多波長観測が描き出した、銀河団の衝突による超高温ガス

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2020-11-12  (ハワイ現地時間) 国立天文台
最終更新日:2020年11月12日

銀河団の大衝突によって、周囲のガスが4億度もの超高温に加熱されている様子が、可視光、X線、電波を用いた多波長観測で明らかにされました。宇宙の構造形成に関わる暗黒物質 (ダークマター) の衝突・合体の様子を、銀河団ガスの温度・密度構造に着目して調べた研究成果です。
銀河団には、何百、何千個もの銀河と共に、高温の銀河団ガスとダークマターが存在します。この数千万度の高温ガスは、銀河団同士の大規模な衝突に伴って加熱され、数億度の超高温ガスになることが理論的な計算から予想されていますが、そのような超高温ガスを実際に観測することは、最先端の X線望遠鏡をもってしても困難です。そこで、すばる望遠鏡 (HSC-SSP;注1) 、XMM-ニュートン X線天文学衛星 (XXL;注2) 、グリーンバンク電波望遠鏡 (GBT;注3) からなる国際研究チームは、衝突を起こしている銀河団 HSC J023336-053022 (XLSSC 105) を、可視光、X線、電波の波長で詳細に調べました (図1)。

多波長観測が描き出した、銀河団の衝突による超高温ガス

図1:銀河団 HSC J023336-053022 (XLSSC 105) の合成画像。背景は Hyper Suprime-Cam の画像、その上に重ねられている青色はダークマター、緑色は X線で観測された高温ガス、赤色は電波観測から得られた高温・高圧のガスを示しています。HSC J023336-053022 は、私たちからくじら座の方角に 40 億光年の距離にあります。 (クレジット:GBT/NSF/NAOJ/HSC-SSP/ESA/XMM-Newton/XXL survey consortium)


図1の背景は、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) で得られた可視光の画像で、オレンジ色の銀河が多数写っています。銀河の形はダークマターの重力によってわずかに歪むため、遠い銀河の形状を精密に測定することによってダークマターの分布 (青色) が得られます (注4)。HSC J023336-053022 のダークマターは、二つの塊に分かれていて、銀河団のなかで大きな衝突が起こっていることが分かります。銀河もこの二つのダークマターの塊に集中して分布しています。このようなダークマター同士の衝突が、銀河団のような宇宙の構造形成に関わっていると考えられています。
一方、XMM-ニュートンによる X線の観測では、高温の密集した銀河団ガスが捉えられます (図1の緑色)。GBT電波望遠鏡の観測からは、X線が捉えた高温のガスと、X線では見えない超高温の希薄なガスの両方を調べることができます (図1の赤色) (注5)。GBT と XMM-ニュートンのデータを合わせることによって、研究チームは超高温ガスの空間分布を調べることに成功しました。その結果、銀河団の衝突により、約4千万度の高温ガスが、4億度もの超高温ガスにまで加熱されていることを突き止めました。これは、図1で、二つのダークマター周辺にあるガスの色が緑色から赤色に色合いを変えながら変化している様子で示されています。銀河団の衝突により膨大なエネルギーが放出される様子が、これまでにない高い空間分解能で明らかになりました。
銀河団の超高温ガスは X線波長 (エネルギー) でも捉えることが難しいのですが、研究チームは、口径 100 メートルの電波望遠鏡に搭載した最新の受信機 MUSTANG-2 による観測を X線観測のデータと組み合わせることによって、宇宙の構造形成の躍動的な姿をあらわにしました。電波と X線の観測が銀河団ガスの物理状態を明らかにする一方で、可視光で観測される銀河の分布からは、銀河団の衝突の様子が分かります。「広視野で高感度の HSC-SSP は、衝突を起こしている稀な銀河団を見つけるのに最適です。HSC-SSP が見つけた銀河団に対して X線と電波の追観測を行い、重力レンズ効果で測定された質量と比較することによって、宇宙の構造形成をより詳細に理解したいと考えています」と、本研究論文主著者の岡部信広博士 (広島大学) は、展望を語っています。
本研究成果は、英国天文学専門誌『王立天文学会月報』 (2020年9月9日付) に掲載されました (Okabe, Dicker, Eckert et al. “Active gas features in three HSC-SSP CAMIRA clusters revealed by high angular resolution analysis of MUSTANG-2 SZE and XXL X-ray observations“)。
(注1) HSC-SSP は、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム (HSC) 」を使った大規模な戦略枠観測プログラムです。HSC-SSP には、日本、台湾、プリンストン大学の研究者が参加しています。
(注2) XXL は、国際的な大規模探査観測プロジェクトです。欧州宇宙機構の X線天文学衛星 XMM-ニュートンを用いて二つの 25 平方度の領域が観測されています。
(注3) グリーンバンク望遠鏡は、米国科学財団 (NSF) が所有し、米国北東部大学連合 (AUI) が運営する、口径 100 メートルの電波望遠鏡です。本研究では、MUSTANG-2 受信機が使用されています。
(注4) ダークマターが集中した場所があると、その重力場が 凸レンズのように働くことで、背景にある銀河の発する光の経路が曲げられ、銀河の形が歪められます。これは、アインシュタインの一般相対性理論により予言される効果で、重力レンズ効果と呼ばれます。
(注5) 宇宙マイクロ波背景放射が銀河団ガスを通り抜ける時に起こる「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果」を利用して、電波で超高温ガスの存在を捉えています。

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