実用化に向けたスケールアップ検証と人材育成の場を提供
2021-08-23 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDOは「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」の一環で、政府の掲げるバイオ戦略に基づいて、関東圏に産学でのバイオ生産実証を推進する拠点を形成するとともに、バイオものづくりに携わる人材を育成する事業を開始します。
本事業では微生物機能を活用した物質生産の取り組みにおいて、実験室レベルの生産性を、商業レベルを想定した環境で再現するスケールアップ検証の場を提供します。同拠点を企業や大学、研究機関などが基礎研究と事業化のギャップを埋める足がかりとすることで、商用生産まで到達するバイオ由来製品の増加を目指します。また2022年度以降、NEDOは同拠点を活用したバイオ生産実証を公募し、委託もしくは助成する事業スキームを予定しています。
これにより、バイオ生産に取り組む企業や大学、研究機関などの新規参入とさらなる発展を促進し、バイオ産業の裾野拡大や炭素循環型社会の実現に貢献する製品の創出を後押しします。
1.概要
微生物や植物などの生物を用いた物質生産(バイオものづくり)は、微生物育種や発酵技術、遺伝子組み換え植物による物質生産技術などに強みを持つ日本が競争力を発揮できる分野です。さらなる発展が期待される一方、これらの技術は現場担当者の経験に基づいた“匠の技”とも言われ、製造拠点の海外進出や熟練担当者の高年齢化に伴い、技術の継承が課題となっています。このため熟練者の暗黙知をデジタル化(形式知化)するなど、バイオとデジタルの融合を基盤とする環境・技術・人材の整備が求められています。そこで、政府の統合イノベーション戦略推進会議は2020年にまとめた「バイオ戦略2020」※1で、バイオとデジタルの融合のための基盤整備と、世界の人材・投資を引きつける国際拠点を形成するなどの集約型・ネットワーク化への移行を目指して「グローバル・バイオコミュニティ、地域バイオコミュニティの形成」を基盤的施策の一つに位置づけました。これを踏まえて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は今般、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」※2の一環として、関東圏における産学でのバイオ生産実証を推進する拠点形成や、バイオものづくり人材の育成を行う事業を開始することとしました。
本事業は、微生物機能を活用した物質生産に関して、基礎研究と事業化の間に難関や障壁として存在する“死の谷”を越えて、商用生産へ到達できるバイオ由来製品を増やすことを目的としています。NEDOは、企業や大学、研究機関などが開発した有用な生産候補株(スマートセル)の商用生産を想定したスケールアップ検証の場として同拠点を提供し、2026年度まで整備を継続する予定です。加えて、2022年度以降は段階的に同拠点を活用したバイオ生産実証を行う企業・大学・研究機関などを公募し、委託もしくは助成する事業スキームを予定しています。また、NEDOは関東圏でのバイオコミュニティ形成に向けて設立が進められている「Greater Tokyo Biocommunity(GTB)協議会(仮称)」※3と連携し、バイオ生産実証拠点の利用を希望するユーザー企業などへの情報提供を進める予定です。
これにより、バイオ生産に携わる既存企業、大学、研究機関などのさらなる発展と新規参入を促進し、バイオ産業の裾野拡大や炭素循環型社会の実現に貢献する製品の創出を目指します。
2.採択テーマ
採択テーマ名 | 実施予定先 |
---|---|
スマートセル時代のバイオ生産 プロセス実用化を促進させるための バイオファウンドリ拠点の確立 |
Green Earth Institute株式会社 協和発酵バイオ株式会社 |
3.実施内容
(1)バイオ生産実証拠点(バイオファウンドリ※4拠点)の整備
30Lから300Lまでの発酵槽を備える既存設備(三井化学株式会社茂原分工場内 千葉県茂原市)に加え、この設備に隣接して最大3000Lの発酵槽を含む発酵設備や前処理・糖化設備、精製設備を含む一連のパイロットスケールのバイオ生産設備を新設します。
(2)バイオファウンドリ機能の検証
利用者の菌株や技術情報の機密保持を考慮した運用ルールを整備するとともに、各種法令・規制などを遵守する体制を構築し、設備を安全かつ効率的に稼働させます。さらに、利用者の利便性を高めるため、事業化に向けて有用なサービスを提供します。
(3)バイオファウンドリ機能のための技術開発/技術適用による機能拡張
低コストで省エネなバイオ生産プロセスの開発を可能にすべく、以下のような機能の向上のための技術開発を行います。
●短期間・低コストで、最適条件決定・スケールアップを可能とする手法・システムの開発
●マイクロ波化学株式会社の協力を得て、バイオ生産プロセスの低コスト化・省エネ化・低炭素化を実現するための技術開発
●バイオ生産プロセスに適合したライフサイクルアセスメント(LCA)によるCO2排出量算出モデルの構築
●バイオマス残さの短時間・高効率の前処理技術開発
(4)バイオ生産実証拠点での実証テーマの研究支援
項目(3)であげた機能や生産ターゲット物質のサンプル試作などの検証のため、生産実証テストを実施します。生産実証テストでは、すでに実験室環境で実用化に近いレベルの性能を示している生産菌を使用する予定です。
(5)バイオものづくり人材の育成
パイロットスケールのバイオ生産設備を用いた実習や、本事業で開発する技術に関する研修プログラムを作成し、日本の産業界で実際にものづくりを担う人材に向けて研修を実施します。
【注釈】
- ※1 バイオ戦略2020
- バイオ戦略は「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標に、持続可能性、循環型社会、健康(ウェルネス)をキーワードに産業界、大学、自治体などの参画も得て推進しているイノベーション戦略です。
- ※2 カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
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- 研究開発項目2:生産プロセスのバイオファウンドリ基盤技術開発
- 事業概要:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
- 事業期間:2021年度から2026年度までの最大6年間(最終年度は2月末まで)。
- ※3 Greater Tokyo Biocommunity(GTB)協議会(仮称)
- 国際的なバイオコミュニティ形成に向けて、一般財団法人バイオインダストリー協会(JBA)が事務局となって設立する産学官連携のけん引役。東京都心から100キロメートル圏内の川崎、横浜、千葉、つくばなどに拠点を持つ各機関のネットワークを構築します。
- ※4 バイオファウンドリ
- 培養・運搬・受託製造などのバイオ生産システムを指します。詳細は「バイオ戦略 2019」を参照ください。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室 担当:林、薩摩
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、坂本、鈴木(美)、橋本