高温でも丈夫で、加工にも溶接にも適したバナジウム合金の開発に成功
2018/06/27 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
将来の核融合炉には、発電するための重要な機器であるブランケットが取り付けられます。プラズマはドーナツ型の真空容器の中で、磁石の力によって閉じ込められますが、ブランケットはそのプラズマにギリギリ触れないところに、そしてプラズマを取り囲むように真空容器の内側に配置されます。ブランケットはプラズマ中の核融合反応で発生する高速の粒子を吸収することで、熱を発して高温になります。そして、ブランケットに通した配管に冷却材を流して熱を外に取り出します。その熱でお湯を沸かして水蒸気をつくり、蒸気タービンを回して発電します。この時、ブランケットは、700~800度の高温になることが想定されています。このため、長期間の安定した発電を実現するには、高温でも丈夫な材料を新たに開発し、その材料を用いてブランケットを製作することが必要です。
ブランケットを造るための新素材として有望視されているのが、原子番号23のバナジウムを主成分とした合金です。この合金は、バナジウム92%に、クロムとチタンをそれぞれ4%ずつ加えたものです。バナジウムは、天然に存在する92個の元素の中で、地上の岩石に含まれる濃度が20番目に高く、ニッケルや銅よりも資源が豊富で、身近なところでは工具用の鉄鋼やメガネフレーム用のチタン合金の成分の一つとして使用されています。また、地下から掘り出される石油中にも含まれていて、石油を燃やした後に残る灰から回収することもできます。
バナジウム合金は、一般的に用いられている耐熱鋼に比べ、高温でも高い強度を持つなど、核融合炉のブランケットとして求められる様々な特性を兼ね備えています。これまでにも、核融合炉の材料の候補として、アメリカなど様々な国でバナジウム合金の開発が行われてきましたが、従来の合金には、配管に加工する時に割れたり、配管同士の接続のために溶接した後に割れやすくなったりするという問題がありました。実際にバナジウム合金で核融合炉のような大型構造物を建設するためには、こうした問題を克服しなければなりません。
バナジウム合金の加工時や溶接後の割れの原因になるのは、空気や原料から混入する炭素、窒素、酸素などの不純物です。そこで、原料の精製条件を見直し、最適な条件を選ぶことによって、原料由来の不純物を除去することができました。さらに、空気からの不純物の混入を防ぐために、真空又は不活性ガス(化学反応が起こらない気体)の中で、合金を製造しました。その結果、高純度なバナジウム合金NIFS-HEAT-2(ニフス・ヒート・ツー)の開発に成功しました。この高純度化により、延性(力がかかると引き延ばされることで割れを防ぐ性質)が格段に向上し、加工時や溶接後の割れという問題を克服することができました。
一方、一般的に金属の高純度化は強度の低下を招くことがあり、NIFS-HEAT-2でも同様の懸念がありましたが、核融合炉のブランケットで想定される条件で十分な強度が維持できることを、次のような強度試験で確認することができました。強度試験では、核融合炉の条件を模擬し、材料を800度の高温にして一定の負荷をかけ続けます。材料は徐々に伸びて変形し、やがてちぎれてしまいますが、それまでの時間を測定した結果、核融合炉のブランケットで想定される1,000気圧(1平方ミリメートル当たり10.3kgの重さがかかることに相当)以下の負荷では、高純度化してもちぎれるまでの時間は変わらず、強度が維持できることが分かりました。
以上のように、バナジウム合金を高純度化することで、加工や溶接を行っても割れにくくできると同時に、高温での強度も維持できることを明らかにしました。これにより、高温での長時間運転が可能なブランケットを製作できる見通しを世界で初めて得ることができました。今後は、ブランケットに通した配管を他の材料でできた熱交換器等に接続するために必要な、異なる材料の接合の研究を進める予定です。
以上
図1 ヘリカル型核融合炉とその構造
ブランケットはオレンジ色の部分で、総重量が1,000トンを超える大型構造物です。核融合反応が起こっているプラズマから出てくる高速の粒子を吸収し、その運動エネルギーを熱に変換します。
図2 バナジウム合金NIFS-HEAT-2に一定の負荷をかけ続けてちぎれるまでの時間(破断寿命)を測定し、不純物の多いアメリカ製バナジウム合金US832665の試験結果と比較しました。1,500気圧以上の負荷では高純度化で強度が低下しますが、ブランケット条件の1,000気圧以下では、強度を維持できることが確認できました。