょう座分子雲複合体において、その星形成の母体となる分子雲コアを多数検出することに成功しました。 本研究で用いたFOREST受信機は、天の川銀河面の分子雲サーベイプロジェクトFUGINや近傍銀河探査プロジェクトCOMINGをはじめとする、 大規模な掃天観測で活躍していますが、今回の観測結果も、 野辺山45m電波望遠鏡の集光力と、世界最先端の観測システムであるFOREST受信機を組み合わせることで、初めて実現することができました。 今後、より高感度な観測を行うことで、さらに低質量の分子雲コアを検出できれば、星団形成領域における分子雲コアと、 天の川銀河に属する星々の統計的性質との関連を精密に調査できると期待されます。

fig2
図2:C18O分子で観測された分子雲コア質量の累積の個数分布(青線)。赤および緑の鎖線は、 それぞれ大質量側と小質量側で求められた個数分布のモデル。銀河系内の星の質量でも同様の傾きで2成分の分布が得られている。

4.論文・研究メンバー
本研究は10月1日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。
論文の題目、および著者と当時の所属は以下の通りです。

論文名:
“Nobeyama 45 m Cygnus-X CO Survey. II Physical Properties of C18O Clumps”,
The Astrophysical Journal, 883:156 (14pp), 2019
doi: 10.3847/1538-4357/ab3a55

研究メンバー:
竹腰達哉(東京大学大学院理学系研究科、電気通信大学)
藤田真司(名古屋大学)
西村淳(大阪府立大学)
谷口琴美(University of Virginia、国立天文台・野辺山宇宙電波観測所)
山岸光義(宇宙科学研究所・宇宙航空研究開発機構)
松尾光洋(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所)
大橋聡史(理化学研究所)
徳田一起(大阪府立大学、国立天文台)
南谷哲宏(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所、総合研究大学院大学)

また、本研究に利用された観測データは、2018年3月2日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載されたものです。
論文の題目、および著者と当時の所属は以下の通りです。

論文名:
“Nobeyama 45 m Cygnus-X CO Survey. I. Photodissociation of Molecules Revealed by the Unbiased Large-scale CN and C18O Maps”,
The Astrophysical Journal Supplement Series, 235:9 (7pp), 2018
doi: 10.3847/1538-4365/aaab4b

研究メンバー:
山岸光義(宇宙科学研究所・宇宙航空研究開発機構)
西村淳(名古屋大学)
藤田真司(名古屋大学)
竹腰達哉(東京大学大学院理学系研究科)
松尾光洋(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所)
南谷哲宏(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所、総合研究大学院大学)
谷口琴美(国立天文台・野辺山宇宙電波観測所、総合研究大学院大学)
徳田一起(大阪府立大学、国立天文台)
島尻芳人 (CEA/Saclay)

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